誰がなんと言おうと、ヨーロッパ野菜がある「さいたま」は日本で一番イタリアです

今どき「ダサいたま」とか言ってたら、ダサいのかもしれません。これは僕が埼玉県民だからムキになってるわけではなく、住人の僕でさえ今回の取材で埼玉を惚れなおしたんです。

やってきたのは、JR埼京線・武蔵野線「武蔵浦和駅」。駅前はイメージ通りの埼玉ですが、そこから1分ほど歩くとヨーロッパ、厳密には “イタリア” が見えてきます。イタリア風の建物がある、といった子供だましではありません。

ヨーロッパ野菜をふんだんに使ったイタリア料理が食べられる「トラットリア アズーリ」は、埼玉県民が “さいたま” に誇りを持てる、そんなレストランでした。

イタリアの郷土料理を
「さいたま」の野菜で再現する

©2018 North Corporation

そもそも、なぜ埼玉がイタリアなのかと言うと、県庁所在地の「さいたま市」はワイン、チーズ、パスタの消費量が国内トップクラスで、イタリアンとフレンチのレストランだけでも市内に200店舗以上もあるほどのイタリアン好き。

10年前からは、埼玉とイタリアを合わせた「SAItaly FESTA(サイタリー・フェスタ)」というイベントも開催されているほど。そこではイタリア料理界のトップシェフとソムリエがコラボし、埼玉産の食材がふんだんに使われた料理を体験できるそうです。

でも、1つだけ問題がありました。

「イタリア料理は郷土料理がベースなんですけど、ヨーロッパ野菜がないと別の料理になってしまうんです。日本のシェフとしては悩みどころでした。イタリアから空輸で取り寄せたとしても、コストや日数がかかりますからね」

丁寧に説明してくれたのは、「トラットリア アズーリ」の総料理長・新妻直也さん。

そう、問題は野菜でした。たとえば本場のミネストローネに使われる「カーボロネロ(黒キャベツ)」というヨーロッパ野菜は、煮込めば煮込むほど柔らかくなって旨味が増すそうですが、国内で生産している農家はほとんどなし。

「なんとか、さいたまでヨーロッパ野菜が作れないだろうか?」その思いは、いくつもの出会いが重なり、見事実現するのです。

ヨーロッパ野菜研究会が
さいたまの「食」をアップデート

©2018 North Corporation
30〜40代が多い「さいたまヨーロッパ野菜研究会」のみなさん

トラットリア アズーリはさいたまヨーロッパ野菜研究会(以下:ヨロ研)の会長でもある北康信さんが経営しているレストランなんですが、そもそもヨロ研ってなに? ってところを簡単に説明すると、

1. ヨーロッパの野菜を日本で作ってもらいたいなぁと考える
2. たまたま新聞でイタリアの種の試験栽培に取り組む「トキタ種苗」を発見
3. すぐ連絡して意気投合するも、生産してくれる農家が見つからず
4. 大宮でイベントなども開催し、若手農家を中心に生産者を募集
5. 岩槻を中心に30代の若手農家5〜6人が「まずはテスト的に」と挑戦
6. 地元の物流企業「関東食糧」に協力してもらい、粉物などと一緒にレストランなどへヨーロッパ野菜も配送してもらうことに
7. これらの活動を、農家・シェフ・種苗業者などで協力し合って地産地消を目指すのが「ヨロ研」!!

という感じなんです。

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フリットにしてもおいしい、カリフラワーに似た「ロマネスコ」

「今年で6年目ですかね。最初の年は赤字覚悟で、徐々に売り上げが伸びてきて、今年度は1億円を目指しているところです。農家の中での認知度はだいぶ高くなってきたのではないでしょうか。

これまでヨーロッパから取り寄せていた野菜が、しかも地元のさいたま市産で手に入るわけですから。料理人の方には喜ばれますよね。そうやって少しずつ、種、生産農家、物流という流れが繋がるようになったんです。長野や北海道で栽培された野菜ももちろんおいしいと思うんですが、どうしても物流の壁があります。農家との直接的なやりとりは一部のお店に限定していますが、さいたま市内だと20分でヨーロッパ野菜が手に入ります。やっぱり、地元で採れたもので作るイタリア料理っておいしいんですよね」

ヨーロッパ野菜×豆乳チーズ
「オールベジピッツァ」

©2018 TABI LABO

ちょっと前置きが長くなりましたが、そんなさいたま産の「ヨーロッパ野菜」がふんだんに使われたオールベジピッツァをいただきました。しかもチーズも豆乳で作られているので、存在感はあるのに罪悪感はない、そんな一品です。

入っているのは、苦味がクセになる「ルッコラカルパチカ」や、本場イタリアの菜の花「チーマ・ディ・ラーパ」、大きめのオクラ「ダビデの星」、渦巻きビーツ「ゴルゴ」などなど。1つひとつの野菜に歯ごたえと旨味がちゃんとあるので、物足りないどころか、しっかりと食べ応えがあります。

「けっこうお腹にたまるんですけど、すごくヘルシーなんですよ」

さいたま産のヨーロッパ野菜なんて初めて食べたし、これはうまい

©2018 TABI LABO

シェフ給食で、子ども達にも
さいたまの「野菜」を

ヨーロッパ野菜の広がりは、レストランなどの飲食業界だけにとどまりません。

「さいたま市内の小中学校では、抽選で『シェフ給食』という企画をやっていて、我々が黒キャベツのラザニアやミネストローネを提供しにいくんです。

そうすることで地元のヨーロッパ野菜を知ってもらうことができるし、農家のイメージもアップデートしたいと思っているんです。全校集会でイタリア語で挨拶したりすると、その日はプロ野球選手みたいにヒーロー扱いしてくれるんです(笑)。でも本当に残す子は1人もいないし、思い出にもなると思うんですよね。給食の話って、大人になってからも絶対するじゃないですか」

確かにそのとき、さいたまの学校はシェフが来てヨーロッパ野菜の本格イタリアンを作ってくれた、なんて言えたら自慢げにならざるを得ないですよね。

©2018 TABI LABO

さて、最後に「シェフ給食にも出る」という、本格ミネストローネをいただきました。あれ……赤くない……。

「ミネストローネ=赤いスープ、っていうイメージがあるかもしれませんが、本来は『具だくさん』っていう意味です。具材にルールがあるわけではなく、その土地で採れた野菜をたくさん使って煮込むスープのことです。先ほど話にも出たカーボロネロも入ってますよ」

野菜の旨味がしっかり染み込んだスープ。僕もこれ、小学校の給食で飲みたかったな〜。

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「トラットリア アズーリ」では、一部のヨーロッパ野菜を店頭販売している
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「トラットリア アズーリ」

住所:埼玉県さいたま市南区別所7-1-16
TEL:048-710-5300
営業時間:11:30〜15:00(LO 14:00)、18:00〜23:00(LO 22:00)
※土曜日のディナー:17:00〜23:00(LO 22:00)、日曜日のディナー:17:00〜22:00(LO 21:00)
定休日:年中無休
公式HP:http://north.co.jp/shop

Top image: © TABI LABO
取材協力:埼玉県
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。