睡眠不足の危険性と効果的な改善方法【専門家監修】

仕事や勉強が忙しくて、趣味に時間を費やしてしまい。理由は人それぞれですが、日々睡眠不足を感じているあなた。その睡眠不足、放っておくと大変なことになるかもしれません。

今回は上級睡眠健康指導士の加賀照虎先生に睡眠不足の危険性と解消法を伺い、インタビューの様子を会話形式でまとめています。少しでも日々の睡眠時間が少ないと感じる方は最後までご覧ください。

加賀照虎(かが ひどら)

上級睡眠健康指導士(第235号)。睡眠に関する専門的な知識を身につけ、多くの方に正しい睡眠情報を発信している。『プレジデント誌』や『日刊SPA!』、『NHKあさイチ』など多数のメディアに出演。1000万PV超の睡眠メディア「快眠タイムズ」を運営。
InstagramTwitterYouTubeでも最新情報を発信中。

睡眠不足の定義とは?

──どの程度から睡眠不足に該当するのでしょうか?

 

人それぞれ適切な睡眠時間は違うので、数値では表しにくいのですが、やっぱり日中に眠気を感じるっていうのが大きいポイントです。

日頃、日中の眠気を感じたらもう睡眠不足といえますね。

 

──具体的な時間ではなく、あくまで症状なのですね!

日本の睡眠不足の現状

──日本人の睡眠時間って世界に比べて短いのでしょうか?

 

わかりやすい図表を用意しました。

OECD各国の睡眠時間各睡眠時間で眠る人の割合

まず、世界的にみて日本人の睡眠時間はかなり短いです。

国内での内訳をみてみると、7時間未満の人が70%ぐらいいるんですね。平均的な睡眠最適時間は約7時間30分なので、かなりの人が睡眠不足傾向何じゃないのかなと思います。

年齢が60歳以上になると睡眠最適時間が六時間になるので、7時間未満の人が全て睡眠不足というわけではありませんが、それを考慮したうえでも40%〜50%くらいの人は睡眠が足りていないんじゃないでしょうか。

ちなみに、このデータは平成27年のものなので少し前の指標ですが、睡眠時間は減少傾向にあるので最新のデータだともう少し悪い結果になっているかもしれません。

睡眠不足になる主な原因

──日本人の睡眠不足の原因ってなんなのでしょうか?

睡眠の妨げとなる事柄

統計によると、やはり仕事の割合が大きいようですね。

次が健康状態です。怪我で痛みがある場合や、精神的な病気で眠れなかったりなどが考えられます。あとは寝る前にメールとかゲームとかスマホを操作することが睡眠の妨げとなっているようです。

睡眠の質は睡眠不足の原因とはならない?

──「睡眠の質が悪い」などの理由もあるかな?と思っていたのですが、意外と単純に時間がない方が多いんですね。

 

入眠するまでの時間などの睡眠の質も多少は影響しますが、睡眠不足の一番の原因は時間です。

多少睡眠の質が悪くても、最適な睡眠時間を確保できているのであればそこまで睡眠不足を感じることはないんじゃないかなと思います。

ベッドで目を瞑っている時間は睡眠時間?

──例えば「7時間確保できましたが、寝るのに1時間かかった。1時間は目をつぶってて横になっている状態だった。」というケースでは7時間睡眠をしたことになるのでしょうか?

 

睡眠時間はベッドにいた時間じゃなくて、眠っている時間です。

なので、その人は6時間しか寝てないことになり、睡眠が不足している可能性があります。

 

──横になって目つぶってれば睡眠と同じ効果があるみたいな噂を聞くのですが、それは間違いなのですか?

 

夜の睡眠で言うと100%そうとは言い切れないですね。

入眠したときに脳の活動が休まるため、目をつぶって横になっている状態(起きている状態)と完全に寝ている状態を一緒とは言い切れないかなと。

昼寝でいうとほぼ同じぐらい効果があるといわれているのですが、少なくとも夜の睡眠ではそのような話、研究を聞いたことはありません。

睡眠不足が招く健康へのリスク

──睡眠不足が招く健康へのリスクについて教えてください。

 

まずは、下記画像をご覧ください。

睡眠不足によって起こることは主に「前頭前野の機能低下」「自律神経の乱れ」「食欲増加・満腹感の低下」「疲れ」「インスリン感受性低下」の5つです。この5つから連鎖的に様々な症状が引き起こる可能性があります。

睡眠不足のよっておこる健康上のリスク

1.ストレスの増加

──前頭前野ってどんな機能を持つ部分なのでしょうか?

