物事には表と裏がある。本質を知りたければ「裏を見よ!」ー葛西 龍也ー

通販カタログ「haco.」を創刊し、「ピース バイ ピース コットンプロジェクト」なる企画で、インドの綿農家の環境改善を目指す・・・。フェリシモという一企業に所属しながら、次々に革新的なアイデアをかたちにしているのが、クリエイティブディレクターの葛西龍也氏だ。この9月5日には新しいコンセプトショップ「コエンション」のオープンを控えた葛西氏に、TABI LABO共同代表の久志尚太郎が話しを伺った。

001.
通販は手段のひとつ。別に何をやってもいい。例えば、インドでオーガニックコットンを栽培したり・・・

久志 いきなり自分たちの話で恐縮なんですが、今TABI LABOは大袈裟ではなく、文化を作ろうと思っているんです。かつて雑誌が持っていたようなニオイのある世界観を提供することで、ムーブメントみたいなものを作っていきたい、と。

葛西 いいですねー。僕もそう思っていますよ。

久志 いやいや。僕らから見ると、フェリシモはすでにトレンドを作り、文化を持っている会社なんですね。だから、それをどうやって作っているのかなって。今日はそこから伺いたいです。

葛西  ありがとうございます(笑)。となると、フェリシモという会社の説明をしておいたほうがいいでしょうね。じつはウチは通販会社と思われていますが、企業理念から今現在に至るまで「通販」をコンセプトにしたことは一度もないんです。

久志 意外です。僕もフェリシモ=通販会社というイメージを持っています。

葛西  でしょう? 僕らの理念って「しあわせ社会学の確立と実践」なんです。つまり、幸せな社会ってどうやったらできるかを考えて、アクションに移すこと。ひと言も通販とは言ってない。もちろん、手段として通販を使うことはあるけれど、起点としては「どうしたらお客さんがもっと幸せになるんだろう?」ということ、これだけなんです。

久志 幸せをつくる会社、ですね。そして、葛西さんがその急先鋒?

葛西  とくにそういう意識はありませんが、いろいろ新しいことにチャレンジできるのは、フェリシモが単なる通販会社ではなく、そういった理念に基づいているからでしょうね。「幸せな社会をつくる」ことに貢献できて、きちんとビジネスになっていれば、極論ですが、何をやってもいい会社なんですよ(笑)。

久志 具体的に、これまででもっとも葛西さんが「幸せをつくれた」と思ったお仕事ってなんですか?

葛西  う〜ん、いろいろあるけど「コットンプロジェクト」かな。これはちょうど2008年、ファストファッションが日本に上陸した年に立ち上げたプロジェクトで、現在も継続しています。具体的には、オーガニックコットンでできた製品を基金付きで販売。基金をプールして、インドの綿農家が有機農法へ転換するサポートにあてています。さらに、プロジェクトに参加する農家の方には、児童労働をやめさせるという条件を出して、高等教育への奨学金制度も運営しているんです。

久志 TABI LABOでもインド綿農家の児童労働を取り上げたことがあって、とても反響が大きかったんですが、かなり劣悪な労働環境のようですね?

葛西  そう。僕も初めて知った時は驚きました。ちなみに綿農家の方って自殺がすごく多いんですが、一年間にどれくらいの方が命を絶っているかご存知ですか?

久志 う〜ん、数字までは・・・。

葛西  約3万人です。僕がこの事実を知ったのが2008年。衝撃でしたね。我々が洋服を売れば売るほど綿農家の方が苦しくなり、子どもたちが労働にかり出され、親は自殺にまで追い込まれる・・・そんな仕組みや社会ってどうなんだろうって考えましたね。それこそフェリシモの理念にマッチしない。

久志 そこで「コットンプロジェクト」を立ち上げた。その成果は?

葛西 現在では7,558軒の農家がこのプロジェクトに加入してくれています。これまでに集まった基金は約7,000万円。現地の貨幣価値を考えると、70億円ぐらいの感覚です。そのおかげで、約1500人の子どもたちが労働をやめて学校に戻ることができましたし、364人の高校生が大学に進学しました。

久志 まさに幸せをつくり出していると言えますね。なによりも2008年と、かなり早い時期から活動をしているところもスゴイ。着眼点もさることながら、5、6年で結果が出ているのも素晴らしい!

葛西  ありがとうございます。ただね、あんまり現地で「支援してあげました!」みたいな感じになるのも違うな〜って思っているんです。あるいは国内で「こんなに貢献しているんですよ!」みたいなのも。あくまで基金は、その商品を買っていただいたお客様から預かったもので、それを僕らが運営しているだけですしね。だから、昨年から日本の小学生と向こうの小学生に友達になってもらおう、ということで、手紙を交換したりといった活動も行っているんですよ。そういう流れのほうがウチらしいというか、フェリシモの企業理念に合っていると思うんですね。

久志 企業による社会貢献活動ってPRに使われがちですが、CSR的ではないアプローチで社会貢献しているところが、フェリシモという会社のカラーのような気がします。

002.
クリエイティブディレクターの型にはまったら、それはクリエイティブじゃないですよね?

