ありそうでない、餃子、ちゃんぽん、寿司の味。大分・日田温泉の忘れられない食べ物

日田温泉の旅から帰ってきて、東京でちゃんぽんも餃子もお寿司も色々食べたんですが、どうもしっくりこなくて困ってます。多分、私の舌が、日田のそれらと比べているのかな?

 

わざわざ海外からお客さんが食べに来るという、野菜のお寿司。

剣道部の高校生を日本一にした、ちゃんぽん。

テクノのリズムで出来上がる、餃子。

食べたさのあまり寝言のようにうなされてしまう、餃子。

 

日田の美味しいものは、うっかりすると見落としてしまいます。なぜなら、あまり派手な主張をしないから。普通にそこにあって、ただただ美味しいのです。

でも、日田温泉まで来て、これらの「日田名物」を食べずに帰るなんて、これ以上にもったいないことはない。と、思うな〜。

パイタンじゃなくて和風だし
アスリートを育てる日田ちゃんぽん

「寳屋(たからや)」

©2019 ESTU MORIYAMA

日田駅を出てすぐのところにある創業89年の大衆食堂・寳屋と言えば、最近はこれかもしれません。

©2019 ETSU MORIYAMA

きこりめし。有名雑誌やWEBメディアでもたくさん取り上げられている名物弁当で、日田が林業の街であることを知ってもらうきっかけとして誕生したもの。企画したヤブクグリという、日田の林業を盛り上げる活動をしているクリエイター集団のお弁当係として、寳屋のご主人・佐々木美徳さんも開発に携わりました。

容器は、日田で杉の枝の間引きをしたり、山の手入れをしている業者さん作。プラスチックの容器と違い、山で食べて、たとえ置いてきても山に返るよという素敵なコンセプトで作られています。

地元の食材で作るというおかずはいたってベーシックな顔ぶれですが、どれを食べても美味しく、丁寧な仕事ぶり。そして、このお弁当を食べる時は、このアクティビティもね。

©2019 ETSU MORIYAMA

ギコギコギコギコ……。

きこりになった自分をイメージして、お弁当に付いた小さなノコギリで、お弁当の真ん中にどーんと乗った丸太風のゴボウを切るのです。ごはんに乗ったままの状態で、なかなか切れないなあ……(涙)と苦戦していたら、お店の方が「フタの上だと切りやすいですよ」と教えてくれました。左手で箸を持って抑えるとさらに切りやすい、という裏ワザは、ご主人から。

 

この色といい質感といい、ほぼ丸太なゴボウですが、ここまで似せるのには結構時間がかかったそうですよ。ノコギリの歯も、切れにくかった最初と向きを逆にしたりとか、試行錯誤したんだそうです。

 

ところで、寳屋で食べた中で私が一番感動したのは、実はこのちゃんぽん。「日田ちゃんぽん」というもの。

©2019 ESTU MORIYAMA

長崎ちゃんぽんはパイタンスープの中華風ですが、寳屋の日田ちゃんぽんは、お店のうどんだしをベースにした和風のスープ。そして、長崎のほうは麺の上に乗っている野菜をパイタンで煮るそうなんですが、寳屋の日田ちゃんぽんは煮ないで具材を炒めます。炒めた野菜には、最後に秘伝のタレをかけるんですが、これは企業秘密だとか。

 

日田ちゃんぽんという名前は、10年前、ある食のイベントで、よそのちゃんぽんとは違うこと知ってもらうためにつけられたもので、市内には現在、おそらく20数軒日田ちゃんぽんを出すお店があるそうです。

©2019 ESTU MORIYAMA

「昔、長崎からこの近くに来ていた料理人に、開発者の祖父は習ったという話を聞いたことがあります。当時、白いスープで作ると聞いてもパイタンなんて知らないだろうし、手に入りにくかっただろうから、その場にあったうどんのだしで作ったんじゃないかな、となんとなく思うんです」

 

とご主人。その仮説は、寳屋のちゃんぽんが中華風じゃなくて和風だという事実と繋がります。

©2019 ESTU MORIYAMA

大・中・小とサイズが選べる寳屋の日田ちゃんぽん。ちなみに上の写真は、大……のようなボリューム感の、中サイズ(多分一般的には、大サイズ)。先代がとにかく量が多いのが好きだったそうで、常々学生さんがおなかいっぱい食べられるような大衆食堂にしたいと言っていたのだそう。

 