 

前頭前野は脳の感情コントロールしてる部分のことです。働きが悪くなることでストレスが溜まりやすくなったり、ストレスを感じたときにイライラしやすかったりします。

働いてる時に携帯に電話掛かってくると、人によってはイラっとするじゃないですか。この方法を使って鬱陶しく感じた度合いの調査をおこなった実験が実際にあるんですよ。睡眠取っていない人の方がストレスを強く感じているという結果でした。

【睡眠不足で不安、感情のコントロールが下手に】

カリフォルニア大学バークレー校の研究。睡眠不足になると脳の前頭前野の部分の活動が減る。これは感情のコントロールや思考、集中するのを司るエリア。実験内容は、20時に不快な動画を見せる、その後寝るグループと徹夜組に分けて、朝の8時にもう一度見てもらう。徹夜組は不安感が高い。

参照:https://www.nature.com/articles/s41562-019-0754-8

 

【睡眠不足でイライラしやすい】

イライラしやすくなる。仕事中に電話を受けるとネガティブな感情を高まりやすい。イスラエル効果大学の実験、睡眠不足なネガティブな感情や疲れを高めて、逆に、ポジティブな感情を減らしてしまう。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15700720

2.自律神経の乱れ

──「自律神経が乱れている」ってどういう状態なのでしょうか?

 

自律神経っていうのは無意識におこなっている動作に関係する神経です。日中など活動をしているときは交感神経、夜間リラックスしているときは副交感神経が通常、優位になります。睡眠不足になると夜間も交感神経が優位となり、興奮状態となってしまいます。

交感神経は、血圧や心拍数を上げる働きなどを担っており、睡眠不足で交感神経優位となると、高血圧になりやすくなってしまいます。

【睡眠不足だと自律神経が乱れる】

横浜市立大学の研究。いつも8時間睡眠をとっている人が睡眠不足(3.6時間睡眠)になると自律神経が乱れ、交感神経が優位の状態になり、その結果として、翌日の血圧が上がっているのだろうとの結果。

参照:https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/01.HYP.27.6.1318

3.食欲の増加、肥満

──睡眠不足で食欲が増加する仕組みを教えてください。

 

レプチンという食欲を増加させるホルモンと、グレリンという食欲を抑えるホルモンがあるのですが、睡眠不足になるとレプチンが増え、グレリンが減少してしまいます。

また、実験により睡眠不足の人の方が食べ物とかも高カロリーのものを好んで食べるということもわかっています。以上のことから睡眠不足になると肥満になりやすくなるといわれています。肥満になってしまった場合、高血圧になる可能性が高いです。

さらに、肥満になると睡眠の質が悪くなるといわれています。なので一度睡眠不足になると「睡眠不足→肥満→睡眠の質の低下→睡眠不足」といったように、負のサイクルに入ってしまうんですよね。

睡眠時間とBMIの関係睡眠時間と肥満率の関係

【睡眠不足だと体重が増える】

アメリカのイェール大学がおこなったコホート研究。1987〜89年から2004年までの追跡調査。睡眠時間別にBMI値と肥満率を出した。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16505522

 

 【睡眠不足だと食欲が暴走する】

シカゴ大学の研究。睡眠が不足すると、「食欲を増やすグレリン」というホルモンが28%増加し、「満腹感を感じさせるレプチン」というホルモンが18%減少する。これにより、甘いもの、しょっぱいもの、デンプン質のものへの食欲が24%増加すると報告されている。

参照:https://www.uchicagomedicine.org/forefront/news/sleep-loss-boosts-appetite-may-encourage-weight-gain