久志 「幸せをつくる会社」であるフェリシモで、さまざまなクリエイティブを手掛けている葛西さん個人にもフォーカスしてお話を伺いたいと思います。葛西さんはフェリシモのなかで、クリエイティブディレクターとして通販カタログ「haco.」を創刊したり、前述のコットンプロジェクトをディレクションしたり、かなり自由に動いている印象があるんですが・・・。

葛西  そうですね(笑)。ただし、僕自身はいろいろな商品や媒体に関わっていますが、自分だけじゃ何もできない。僕の仕事は企画を考えて、それをいろんな人たちとかたちにしていくことだと思っています。

久志 例えば、コットンプロジェクトなんて、かなり革新的なアイデアだと思うんですが、そういう発想はどこから出てくるのかな〜って。

葛西  「物事の表裏を見る」ですね。例えば、2004年に「haco.」を創刊した当時は、オシャレとされていたファッションアイテムが高価だった時期なんです。シャツ1枚が2万円とか。で、表を見れば、我々も高価なアイテムを販売するところですが、そうじゃなくて「セレクトショップバリューのハーフプライス」を目指したんです。そういったアイテムを求める層は多いんじゃないかって。

久志 あえて価格も追求したわけだ。発想が逆ですね。

葛西  物事に対して対抗して作っていくのは表だけの作業。裏まで見ると、また違うものができるわけです。そもそもクリエイティブディレクターという肩書きも人にそう言われるだけで、全然その実感は持っていません。肩書きにとらわれたら、全然クリエイティブじゃない(笑)。

久志 そういう考え方に至ったのってなぜなんでしょう? というのも、葛西さんはフェリシモという一部上場企業の社員です。普通のそういった方って・・・。

葛西  一部上場企業の社員っぽくない?わかりますよ(笑)。でもね、もともとフェリシモってイノベーティブな企業なんです。今でこそ、eコマースもあって通販は当たり前ですが、1960年代の創業時は、前例がなかった。ハガキだけの時代に「通販やります!」ってかなり過激だったと思うんです。

久志 なるほど、そうかもしれませんね。

葛西  前例がないから、「店舗がないのに商品は卸せない」「お客様と接してないのに販売なんかできるの?」「資金調達は無理」と八方からいじめられたようです(笑)。そのなかで「逆に店舗がないからこそできることもあるのでは?」と考えたことの積み重ねがウチの会社の原点なんです。

久志 例えば?

葛西  ふたつあるんですが、ひとつは「広域の価値集約」。例えば、あるハンカチがあって、それを欲しい人は全国に100人しかいないとします。全国で100人しか欲しくないものって店舗では成り立ちませんよね? でも、店舗のない通販なら、その人たちのニーズを集めて商売ができます。

久志 現在のeコマースに通じる考え方ですね。

葛西  そうです。そして、ふたつめが「未来価値の現在化」。商品を売るだけでなく、その商品があるこんな未来っていいでしょう?っていうのをカタログなどの媒体を通じて、お客様に伝えることができる。これらって、今でこそ当たり前ですが、昔はかなり突拍子もない発想だったんです。

久志 それをやってきたフェリシモだからこそ、今の葛西さんのような突拍子もないアイデアを持っている人が、活きてくる?

葛西  そこまでは言いませんけどね(笑)。

久志 それにしても1960年代当時としては、超最先端なビジネスモデルですよね。実際、今に至るまでカタログビジネスは継続しているし、ひとつの大きな市場となっています。

葛西  それは表の部分ですね。裏を見ると、「ビジネスモデルがよく出来ていたがゆえに、今現在まで通用してしまった」とも考えることができます。僕らは、次のチャレンジをしていかなくちゃいけない。


003.
「コエンション」の価格帯は1,000円〜1,000万円。来店した人に「楽しすぎる!」と言わせてみせる!

久志 葛西さんのおっしゃる「新しいチャレンジ」。そのひとつが、新しくラフォーレ原宿にオープンする店舗「コエンション」ですね。フェリシモはこれまでにリアルな店舗を出店していないんですか?

葛西  一時期、NYの街の真ん中にお店を出していたことはありますが、日本国内のコンセプトショップとしては、これが初に近いんじゃないでしょうか。そもそも通販をやっているウチのような会社がお店という実体が生み出す有限的な要素をどう受け止めるべきなのか、僕にとっては、正直、すごく窮屈に感じられて・・・。

久志 たしかに。フェリシモの、例えば「haco.」のファンの方々がラフォーレ原宿に足を運ぶかというと、数が多くないようにも思います・・・。

葛西  おっしゃる通り。そこで僕が考えたのが、お店で何をやりたいかな〜っていうシンプルなことです。そしたら出て来たワードが「conversation(会話)」「communication(コミュニケーション)」「collaboration(コラボレーション)」と、全部「co〜tion」だったんです。意味的には「co」は一緒、「tion」は行うこと。そこをつないでお店の名前は、「コエンションco&tion」としました。

久志 いい名前です!

