「フェイクグリーンのある日常」フローリスト秋貞美際の提案

生花や観葉植物をあつかうプロの目から、昨今のフェイクグリーンはどう見えているのだろう?草花のある生活をフェイクが担う隙間があるとすれば……そんな疑問をぶつけるべく、フローリスト秋貞美際さんのもとへ。

リアルを知り尽くしたプロならではの視点とともに、フェイクが適える心地よく暮らすためのヒントを探ります。

季節ごとに花材を変えて
「フェイク」を楽しんでみては?

©YUJI IMAI

──単刀直入にうかがいますが、フェイクグリーンに対してどんな印象をお持ちか教えてください。

 

普段はもっぱら生花をあつかっているので、久しぶりに造花の花材を見に行ったんですが、生花で目にしているようなおしゃれな花材が増えて、表情豊かになりましたね。

以前なら、「わかりきったにせものを飾って何がおもしろいの?」という気持ちが正直あったんです。でも、それも一蹴されました。

 

──パリで修行を積まれ、今も頻繁に訪れる秋貞さんですが、パリにもフェイクグリーンや造花の類ってあるんですか?

 

2〜3年くらい前にようやくドライフラワーを扱うお店が登場しました。プリザーブドはあまり見かけませんが、最近はアーティフィシャルフラワーをエントランスにデコレーションしたカフェがちらほら出てきた、といった印象です。

「自然がないなかで暮らすのは不自然」と考えるパリの人たちですが、最近は時代の流れにうまくフィットするライフスタイルに変わってきているように感じます。じきにフェイクも登場するかもしれませんね。

 

──今回、フェイクを使ったアレンジをお願いしました。花材選びはどういった点を意識された?

 

いわゆるフェイクグリーンのなかでもお花に近いジャンルのものを中心に選びました。「アーティフィシャルフラワー」と呼ばれるものです。壁面緑化に使われるようなフェイクグリーンって、どうしても季節感に欠けるものが多いので、大前提として秋の装いで選んでみました。

 

──季節感?

 

もう秋本番でここから冬に向かっていくのに、いつまでもトロピカルなフェイクを飾るのも変な気がしません?なるべくならば、フェイクでも今の時期に生花として出回っているものを飾ってあげたいですから。

観葉植物や多肉植物が好きな人たちは、グリーンで統一された世界観がいい。けれど生花が好きな人たちにフェイクの魅力を届けるならば、季節ごとのいろんな花材を上手に取り入れながらのアレンジを紹介したかったので。

 

──「枯れない」「劣化しない」というフェイクの利点が、逆に季節感を欠くことにもなる……これは盲点でした。

 

これだけバリエーション豊富でクオリティも高くなったフェイクですから、本物の植物でできることはフェイクでだってできます。今回選んだものも、すべて実在する花材なんです。ものはフェイクですが、そういう意味で秋の“臨場感”を意識しました。

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色味をしぼり、質感の違うものを揃える
リアルのブーケと同じ考え方です

──季節の臨場感をフェイクで演出する場合、具体的にどういったポイントが挙げられますか?やっぱり色?

 

もちろん秋を連想させる「色味」は大切です。でも、単純に緑から赤のグラデーションで整えればいいというものでもありません。

生花でつくるときもそうですが、どれかメインになる花材を決めます。その花材の持つ色の要素を分解して、ほかの副材を決めるようにしていくとバランスが良くなります。

人間の脳って「きれい」と認識できる色は同時に3色くらいまでだそうです。料理にしてもお花にしても、多色使いしすぎると脳内で純粋に「きれい」って認識できなくなってしまう。だから、あまりごちゃごちゃさせないくらいの色合いにまとめると失敗しません。

 

──「アーティフィシャルフラワー」と聞くとお花の印象でしたが、だいぶ見た目にもバラエティがありますね。

 

普段から生花を触っている感覚で、見た目だけでなく質感も含めてなるべく本物らしいものを選んでいます。表面がつるんとしたものだけじゃなく、マットな質感だったり、いろんな肌触りのものを混ぜ合わせることに気をつけました。

あとは葉の表面を見たときに裏表を感じさせないものですね。ブーケをつくるとき、どれもこれも表を向けてしまうというのはやっぱり不自然ですから。

 

──あえて後ろ向きのままってこと?

 

「顔となる部分」が必ずしも真正面でなくてもいいということです。人それぞれに「きれい」、「ここ不思議」と思う部分がありますよね。そこをハイライトにして飾り付けていくと、表情豊かなアレンジが生まれます。

 

──フェイクでつくるブーケ。生花との違いに戸惑うこともあったはず。どんな点に注意したらいいでしょう?