睡眠不足の人は高カロリーの食品を選ぶというデータを表したグラフ

【睡眠不足だと高カロリーで大きく重い食品を好んで買うようになる】

北欧最古の大学のウプサラ大学の研究チームの報告により、「睡眠不足の状態は、食品の購入行動に影響を及ぼす」ことが分かりました。実験の内容は、下記のようになります。

・14人の健康な男性に2つの条件の後、買い物をしてもらう。 

・条件Aでは、1晩中、眠らない。 

・条件Bでは、8時間(22:30〜6:30)の睡眠をとる。 

・それ以外の条件は同じ。 

・条件A/Bをランダムで決め、4週間後、おこなっていない条件で再度実験をおこなう。 

・実験日は8時に朝食を摂り、朝食後すぐ50ドルを渡され、数日分の食品を買うよう指示される。 

・購入可能な食品は2kcal/gの以上のもので40品目まで。

睡眠不足のグループの買い物は、1,600kcalもカロリーが高く、2kgも重いという結果です。

参照:http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oby.20579/abstract

4.疲れ、運動不足

睡眠不足の人が、運動する時間を確保できるケースは少ないです。

また、睡眠不足により体の回復が十分におこなわれず、疲労感を感じてしまうため、運動をしようという気力がなくなってしまう可能性もあります。そのため、睡眠不足の人は運動不足となる傾向が強いです。

5.インスリン感受性の低下

──インスリンってなんとなく聞いたことがありますが、どういった物質なのですか?

 

インスリンという食事した後に血糖値を下げるホルモンがあります。

睡眠不足になると、インスリンの効き目が悪くなるといわれています。なので、血糖値が上昇しやすくなります。

6.脳疾患、心臓疾患

ここまで解説した5つの項目が合わさると糖尿病や高血圧になりやすくなるんですよね。

睡眠時間と糖尿病の関係

【睡眠不足だと糖尿病リスクが上がる】

アメリカのイェール大学がおこなったコホート研究。1987〜89年から2004年までの追跡調査。睡眠時間別に糖尿病発症リスクを出したもの。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16505522

 

【睡眠不足だと高血圧リスクが上がる】

コロンビア大学の実験。睡眠不足(短眠)が高血圧のリスクを高めるか調べられた。8〜10年の期間をかけた調査。高血圧の診断は内科医の診断によるもの。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16585410

もし、糖尿病と高血圧の両方になってしまった場合、動脈硬化を引き起こすリスクを高める可能性があります。

動脈硬化というのは、血がドロドロにもなり、血栓ができ、詰まってしまうという現象なのですが、脳や心臓などの重要な血管で発生した場合、命にも関わります。

1つ1つがリンクしていて、最終的に大きな病気にかかってしまうのです。さっきも見たとおり、日本人の睡眠不足の割合はかなり高いと考えられます。

日本人って、「自分は軽度だからまだ頑張れる」「みんなが睡眠不足なんだから自分だけ弱音を言えない」なんて考えをしますが、そうやって放っておくと最終的にこんな危険があるということを、みなさんに理解してほしいですね。

運動神経、集中力の低下

健康リスクとは少し違いますが、睡眠不足が原因で運動神経・瞬発力・集中力が下がるという結果もあります。

 

──たしかに寝不足のときはなんとなく集中できない感じがします。実際に結果が出ていることなんですね!

 

はい、以下のような実験がされています。

【睡眠不足で生産性が下がる】

ウォルター・リード陸軍研究所でおこなわれた実験。4つの睡眠グループ(3時間、5時間、7時間、9時間)を作り、7日間、その睡眠時間で過ごしてもらうその後3日間、8時間睡眠で過ごしてもらう。毎日、反応スピードや、注意力を図るテストを受けてもらう。日ごとに結果が悪くなっていく。さらには、寝溜めをして回復できてはいるが、多少補うことくらいしかできていない。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12603781

睡眠不足によって生産性が下がることを表したデータ

この実験から以下の3つのことがわかります。

①睡眠時間が短い人の方は反射神経が衰えていること
②睡眠不足が続けば続くほど結果は悪くなること
③1〜3日休息をしても睡眠時間が短い人の結果は長いの人の半分程度までしか回復しないこと

①②の結果ももちろん大切ですが、現代人には③に注目していただきたいです。

これはを日常生活に当てはめると平日に睡眠不足を土日で回復をしても完全に回復しきれていないということになります。

そのほか、多数の実験で睡眠不足になると洞察力や下がったり、生産性が下がることが報告されています。

健康被害だけでなく、仕事や家事の効率にも関わってくることを覚えておいてください。

睡眠に関するドイツのリューベック大学の実験のグラフ

ドイツのリューベック大学の実験。一見難しいが隠れた法則性に気づくと解ける問題を、以下の3つの条件の異なるグループ(1グループ22人)に取り組んでもらう。

A:「朝に3回、問題の訓練をおこなう」→「8時間起きたまま」→「夜に問題を解く」

B:「夜に3回、問題の訓練をおこなう」→「8時間起きたまま」→「翌朝に問題を解く」

C:「夜に3回、問題の訓練をおこなう」→「8時間眠る」→「翌朝に問題を解く」

グループCがその他のグループよりも倍以上の結果に。

参照:http://www.nature.com/nature/journal/v427/n6972/full/nature02223.html

実験を表したグラフ

【睡眠不足で生産性が下がる】

ペンシルバニア大学の実験、4時間、6時間、8時間睡眠と徹夜組の脳機能を測定。6時間睡眠でも反応スピードが落ちていき、10日間続けると1日徹夜したレベルになる。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12683469

