コールアンドレスポンスは、日本語でいいんだ

俺が初めて海外でパフォーマンスをしたのは2009年のこと。MIYAVIのヨーロッパツアーに同行し、MCとしてステージに立った。

MIYAVIの姿勢に刺激を受けた

MIYAVI ヨーロッパツアー
©DAG FORCE

当時、DAG FORCEとしての活動と並行して、マイメンでベースヒーローのKenKenが主宰するFUNKバンド「KenKen of INVADERS」のMCとしてもライブ活動を行っていた。その時のパフォーマンスを観て、MIYAVIがヨーロッパツアーに誘ってくれた。もともと帯同する予定だったパフォーマーが、急遽出演できなくなり変わりのMCを探していたタイミングで白羽の矢が立ったのだ。そういう事情もあり、オファーをもらってから、ライブまでたしか2週間ぐらいしかなかった。MIYAVIからもらったアルバムの曲を聴きこみリハーサルに臨んだが、MCの部分には台本や歌詞はない。ほとんどフリースタイルで即興のパフォーマンスをするということになった。ほんの数回のリハだけで、ドイツに飛び立った。

フランクフルト空港についてすぐに寝台付の大きなツアーバスに乗り込みケルンへ。会場につくと息をつく暇もなくリハーサルをして、すぐに本番だ。2000人以上の超熱狂的なファンが会場を埋め尽くし、半ば発狂したティーンエイジャーが酸欠で次々に会場外へと運ばれていく。ステージ上はサウナのような状態で酸素が薄い。俺は熱狂するファンに負けじと目をひんむいて全身全霊でパフォーマンスした。酸欠で倒れそうになりながらも、自分のパートではフリースタイルをする。もう言葉なんか関係ないから、全身で飛び跳ね、腕を振りまくり、ステージ上を転げ回ってパフォーマンスした。あっという間に初日が終わった。

翌日は次の街へと移動だ。ドイツ、スペイン、スウェーデン、フィンランド、イギリス、オランダ、フランスと車中泊をしながら移動しライブを重ねていく。どの街も2000人以上の大きな会場で熱狂的なティーンエイジャーが全エネルギーを爆発させにやってくる。

ところで、公演中は俺以外のメンバーはみんな楽器を演奏している。必然的にMCをするのは俺かMIYABIがやることになるが、当時MIYAVIもそこまで英語が話せなかった。俺もそう。義務教育レベルな上に発音もめちゃくちゃだった。毎日別の国の別の街に移動して、はいどうぞ!ってな感じでライブが始まるし、今みたいにスマホで現地の言葉を調べる方法も時間もまったくなかった。

やべえぞ、と思った。割り当てられたパートのフリースタイルだけでも必死なのに、現地の言葉でMCをしなきゃならないなんて……俺は燃えてきた。じつは最初はビジュアルバンドのMCとして、顔に墨を塗らなきゃいけないことにふて腐れていたりもしたのだが、逆境に置かれて試されてることにスイッチが入った。めらめらと燃える自分のバイブスを感じた。

スイッチが入ったもうひとつの理由はMIYAVIだった。

公演後、ツアーバスでメンバーが疲れ果ててそれぞれの寝台で休むなかで、MIYAVIは一人その日のライブ映像をチェックしていた。疲れてんのにすごいなと思いながら、俺も後ろでなんとなく映像を見ていた。「明日は自分がこういう演奏してる時に、MCで盛り上げて欲しい」とアイデアをくれた。20代で世界ツアーを何度も成功させている彼の真摯な姿勢に深く刺激を受けたのだ。

日本語でいいんだ!

©DAG FORCE

MCをする上でHip Hopにはコールアンドレスポンスという手法がある。それを試してみたんだけど、ただ大きな声を出してテンションを上げるだけで終わってしまう。もっと会場全体を和ませたり、気持ちをひとつにできる方法はないかなと俺は考えた。そして、まずはその土地土地の言葉でMCを試みた。

「ダシ・イフィツ・フェッ!!」

日本語で「やばいね!」って意味のことを言いたかったんだけど、つい数時間前に現地コーディネーターに教えてもらった発音のせいか、会場からは笑いが起きた。

うううううー!でも、笑顔になっている。

そして、これだ!と気づいた。

それから、悔しがるそぶりを大げさにやったあと、片言の英語で付け加えた

「You can say it in Japanese!」

「???」

「SAY YABAINE !!」

そしたら会場の数千人が恐る恐る「Yabaine」と言い始めた。

「SAY YABAINE」「YABAINE!」

「YOU SAY YABAINE!」「YABAINE !!」

繰り返せば繰り返すほど、声は大きく、みんなの笑顔も大きくなっていった。最後は俺も「やっべー!!」とか言って勝手に大笑い。つられて会場もいい感じにひとつになれた。考えてみれば、お客さんはMIYAVIのファンだ。多分、日本の文化が好きで、日本語が好きだから、日本語でいいんだ。いきなりMCをすることになって、窮地に立たされたことで閃きが生まれた。

この体験で自信が出た。翌日からプレッシャーから解放されパフォーマンスが楽しくなった。会場のエネルギーを最大限に爆発させるために、コールアンドレスポンスをし、MCで笑わせて、最後はマイクを口にくわえて全身を揺らしてヘッドバンギングしてた。ライブが終わって外に出るとMIYAVIのファンの子から「あ、MIC EATERだ!」とか言われて。

ヨーロッパツアーを終えて日本に帰国するときには、自分が少しでもこのツアーに貢献できたと思えた。

当時24歳。血気盛んなB-BOYだった俺は人間的に未熟で、スタッフやMIYAVIに迷惑をかけたかもしれない。それでも大きく成長するきっかけをくれたMIYAVIには、本当に感謝してる。ありがとうございます。

今、社会のあらゆる部分で厳しい状況にあるなか、俺も必死にもがいてはいるけど、あの時と同じで、この窮地に何を掴み取ることができるのかとポジティブに向き合っていこうと思う。

DAG FORCE/ラッパー

1985年生まれ。NYブルックリン在住のラッパー。一児の父。飛騨高山出身。趣味は、音楽、旅、食べること、森林浴。NYでの日常生活で感じたこと。そこからポジティブなメッセージを伝えていきたい。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。