 

たとえばこのユーカリ。実はそっくりにできていても、茎の部分はポリエチレン素材の質感がそのまま。このように、どうしてもフェイクっぽさが残ってしまう花材もあります。

そこを他の花材でほんのりレイヤーにして隠しながら、見えていい部分、いちばん素敵な部分がしっかり見えるように整えてあげるといいと思います。

フェイクのいいところは、内部にワイヤーが通っているので束ねたあと全体を見ながら、広げたりねじったりして形を整えられること。しなり方にニュアンスも出せますし、裏表の変化が少ない花材をうまく前面に持ってきて、隠したい部分を隠してあげる。そんな自在性はやっぱりフェイクでしか適いません。

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ススキ、ヒエ、ユーカリの実を中心に臨場感ある「秋」をイメージしてつくったスワッグ。

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葉先のとがったユーカリ ロブスターを主材に黄色く着色したかすみ草をはじめドライフラワーとアレンジ。

──正直、リアルかフェイクか区別がつきませんね。フェイクでも十分すてきになりますね。

 

これはこれで、とってもすてきですよね。そう思えるのってとっても大切なんですよ。フェイクであろうとリアルだろうと、暮らしのなかに植物を取り入れたいと思う気持ちが大事。

「フェイクなんて飾っても意味ない」なんて否定してしまっては、花を飾りたい、植物に囲まれたいと考えている人たちの可能性まで奪ってしまいます。それに、ほとんど家にいない生活をしている人に「生花を飾りましょう!」というのは、花にも可哀想ですから。

 

──ただ、生花特有の「香り」だけはフェイクじゃ再現できません。これだけは、もうどうしようもないですよね。

 

ちょっとお手入れは手間がかかりますが、今回のようにブーケのなかに少しドライフラワーを混ぜてあげてもいいかもしれません。生花ほどではありませんが、それでもフェイクにはない「におい」を加えることができます。

もしくは、アロマオイルをたらしたり、ナチュラル系のルームフレグランスをちょっと吹きかけてあげてもいいかも。香りをそっと仕込んでおくイメージです。

 

──逆に、生花にはないフェイクのメリットを挙げるとしたら?

 

デイリーケアの必要がないのはいいですね。お掃除も楽だし。ドライフラワーだと埃を取ろうとしても、揺すると花や葉がパラパラと取れてしまいますが、フェイクは丈夫ですからね。

最近はドライフラワーも流行りですが、どうしても飾っているうちに色素が抜けて最後は色あせてしまいます。その点、フェイクは退色しません。そこも大きなメリットですね。

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リアルとフェイクの使い分けで
住環境が充実します

──本来であれば生花を扱う側として、フェイクは背反する花材だと思いますが「インテリアグリーン」としての可能性をどうお考えですか?

 

住まう空間を植物で演出したいという、ぞれぞれの想いにマッチした花材を選ぶといいと思います。たとえ生花でなかったとしても、こうしてフェイクやドライを上手に組み込みながら。

たとえば、真夏の暑い時期は切り花もあまり日持ちしません。そういった時期はフェイクを上手に取り入れて、涼しくなってきたら今度は生花を飾るのも一つの方法です。

 

──リアルかフェイクか。0か100ではなく、どちらもうまく取り入れながら住環境を満たしていく。これならできそうな気がします。

 

住環境の大切さに気づくのって、彼氏ができたり結婚したり、ライフステージが大きく変わるときですよね。帰ってくる人がいる、待っててくれる人がいる。だからすてきな花を飾りたい。

そういうとき、生花を飾るのが無理ならば、まずはフェイクであってもいいはずです。今の生活にはこっちの方が合っている、みたいな“心地よさ主体”で取捨選択していけばいいんじゃないかって、私も最近思うようになりました。

 

──そこにフェイクがあってもいい?

 

もちろん。だって、これだけ花材の選択肢も増えているわけですから、自分のスタイルにあった花材で、飾りたいものを飾れば。

「面倒が見れない」とか「家にいる時間が短い」など、リアルな植物を扱うのが難しい理由もあると思います。その人たちがフェイクを足がかりに、まずは生活の場に植物を取り入れることができれば。

 

──お花やグリーンが毎日の生活にあるということを秋貞さんはどう考えていますか?

 

空間のなかにある種の“気が通る”イメージがあります。たとえ本物じゃなかったとしても殺風景な部屋に帰るより、見た目に心地いいしつらえがしてある部屋のほうが気持ちが安らぎますよね。住まう環境を自分色につくりあげることって、とても重要ですから。

いきなり生花は難しくても、植物で満たされる暮らしの導入にフェイクがなってくれればいいなって思います。ひとつでも彩りがあって、気軽さを知ってもらえば、住環境がぐんと充実してくるはずですから。

©YUJI IMAI
秋貞 美際

フローリスト。大手IT企業の秘書からフラワーデザイナーへと転身。Parisで学び、2015年より活動開始。飲食店をはじめ様々な空間装花、ギフトフラワー、フラワーレッスンなど、活動は多岐にわたる。2019年6月、麻布十番に花屋「migiwa」オープン。@migiwa_flower

Top image: © YUJI IMAI
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