睡眠不足の兆候

──睡眠不足の危険性はよーく伝わりました......。睡眠不足をなるべく初期段階で知る方法を教えてほしいです。

 

初期症状でいうと、「日中の眠気」と「感情面の変化」が大きいですね。

若干の睡眠不足でいきなりその病気になることはありません。

一番に最初に感じることは眠いなという感覚と、感情のコントロールが上手くできずイライラする感覚です。

睡眠不足の兆候が当てはまったら?

──重度な睡眠不足を感じた場合はお医者さんに行くべきなんですか?

 

ただ睡眠が足りない人だったらとりあえず寝ればいいだけです。眠れない理由が不眠症など、病気の場合は病院に行くべきだと思います。

睡眠に関することであれば睡眠外来がある病院を選ぶといいですね。

不眠症になる原因って複数あるんですよ。精神だったり身体の問題だったり。その原因が分からずにテキトーに利用してしまうと、「精神的な問題と診断されたけど、ホントは身体的な理由だった」なんてことになってしまうかもしれません。

病院を使うときは、広く見てもらえる睡眠外来を選んでいくのが一番かなと僕は思います。

睡眠の質を改善する14つの方法

──睡眠不足を解消するには、あくまで「時間」が原因であることがわかりました。

睡眠時間を確保する工夫をすることはもちろんですが、睡眠の質を改善するための方法を教えていただけたらと思います。

 

質を上げるための方法って、「睡眠の質を上げること」と「質を下げる行為をやめること」の2つがあります。まずは、質を下げる行為をやめた方が一番手っ取り早いと考えています。

いきなり新しいことを始めるのではなく、仕事ができるまでなどと同じで、まずできる簡単なことでから初めて成功体験を積んでほしいんですね。難しいことをいきなりやっても挫折するし結果出るまで時間がかかるのでおすすめはしません。

 

──なるほど、マイナスをなくすところから始めるんですね!効果や真偽についてお伺いしたい項目が14あるので、それぞれ教えてください。

食事

──食事で気をつけることはありますか?

 

食事は食物繊維が豊富で低脂肪で、砂糖が少ない方が良いです。

コロンビアの大学の実験でこれらの食事取った人の方が、翌日の眠気が少なくて睡眠の質が高かったという結果があるんですよね。

「絶対に食物繊維を食べろ」っていうよりは、まず揚げ物を食べないとかラーメンは食べないとかマイナスをなくすところか始めてみると良いと思います。

できるのであれば食物繊維が高いものを食べるとか、バランスのいい魚とかやっぱだったりとか、そういったものを食べることをおすすめします。

 

──食事の成分が影響するんですね!

 

成分以外にも、時間も大切です。

眠る3〜4時間ぐらい前に夜ごはんは終えてそれ以降は食べないようにしましょう。

あんまり眠る直前に食べると、消化のために胃が動いてしまい睡眠が効率よくとれないとされています。

 

──食べなきゃ寝れないみたいな声も聞きますが、そういう方はどうすればいいのでしょうか?

 

お腹がすいちゃって眠れなくなる時も、もちろんあります。動物の方の本能で「空腹=死」なので空腹状態よりは満腹状態の方が寝れるのは確かです。

そういう方は、夜ご飯を食べる時間を調整するといいですね。あとは腹持ちが良いものを食べるということも大切です。そういう意味でもやっぱり食物繊維は重要ですね。

腹持ちで思い出しましたが、お米を食べないと睡眠の質が下がるっていう考え方もあるんですよ!炭水化物を食べないダイエットとか流行っていますが、腹持ちが悪くなって結局、眠れなくなってしまうと思うんですよ。眠れないということは?

 

──あっ!食欲を抑えるホルモンが減ってしまう!

