全身が磯まみれになる「青菜炒め」

食都・香港を歩いていると、仄暗い路地の奥からぷーんといい香りが漂ってくる。すると、まるで催眠術にでもかかったかのように無抵抗で足がそちらへと向いてしまう。ここで気後れしないこと。美食が集まるこの土地の醍醐味を肌で感じたければね。

こうしてたどり着いた飲食店(規模を問わず)では、料理のオーダーの最後にこう尋ねられることがあります。「油菜はどうする?」と。

コレがないと始まらない
香港の定番「箸休め」

©Araya Jirasatitsin/Shutterstock.com

油菜と書いて広東語で(ヤウチョイ)。青梗菜、空芯菜、かいらん菜、レタスでも、いわゆる“青菜”はすべてこれにあたります。サラダ感覚というか、付け合わせというか。麺を頼もうが、炒飯を頼もうが、サイドメニュー的役割を担うのがこの油菜。

実際、これだけで立派な一品料理。油に通した菜っ葉にニンニクをからめたり、湯がいただけの青菜にオイスターソースをかけたり……なんでもないんだけど、ウマイのです。

なかでも衝撃を受けた油菜があります。長州島の漁師町でのこと。

すでにオーダーの最初に油菜を頼むほど、どハマりした僕の目の前に現れたのは、所どころ灰がかった色にまみれた空芯菜。それも鼻だけでなく、目まで刺激してくる強烈な磯くささをともなって。

ところが、です。

口にしたとたんアミノ酸系のうま味がやさしく広がるじゃありませんか。たんぱく質がアミノ酸によって分解される、発酵食品のようなあのトーン。固形のしょっつるとでもいいましょうか。カニ味噌っぽい風味もあって。そしてコイツ、恐ろしいほどビールがすすむ……。

生臭くも“現地してる”味の正体

©iStock.com/ioriyoshizuki

聞けばこの味、オキアミを塩漬けにして発酵させた「蝦醬」なる調味料だそうで、長州島やお隣ランタオ島の名産品だとか。そうか、路地の奥に限らず、この離島にもリアルな香港があったか。

飲茶、雲呑麺、エッグタルト、旅行者ばかりが行くお店もいいけれど、地元っ子が群がるディープな香港も外せません。潮風のにおいのする離島に足を伸ばしてみては?食都・香港の奥深さがそこに。

ところで、くだんのペーストは日本でも購入可能。李錦記より「幼滑蝦醬」なるものが出ています。煙が出る手前まで熱したフライパンに油をたっぷりめに引いて、ニンニクと同時に青菜を放り込む。茎や葉っぱが油をまとったところで蝦醬投入。もたもたしていると火が通り過ぎてしまうので、手早さが重要です。

再現料理:油菜
再現食材:幼滑蝦醬
再現度:★★★★☆

Top image: © konmesa/Shutterstock.com, 2018 TABI LABO
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。