日本にフランスパンを広めた「ドンク」の話

すべては編集部内での同僚との雑談から。

「日本でフランスパンが1番売れる日って、いつか知ってる?」

「もしや……クリスマスとか?」

「正解!昨日もけっこう売れたと思うよ。1960年代のブーム以降、日本ではクリスマスにチキンと一緒に食べるならパンってのが定番だしね〜」

たしかに、チキンやローストビーフを食べるのも一般的になった日本のクリスマスでは、パンの一緒に食卓に並ぶのは珍しいことじゃない。それもフランスパンが多い気がする!

一方で気なったのはブームの話。いまじゃ、当たり前すぎて日常にある存在ですが、実際に60年代の日本ではフランスパンがトレンドの最前線だったそうです。調べてみると、そのきっかけとなったお店が「DONQ(ドンク)」。ちょっと意外じゃないですか?

ドンクのフランスパンを買うのが
当時の“モダンガール”のお洒落

©DONQ

え、これが?と思う人もいると思うけれど、“あのドンク”
神戸から東京に初進出したこの青山店には、芸能人もお忍びで通っていたらしい。


戦後間も無くから神戸で当時はハイカラなバゲット、クロワッサン、ブリオッシュなど本格的なパンを日本に紹介し、人気を得ていたドンク。

66年に、東京・青山店をオープン。後の日本におけるフランスパン文化の父と言ってもいいパン職人フィリップ・ビゴ氏の着任と、客から見える場所にオーブンを置いてパンを焼くスタイルが人気を博したのをきっかけに、一大フランスパンブームが発生。

@DONQ

洒落たものをお土産にしようとお父さんたちもこぞって並んだ様子。


それまでの日本では、やわらかいパンに慣れていたため、ハード系のフランスパンが美味しいというイメージがなかったみたいです。ところが、「皮は薄くぱりっとしていて香ばしい」「薄いクリーム色の中身はしっとりやわらかい」という、従来とは異なるドンクのフランスパンが口コミで広がり、連日店の外に行列ができるほど人気に。

©DONQ

パリの地図が描かれたドンクのパン袋に夢中になったのは、当時の“モガ”たち。モガとは、モダン・ガールの略。大正末期から昭和初期にかけて生まれた流行語ですが、先端のファションやメイクで銀座の街を歩くような“イマドキの女性”を指した言葉です。

「この袋を抱えて街を歩くのがおしゃれ」となり、ファッション雑誌の表紙を飾ったことも。私たちが現在もパーティフードとしてバゲットを食べるようになったのは、ドンクによって洒落たパン=フランスパンってイメージができたことが大きいんです。

昨夜のクリスマスイブ、皆さんの家のテーブルにもフランスパンがあったりしませんでした?クリスマス当日の今夜も煌びやかな街のどこかで、あの長いパンを紙袋に入れて歩く「モガ」スタイルな人を見かけたりしたのでは……。

メリークリスマス!

Top image: © iStock.com/bokasin, 2018 TABI LABO
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。