 

そうです。データがあって、確定してる内容ではないんですけどダイエットにもあんまり良くないんじゃないかなって思います。

【食事に気を配る】

コロンビア大学の実験、食物繊維が豊富で低脂肪、低糖な食事を心がける。高脂肪で糖分の多い食事は眠りが浅くなる。

参照:http://jcsm.aasm.org/ViewAbstract.aspx?pid=30412

アデレード大学、高脂肪の食事を摂っていたグループはそうでないグループよりも79%も昼間に眠くなりやすいとのこと。

参照:https://www.adelaide.edu.au/news/news84342.html

 

カフェイン

──個人的にカフェインってあんまり効かないんですが、ほんとに効果があるんですか?

 

カフェインは本当に人によって耐性が違うんですけど、できるのであれば夕方以降取らない方がいいです。

カフェインが体の中から半分なくなる期間が「半減期」と呼ばれており、だいたい2.5時間から4.5時間っていわれています。平均すると3時間ですね。

3時間がたってもまだ半分、6時間たっても4分の1は残ってるっていうことになります。そう考えると夕方の6時以降はもうカフェインは飲まない方がいいかなと思います。

カフェインというとコーヒーというイメージが強いですが、コーラとかチョコレートにも入っていたり、お茶も緑茶とかだと多少は入っているので、気をつけましょう。

【カフェインを避ける】

デトロイトのヘンリーフォード病院、カフェインにより、睡眠が浅くなる。思っている以上に効果は持続する(6時間前の摂取でも)

なので、カフェインはやめられるならやめた方がいい。好きなら上手に付き合う。カフェイン耐性は人によって違う。夕方以降はやめられるべき。もちろん、それよりも早ければ早いほうがいい。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3805807/

ストレス

──ストレスを解消することができれば、睡眠の質は向上しますか?

 

強いストレスを受け続けると交感神経が優位になってしまうため、眠れなくなってしまいます。なので、過度なストレスを解消することで、睡眠の質は向上するでしょう。

ぼくからアドバイスできることは少ないですが、環境をどうにか変えるべきです。

多少のストレスは充実感・達成感にも繋がること、完全にストレスフリーだと眠りすぎになってしまうことから、完全にストレスフリーである必要はありません。

アルコール

アルコールもストレスと同様、交感神経の働きを高める機能があるので控えた方がいいです。

 

──お酒を入れると寝やすいというイメージがありますが、そんなことはないんですね!

 

アルコールを飲んですぐは体が温まって眠りやすくなることは事実です。

しかし、2時間ぐらい経つとアルコールが体の中で分解されていきます。分解されるとアセトアルデヒドという物質が出るのですが、その物質が交感神経を優位にするんです。

寝る時って本来、副交感神経がが有意にならなければならないのですが、交感神経が優位あることで、深い睡眠に入れなくなってしまいます。状況を例えるとブレーキ掛けて休むとしてるのに、アクセルを踏んでいるみたいなイメージです。

もちろん完全にやめることは難しいと思うので、眠る3時間前には飲み終えることを意識してみてください。

タバコ

──あまりイメージはないですが、タバコも眠りに影響するのですか?

 

タバコも睡眠の質が下がるという風にいわれています。実際のデータで喫煙者の方が深い睡眠が少なくなるという結果も出ていますよ。

そのほか、タバコにはスッキリする、目が覚めるという効果があるので、単純に睡眠が遠のいてしまいます。

あとは、喉が悪くなりやすいので、睡眠時無呼吸症候群になるリスクが一般の人に比べて2.5倍高いというデータもあります。

ただタバコを辞めるって食事に気をつけることや、夜中にカフェインを摂取することを控えることに比べるとハードルが高いじゃないですか。だからこれは最後の最後でもいいかなと思いますね。

スマホ、PC、ブルーライト

──ブルーライトが目に悪いという話はよく聞きますが、睡眠にも影響するのでしょうか?

 

ブルーライトが悪いというわけではなりません!

ブルーライトのほかにも、イエローライト、ホワイトライトなど光は多数の色がありますが、睡眠にとって色はさほど問題はありません。

色よりも光の強さ(光量)が睡眠には影響します。

なので、ブルーライトカットメガネをかければ、寝る直前までスマホを見てていいというわけではないんですよ。

光を受ける量を極力減らすことの方が大切なのです。設定で光度を下げたりフィルムなどを貼るなどの工夫の方が効果的です。

 

──光を受けるとどうして睡眠に悪影響を及ぼすのですか?

