思い出のキス#01 「別れた彼と」

 

誰にだってある。思い出すと、ほのぼのしたり、なんだか恥ずかしくなったり、切なくなったり、涙がこぼれそうになったり。そういう特別な感情が生まれるキスのエピソードを、みなさまにお届けしていきます。

#01 「別れた彼と」

 

わたしから振った。ある日とつぜん、彼への気持ちがパタリとなくなった。でも別に、嫌いになったわけじゃない。だから、彼から「年末に会おうよ」と電話がきて、わたしはふたつ返事で「いいよ」と言った。

 

12月31日。

約束どおり、わたしたちは会った。付き合っていた頃、外に出て遊ぶことなんて滅多になかった。なのにその日は、映画をみて、お茶をして。そのあと、ボーリングをした。ふつうにやるんじゃつまらないから、負けた方が勝った方に欲しいものをプレゼントするというルール付きで。

そしたらわたしが勝った。

ちょうど欲しかったリップがあったから、近くの百貨店行くことにした。「あ、でもこれもいいなあ」なんて悩むわたしのうしろを、「早くしてよ」とぶつぶつ言いながらついてくる彼。ふつうならイライラするところだろうけど、わたしはそれがうれしかった。

3年間も付き合っていたのに、化粧品を一緒に買いに行くのはじめてだったから。

 

夜ごはんを食べてから、イルミネーションを見ながら散歩をした。
だんだん人通りが減って、街灯も消えはじめてきて、わたしが「そろそろバイバイかな」と言ったとき。

彼が、そっとキスをしてきた。

 

付き合っていた頃、彼のキスはすこし強引で、荒々しかった。なのに、そのキスは、やわらかくて、やさしくて、よそよそしかった。

 

「ああ、そっか。もうこの人の彼女じゃないんだ」

わたしは、彼と別れてはじめて泣いた。

 

協力:M.Wさん(22歳・フリーター)

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。