そういえば取材の前日、お店の前を通りかかった時、地元の運動部っぽい子どもたちが寳屋で美味しそうにちゃんぽんを食べているのを見かけました。ファストフードじゃなくて、こうした街の食堂でごはん食べて、おなかいっぱいだって言いながら出てくる光景は、なんだかすごくほっとしましたよ。

©2019 ESTU MORIYAMA

明らかに運動部だなっていう子には、無料で大盛りにしているんだそうですよ(一応大盛りにしてもいいですかって確認はして)。親父の時からそうだけど、腹いっぱい食べて、頑張ってくれればそれでいいよっていう感じですね、と言って笑うご主人を見ていると、先代の思いはここにちゃんと受け継がれているなあと感じます。

 

運動してる人も運動してない人も、寳屋に行く時は目一杯おなかをすかせて行かないとですね。寳屋の日田ちゃんぽんは、基本大盛りです。勝負事の前にもいいかもしれません。寳屋でもりもり食べて頑張っていた剣道部は、以前日本一にもなったそうですよ!

<もぐもぐメモ>

・日田ちゃんぽん(中サイズ、780円)

・きこりめし(880円)

寳屋
住所:大分県日田市元町13-1
TEL:0973-24-4366
営業時間:11:00〜21:00(オーダーストップ)
定休日:なし
公式HP:http://takarayahita.com/takaraya.asp

→日田温泉に行ってみたい!

マグロじゃなくて野菜だよ
ひたん寿司は“日田ん”寿司

「彌助すし」

©2019 ESTU MORIYAMA

これ、マグロじゃなくて、“トマト”です。

©2019 ETSU MORIYAMA

こちらは、半ドライの梨。

他にもどんこや、白菜巻き、青梗菜、パプリカ、干したけのこなど、「ひたん寿司」の寿司ネタは、ちょっと変わったラインナップ。

ひたん寿司の由来は“日田ん(の)寿司”。日田とその近郊から集めた食材を集め、丁寧に下ごしらえして作ります。例えば干したけのこは、アクをとるのに水をとっかえひっかえ4日、最後に味つけをするという手間。でも、どの食材も、それぞれの個性を活かせるように、余計な味を加えたりはしないといいます。

©2019 ETSU MORIYAMA

で、主役はこの高菜巻き。これはひたん寿司ができるよりずっと以前、彌助すしの大将、勝祥さんが考案したもので、山芋と、納豆、ねぎを高菜で巻いたお寿司なんですが、美味しいんですよ〜。すっかりファンになってしまいました。美味しいだけじゃなくてヘルシー。ネットで調べて海外から食べに来るヴィーガンのお客さんもいるそうです。

 

高菜は自家製の樽で漬けたものなんですが、高菜って、古漬けじゃないと美味しくないんですって。だから、年間約3000葉も漬けている上、1年半以上漬けたものを常に準備しているというから、いやはや。大変だから、漬け物屋さんでさえちゃんと漬けているところも少ないとか。

特別だよ、と言って大将にお店のカウンター裏に連れられて行くと、そこには井戸水が掛け流しにされている高菜漬けが。綺麗でしょ、と言ってその高菜を丁寧に手にとって見せてくれた大将からは、食材への愛情がひしひしと伝わって来ました。

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その高菜を使い、三代目の靖祥さんの丁寧なお仕事で完成した高菜巻き。そりゃあ美味しくないわけがないよなあと改めて。ちなみに高菜巻きは、普通の職人でも難しくて、巻けるようでなかなか巻けないんだそうですよ。

 

そして他にもね、まだあるんです紹介したいネタ。

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いちご。えー!ってなるでしょ。

テレビ番組の収録で来た照英さんも絶賛していたというこちら、食べてみればわかりますが目の中がピンク色になる美味しさ(簡単に言うと、いちご大福です)。

©2019 ETSU MORIYAMA

これはヤマメのいくら。

鮭のいくらより粒にハリがあって、噛んだ時のプツッと弾ける感じが爽快。大将が初めて世に出したものだそうで、東京ではとても希少価値のあるお寿司なんだとか。

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いろいろ面白いでしょ、ひたん寿司。もともとは、2010年(平成22年)頃、博多で開かれた日田の物産展のために、日田をPRするものとして大将が開発したもの。とても評判が良く、これで終わるのはもったいないとなって、日田の寿司組合に声をかけ、その後市内の寿司屋みんなで売り出すことにしたんだとか。

 