 

光を受けると眠りを促すメラトニンというホルモンの分泌を阻害しちゃうんですよね。それで眠気が遠ざかって浅くなるといわれています。朝に光を浴びることは大切ですが、夜はNGです。

また、コンテンツの刺激を受けることで脳が覚醒してしまうという理由もあります。

夜スマホを使うグループと、使わないグループを対象におこなった研究があるのですが、スマホを使わない人たちは深い睡眠に入ることができるので、深い睡眠の時間が合計で17分くらい伸びるという結果が出ています。

夜スマホと睡眠の関係

【スマホやPCを見すぎない】

光の影響に関する実験。中国上海の第二軍医大学の報告、寝る30分前にスマホ仕様を止めるだけで睡眠の質が上がるデータがある。コンテンツの脳への刺激も理由にある。

参照:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32040492

 

──太陽光だけじゃなく、スマホなどの光でも反応してしまうんですね!

 

何の光でも影響します。

スマホの明かりを暗くしても、部屋が明るかったらあまり意味はないので、部屋の光量にも気を使うといいでしょう。

例えば、夜に家帰ったタイミングから間接照明などの暗めの明かりで過ごすことがおすすめです。僕は普段7時ぐらいに家に帰るのですが、それ以降は仕事をするときもメイン照明をつけずに、部屋の端っこの方にある照明だけ付けて過ごしてますね。部屋さえ暗くしていれば、自然と眠くなるはずです。

昼寝

──睡眠不足の対策として昼寝は効果的なのでしょうか?

 

極力、夜の睡眠時間をのばすべきですが、睡眠不足の人は昼寝をするべきです。

その時に守るべき2つのルールがあります。1つ目が眠る9時間前には終わらせることです。2つ目が20分程度に収めることです。

睡眠圧という言葉をご存知ですか?

 

──うーん、初耳です......。

 

睡眠って起きてる時間が長いほど圧力が溜まっていって夜に長い時間寝れるんですよ。溜まった圧力のことを睡眠圧と呼んでいます。

途中で寝てしまうとこの圧力が解消されてしまい、夜に満タンにならないため睡眠の質が悪くなるといわれているんです。

なので、この睡眠圧を夜までにきちんと溜め直すといった意味で、9時間前と20分以内というルールを守っていただきたいです。

もし、昼寝で30分でも40分でも昼寝をしても、きっちり夜眠れるという人は相当な睡眠不足なので、例外となります。

 

──日頃の運動

 

運動することで、深い眠りに入れるといわれています。

2〜3年前ぐらい前に、色んな論文の総論として、運動した方が眠りやすくなる、睡眠の質が高まるという内容の論文が発表されています。

眠りが深くなる理由は運動したら単純に疲れて眠くなるためです。また、筋肉がつくことにより基礎代謝が上がり、普通にしているだけでも筋肉がエネルギーを消費し、回復のために深い眠りを取ろうとするのです。

【運動する】

足利工業大学の吉田弘法教授による実験。

共同研究、運動をすると、睡眠時間が伸びずに深い睡眠が増えると報告されている。

参照:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1087079216301526

その理由は、運動したら疲労が溜まるし、筋肉が使えば基礎代謝が上がるから、睡眠が深くなると考えられている。運動をするなら夜にすると、効果的だとの報告もある。

『医療・看護・介護のための睡眠検定ハンドブック』宮崎総一郎・佐藤尚武 編著。

 

──いいことだらけじゃないですか!睡眠不足の人は運動をすべきですね。

 

間違いないのですが......運動をするにもある程度時間って必要ですよね。ランニングするにも30分、ジムとか行くと60〜120分ほど時間が必要じゃないですか。

このインタビュー内で何度も言っていますが、質を上げる工夫をするならその時間を睡眠に当てるべきです。

睡眠時間を確保できており、より質を向上させたい人は実践してみてください。ちなみに運動をするのであれば、夜のほうが翌日の覚醒度が高いという結果も先程の研究で発表されています。

 

──そうでした。「睡眠不足を解決するにはまずは睡眠時間を確保する」でしたね。

 

ちなみに、通勤路の往復や営業で一般的な社会人であれば1日40分くらいは歩いているんですよね。これは、睡眠に必要な運動量でいうと、十分なんですよ。なので、僕としては「ちょっと優先度は下げても大丈夫かな?」と思っています。

入浴方法

──入浴方法を工夫することで、睡眠の質は向上するのですか?