葛西  ありがとうございます(笑)。で、そこで何をするかなんですが、その時考えたのが、モノの伝わり方。僕はずっと、ファッションをはじめとするモノが生まれて、いろんな人に伝わっていく過程が、近年になってかなりバランスが悪いな〜って考えていたんです。もともとファッションって、メッセージのあるオートクチュールがあって、そのメッセージをたくさんの人に知ってもらうためにプレタポルテができて・・・っていう流れじゃないですか。でも、今はメッセージのない大量生産品ばかり。

久志 ファッション以外にも当てはまりそうですね。

葛西  モノ全般に言えると思います。優秀なアーティストはいても、それは1です。で、次は大量生産品の100しかない。その間を作れないかと日本中をまわったら、作れる人たちがいたんです!それは日本中のお母さんたちだったんですね。

久志 !?

葛西  つまり、アーティストが作った1点ものを教科書に、日本中のお母さんたちに内職で10点作ってもらうんです。日本には自分でデザインはできないし、販売もできない、でも縫い物は得意という女性がたくさんいる。しかも、彼女たちは育児と家事で働きに出られない。そんな女性に自宅で作ってもらおうと。

久志 なんとなく見えてきましたよ。1と100の間におばちゃんたちがいるわけですね(笑)。

葛西  そう。これアートで考えるとわかりやすいんですが、まずアーティストの原画がある。その次に版画があって、さらに大量生産した印刷ポスターがありますよね?今、「コエンション」がやろうとしているのは、間の版画をお母さんたちに作ってもらうことです。今のファッション業界では、この版画が抜け落ちていると思うんです。

久志 すごい発想ですね。女性の社会進出問題までも盛り込まれている!

葛西  具体的に「コエンション」では、すべての商品を「額」に入れて、美術館のように飾っていきます。原画ですね。もちろん、それも購入できますが、非常に高価です。その下に日本中のお母さんたちが作った、版画がある。オリジナルに忠実に作られたクオリティの高いものです。で、最終的に大量生産できるものは、ポスターとしてカタログで販売します。

久志 ぶっとんだアイデアですが、理にかなっていますし、なによりもおもしろい! お店や流通の概念自体を再構築している印象です。

葛西  まだ全貌は話せませんが、「コエンション」には超有名アーティストの作品も並びます。もちろん、そのメッセージを内包した比較的購入しやすいアイテムも。だから価格帯は1,000円〜1,000万円となっています。

久志 そんなお店見たことないです・・・って、見たことのないお店を作ろうとしているんですよね(笑)。

葛西  そう、お店に来た人に「こんなに楽しいお店はない!」って言わせたいんです。ただ洋服を買いにくるだけの場所にしたくない。

久志 例えばどんな人に来てもらいたいですか?

葛西  僕はいわゆる裏原宿ブームの世代なので、ラフォーレ原宿といえば、今でも原宿カルチャーの発信基地のイメージなんです。そこに今回出店ができるのはとてもうれしい。未来につないでいくっていう意味では、「コエンション」に来てくれる方が、何十年先かに同じようにメッセージや文化を発信して欲しい。だから、未来のラフォーレ原宿を作っていく人、さらにいえば文化を作っていくような人たちに来てもらいたいですね。

【ショップ情報】 co&tion UNDERSTAND EACH OTHER FELISSIMO (コエンション アンダースタンド イーチ アザー フェリシモ)オープン日:2014年9月5日(金)場所:ラフォーレ原宿 B0.5階住所:東京都渋谷区神宮前1-11-6 営業時間:11:00〜21:00(年中無休)【参加アーティスト】二宮佐和子、JUN OSON、中村実樹、さくらい かおり、Kim Songhe、大石さちよ(cikolata)、神尾茉利、広田理恵(ROTARI PARKER)、山本哲也(POTTO)、枝光理江(RERE)・・・&more【イベント詳細】 Andy Warhol×OHARARYUEVENT 期間:2014年9月5日(金)〜 9月12日(金)、9月6日(土)Fashion Night Out Special
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葛西 龍也/tatsuya kasai

1976年生まれ。1999年フェリシモ入社。以降、通販カタログ「haco.」の創刊をはじめとして、様々なプロジェクトにおいて、クリエイティブ(事業創造)を担当。その経験を活かして講演活動なども行っている。2014年9月5日ラフォーレ原宿にまったく新しいコンセプトショップ「コエンション co&tion」をオープン予定。