お店には、「ひたん寿しの流儀」という決まりごとも掲げてあります。一つ一つの食材にも、調理法にもこだわって、美味しさを追求するだけでなく、見た目や店内の演出、お客さんとのコミュニケーションまで丁寧に気を配るようにと書いてあるんですが、そういえば大将も靖祥さんも、初めてきた私たちに気さくに話しかけてくれました。日田のいいところも色々教えてくれたり、後半は、お孫さん自慢も盛り上がったり。まるで親戚の家に遊びに来たようなのんびりした空気に包まれて、おなかいっぱい胸いっぱいでお店を後にしました。

 

一つだけ、心残りがあるとすればですね……。美味しいひたん寿司を食べ過ぎて、海のお寿司があまり食べられなかったこと(こちらも美味しいのです、泣)。

<もぐもぐメモ>

・ひたん寿司(1,500円)

・元祖高菜巻き(870円)

©2019 ETSU MORIYAMA

彌助すし
住所:大分県日田市本庄町3-9
TEL:0973-22-2216
営業時間:10:00〜22:00
定休日:不定休

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テクノ系一口餃子
最高に爽やかな百円焼酎と共に

「一品香(イーピンシャン)」

©2019 ETSU MORIYAMA

タッタタッタタッタッ……。

大分県日田市の駅前、60年以上続く老舗の餃子店・一品香で、今宵もテクノのライブが開演しました。というのは、まあ冗談なのですが、カウンター席から見える店主・公博さんのによる皮さばきが、テクノのライブさながらだよね、という話。餃子の皮が、とんでもないリズム感とスピードで、次々と作られていくのです。

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その皮に、今度はお母さんの和江さんが餡を入れて包み、最後はお父さんが焼きます。それぞれの担当は、もう昔からずっと変わらないとか。

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小ぶりでかわいいこのサイズは、みんなが食べやすいサイズを、と考えて先代が始めたそうですよ。オリジナルのタレに付けて口に運ぶと、カリッとした表面が歯に当たった瞬間の次に感じるのは、餡を包んでいる皮のもっちり感。続いて中の餡がジューシーに溢れ、一皿があっという間になくなります。ニンニク、柚子胡椒などの薬味はお好みで。

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作っては焼き、作っては焼きを繰り返していくスタイルで、1日で2000個くらい作りますね、と言うので、そんなに作ったら手が疲れませんか、と聞くと、お父さんはニッコリ笑ってもう慣れがあるからねえと答えました。本当にリズムよく、どんどん餃子が生みだされていく様は、一つのエンターテインメントだなあと感じる面白さ。でも、その感動を伝えた途端にお二人が、若い時はもっと速かったよね、と言い合うもんだから……ちょっと震えました。

©2019 ETSU MORIYAMA
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そうそう、餃子といったらビール、でもいいんだけど、一品香は焼酎がとても安いんですよ。そして美味しい。「松の泉」という、熊本県球磨郡にある松の泉酒造さんの米焼酎なんですが、爽やかで飲み口のいい米焼酎。

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「生(き)だと100円にしてるけど、お湯割りか水割りならもう50円で出してますよ。気持ちだからね」

 

お店に来た人には餃子を美味しく食べてもらえればいいかなって思って、もう60年前から変えていないそうです。アルコール度数25度だけど、生で飲むのが一番美味しいとオススメされたのでそのように。これがとっても爽やかで軽やかな飲み口なのでスルスルと飲んでしまい、福島(私の出身地)の人はお酒強いでしょう〜? とお父さんに言われてしまいました。いや〜でも強いってイメージがあるみたいでよく飲まされますねと答えると、うちの人は強いですよ、と言ってニコニコしながらお母さんの方をチラッ。お母さんの地元は福島なのです。

©2019 ETSU MORIYAMA

福島からはなかなか遠い場所にお嫁に来たけれど、こちらの料理の味付けは甘辛いものが多いからなのか、結構東北の人の口に合うようで、食べ物で困ったことはなかったそうです。何より、毎日食べてもいいくらい餃子が好きだというから、和江さんは一品香にお嫁に来るべくして来た人、なのかもなあなんて考えながら、また焼酎をチビチビと。

©2019 ETSU MORIYAMA

日田にある某映画館の館長さんは、「とりあえず一品香」という過ごし方を教えてくれましたよ。その夜の予定が決まらないまま集合しても、まず一品香でお二人の手元を眺めながら餃子を食べ、一杯飲む。で、その後どうするかを考えるのもありとな。アリだなあ。でも、ウッカリいっぱい食べてしまいそうだなあ。それにもしうちの近所にお店があったら、毎晩のように「とりあえず一品香」してしまう気がするなあ〜。

<もぐもぐメモ>

・餃子(一人前600円×2)

・瓶ビール(500円)

・焼酎(生、100円)