 

入浴により体温の動きをコントロールすることができれば、眠りの質を高めることもできます。ただし入浴のタイミングによってはプラスにもマイナスにも働くので、要注意です!

最初に、体温と睡眠の関係について説明をしておきますね。

簡単に説明すると、人は深部体温を下げることで睡眠状態に入っていきます。

睡眠と体温の関係

入浴すると体温はもちろん上がります。

そのため、入浴後就寝しようとすると、体温がなかなか下がらず眠れないという事が起こります。疲れているのになぜか眠れないという方に多いケースです。

反対に入浴から2時間ほど時間を空け、高まった体温が徐々に下がり始めるタイミングであれば、スムーズに眠ることができます。睡眠の研究者たちの中には一度体温を上げてから下げる方が落差が大きくなるため、より眠りやすいと主張している方も多くいます。

ヒトの体温調節と睡眠 内山 真、降籏隆二 日本大学医学部精神医学系

参照:https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/78/1/78_6/_pdf

実際に不眠症の人が入浴による体温管理で睡眠の質が改善されたというデータもあるくらい有力な方法ですね。

一般の人が同じだけの結果が得られると断言はできませんが、多少なりとも体温を調節することで寝つきを良くすることができるでしょう。

パジャマ

──睡眠中の衣服も睡眠の質に関係があるのでしょうか?

 

良いパジャマを着たからといって、それだけで睡眠の質を上げるのは難しいと思います。

しかし悪いものは睡眠に影響することもあるでしょう。ここで言う悪いものとは、ジャージなどのポリエステルの生地の衣類のことを指します。

人は汗をかいたり、熱放散といって見えないくらいの蒸気を出して、熱を逃しているんですよ。しかし、ポリエステルの生地の場合、吸水性や吸湿性がないため蒸れて体温が上手に下がらないことがあるんですよ。

たまに汗を吸って発熱する素材などがあるじゃないですか?あれはオススメできませんね......。体温を下げるために汗かいてるのにその汗のせいで発熱して余計温まってしまっては、なかなか眠くなることができません。

あとは、裏ボア素材なども熱くなりすぎて、体温を下げられず寝付きが悪くなったりします。フワフワで気持ちいいですけどね。

睡眠時の姿勢

──姿勢を改善するだけで、睡眠の質が上がったりはするのですか?

 

答えだけをいうとNOです。

ただし、正しい姿勢で眠らないと腰を痛め、痛みで寝れなくなり睡眠の質が下がるケースは考えられます。睡眠というよりは身体的によくないので、やめましょうという話です。

 

──正しい姿勢ですか??

 

うつ伏せはよくないといわれていますね。

女性や筋トレをしている男性は、胸に厚みがあるため自然と腰を反ってしまうんですよね。すると腰に負担がかかり、腰痛に鳴ってしまう可能性があります。圧迫感があるので呼吸が浅くもなるともいわれてます。

睡眠時の正しい姿勢睡眠時の正しい角度睡眠時の正しい姿勢2

いくつか参考画像を用意いたしました。

横向きや仰向けに関しては、立ったきれいな状態でそのままパタンと横になった姿勢が好ましいといわれています。

その際、背中の下に隙間ができたり、首の角度が浅すぎて浅すぎてしまうと身体的によくないです。

自分の体にきちんとフィットするマットレスを使うことが大事ですね。

無理をして高価なものを買う必要はないですけど、安いものを買うと危険だよってことを覚えておいてください。

快眠グッズの効果

──いろいろな快眠グッズがありますが、ガンガン取り入れるべきなんですか?

 

快眠グッズは必要に応じて活用することが大切ですね。

例えば、夜勤の方で明るさが気にあるのであればあればアイマスクを使ったり、いい鼻が詰まる人であれば鼻腔を広げるテープを貼ったりなど。

僕の妻が真っ暗でなくては眠れない人だったので、最近遮光カーテンを買ったのですが、真っ暗すぎて起きれない問題が発生してしまったんですよ。

そこで、朝になるとカーテンを自動で開けてくれるマシーンを買いましたね。スマホで設定できて便利なんですよ。こんな感じでケースバイケースで問題解決できる品物を購入するくらいで良いかなと思います。

 

──アロマなどの香りって睡眠の質を高めてくれるんですか?

 

詳細なデータは出ていないのですが、その香りが好きな人にとってはリラックス効果があるため、眠りやすくなるのではないかといわれています。

ただ、実験データなどがあるわけではないので、なんとも言えないですね......。

部屋の明るさ

──部屋の明るさについては真っ暗がいいのでしょうか?

 

いえ、若干明るいくらいが良いとされています。聞き慣れないかもしれませんが、単位で言うと0.3ルクスです。

カーテンの隙間から月の明かりがうっすら入ってくるぐらいの明るさで、上にかざした手が若干見えるかなっていうぐらいイメージですね。

実際に8段階の照度を使い分けて眠りの深さを調べた実験では、「真っ暗」よりも「ほんの少し明るい」方が深い睡眠ができており、目覚めも良かったという結果が出ています。

【部屋の明るさを調整する】

「0, 0.3, 5, 30, 50, 120, 180, 300lx」の8段階の照度の光が睡眠に及ぼす影響を調べた研究によると、0.3lxのときが睡眠の深さが最高で、目覚めたときの睡眠感も良好でした。逆に、0lxのほうが0.3lxよりも睡眠深度が低下していました。

医療・看護・介護のための睡眠検定ハンドブック』宮崎総一郎・佐藤尚武 編著より引用

 

──なるほど、ほんの少し明るくすればいいんですね!

 

ただし、明るさを9ルクス以上にしてしまうと質が低下してしまうかもしれません。9ルクスは豆電球程度の明るさをイメージしてください。

奈良県の医科大学で下記のような実験結果が報告されています。

【部屋の明るさを調整する】

豆電球の明るさ(9lx)が睡眠を妨害し肥満の原因になっている可能性あり。奈良県立医科大学の大林賢史教授による調査。

参照:https://academic.oup.com/jcem/article/98/1/337/2823288

豆電球の明るさで眠っていたグループは、暗い環境で眠っていたグループよりも、体重が2.6kg重くBMI値が0.6ポイント高く胴回りが1.9cm長かった。

60代ぐらいの年配の人を対象に睡眠に関する実験をおこなったところ、豆電球程度の明るさで眠っている人は、肥満が多いという結果が出ています。

なんどか説明していますが、眠りの質が悪いと食欲を抑えるホルモンが出にくくなるといわれています。

このことから、9ルクス以上の明るさは睡眠を妨害してしまうと考察されています。

【部屋の明るさを調整する】

豆電球の明るさ(9lx)が睡眠を妨害し肥満の原因になっている可能性あり。奈良県立医科大学の大林賢史教授による調査。

参照:https://academic.oup.com/jcem/article/98/1/337/2823288

豆電球の明るさで眠っていたグループは、暗い環境で眠っていたグループよりも、体重が2.6kg重くBMI値が0.6ポイント高く胴回りが1.9cm長かった。

以上、睡眠不足の危険性について、解説をいたしました。

睡眠不足なんて、「翌日ちょっと頭が回らないだけ」、「ちょっと眠気を感じるだけ」と考えている人も多いと思います。

しかし、眠気などの症状は、今日の寝不足に対する明日の被害であり、睡眠不足の危険性のほんの一部に過ぎません。

今回のインタビューでお話ししたように、睡眠不足だからといって放っておくと数年先とか十数年先に重大な病気にかかってしまうかもしれません。なかなか意識しづらいですが、理解を深めて改善することに目を向けてみてください。

まとめ

・睡眠不足の一番の原因は睡眠時間が短いこと

・睡眠不足は前頭前野の機能低下」「自律神経の乱れ」「食欲増加・満腹感の低下」「疲れ」「インスリン感受性低下」を引き起こし、結果的に生活習慣病などの病気のリスクが高まる危険性がある

・睡眠不足を改善するためには、健康的な食事を摂ることも重要

・カフェインは夕方以降、アルコールは寝る3時間前以降は摂取を避ける

・寝る前にスマホやPCの画面は極力見ない、見るとしても光量をなるべく落とす

・昼寝をする場合は、寝る9時間前までにすます

・運動は夜がおすすめ

・入浴は寝る2時間前がおすすめ

以上、睡眠不足に関するインタビューの様子を紹介しました。

インタビューを通して、加賀先生の口から「睡眠不足を解決するには、まずは睡眠時間を増やすべき」という言葉が繰り返し出ていました。

睡眠の時間が足りてないなと感じたときに、音楽を聞いたり、寝具を買ってみたり根本的な原因解決にならない方法を取っていませんでしたか?

まずは、友達と深夜までチャットをしない、YouTubeを見ないなど睡眠時間を確保するための行動を心がけてください。

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