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一品香
住所:大分県日田市中央1-1-2
TEL:0973-22-5540
営業時間:17:00〜21:00
定休日:日

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みんなこの羽根に魅せられる
女優系一口餃子

「じゃんぐい」

©2019 ETSU MORIYAMA

「孫がここの餃子が食べたい食べたいと寝言のようにずっと言っててね」

 

と言いながらお店にお客さんが入って来たのには、衝撃を受けましたが、常連さんと思しきお客さんが、今度こっちに来る友人を連れてきたいんですよ、と言って入念に営業日の確認をして帰ったのも印象的でした。

 

ここにも餃子の名店が。日田温泉の旅館街からほど近い場所で、創業54年くらいになるという「じゃんぐい」というお店です。ちょっと変わった店名の由来は、昔、満州にいたおじいちゃんが職場のリーダー的役職で、現地の人にそう呼ばれていたという話から。「棟梁」とか、「親分」という意味なんだそうですよ。

©2019 ETSU MORIYAMA

ちなみにこれはかつての店舗写真。常連のお客さんが撮ってくれたものだそうで、お店に飾ってあります(現在はもうちょっとポップで、洋風の建物)。

お母さんの須磨子さんが40年続けてきたという焼き係は、息子の宣浩さんに10年くらい前にバトンタッチ。歴史を感じるかっこいい鉄鍋で、毎日、じゃんじゃん焼き上げられます。

©2019 ETSU MORIYAMA

そして、お店のホワイトボードには予約注文の名前がたくさん。焼きあがった一口サイズのかわいい餃子たちは次々にパックに詰められ、お迎えに来たお客さんにどんどん手渡されていくのです。

©2019 ETSU MORIYAMA
©2019 ETSU MORIYAMA

パリパリパリパリ……。

サクサクサクサク……。

もう、写真を見れば説明は不要かもしれませんが、じゃんぐいの一口餃子は、とにかく羽根が特徴的。ジューシーな餡を包んだ皮は、焼かれる時に表面に見事な琥珀色の羽根をまとって完成します。

©2019 ETSU MORIYAMA

オリジナルのつけだれに柚子胡椒を溶いて、パクリ。小ぶりといえど一人前は13個ですが、軽いので女の子でも二人前(26個)くらいはいかないと、食べ足りないかも。

ビールに合うのは当たり前。日によって売り切れのこともあるけれど、是非ごはんを注文してこちらもどうぞ。そう、みんな大好き、餃子・オン・ライス! ばーん。

©2019 ETSU MORIYAMA

幸せって、きっとこういうことですよね。これが食べたいがために白ごはんを注文してしまいかねないほど美味しい、お母さん特製のぬか漬けもつきます。野菜の種類は都度変わるけど、私たちがいただくことができたのはきゅうりと大根でした。味付けは、お客さんに感想をもらいながらちょっとずつ調整しているの、今日のはどうですか? とお母さん。どっちも塩気がちょうどよくて美味しかったです。

©2019 ETSU MORIYAMA

そしてこのぱりぱりの羽根。ちょっと甘みがあって香ばしくって、これだけでビール3杯いけますし、すごく、すごく、おやつとして会社に常備したいと思ったり。永遠に食べていられます。

©2019 ETSU MORIYAMA

じゃんぐいの餃子の食べやすさは、きっと何かを狂わせるのだ、と確信したのは、この日の後半に聞こえて来た二人組のお客さんの声。

 

「スイマセーン、お代わり10人前!」

 

近所のスナックばぁ〜ばのママも常連さんで、私も若い時は4人前くらいペロリだったわよーと言っていました。私たちはというと、女優さんになろうと思ったことはないの? なんてサービストークもいただいて(ありがとうございます)、すっかり上機嫌で食欲も増し、5人前をペロリでした(二人でですけどね)。

最後は、大忙しのお店を臨時で手伝いに来ていたお兄さん・友治さんも混ざって三人で。舞台監督として活躍しているお兄さん、万が一、何かの間違いで今後女優を志すことになった時は、よろしくお願いしますね。

それにしてもじゃんぐい、なんでうちの近所にないんだろう……(涙)。

<もぐもぐメモ>

・餃子(1人前400円×5)

・瓶ビール(500円)

・ごはん(ぬか漬け付、150円)

©2019 ETSU MORIYAMA

じゃんぐい
住所:大分県日田市隈1-1-5
TEL:0973-22-5712
営業時間:17:00〜(商品がなくなり次第終了)
定休日:日

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Top image: © 2019 ETSU MORIYAMA
取材協力:日田旅館組合