森林セラピーで有名な日南の「猪八重渓谷」は、苔セラピーもすごいんです

宮崎の日南市にある「猪八重渓谷(いのはえけいこく)」は、森林セラピーの基地としても有名。

森林セラピーは、森の中を歩きながら、レクリエーションやヨガ・呼吸法などを取り入れた森林浴のことで、ストレスホルモンが減るとか、副交感神経の活動が高まる、なんていう研究結果もあります。

そんな、癒しの森林セラピーも人気ですが、ここでは、一歩先行くコンテンツ「苔セラピー」をご紹介…いや、提案したいと思います。

なんでも、猪八重渓谷には約300種類ものコケがあり、日本でも有数の「コケの宝庫」。そもそも、コケってそんなにたくさん種類があるんですか!

(日本だけでも1,800種類くらいあるらしい)

日南の猪八重渓谷を
コケ博士と200%楽しむ

コケ博士こと、服部植物研究所の所長・片桐知之さんに案内してもらえることになりました。

コケ博士、所長…いったいどんな人がやってくるのかとドキドキしながら駐車場で待っていると、おもむろにやってきた30代くらいの男性が、いきなりルーペを取り出し、グッと身をかがめて道端を覗き始めたんです。

「絶対あの人だ…!」

思っていたより若くて、物腰の柔らかい、でも明らかに “フシギな世界に没頭してます” というオーラをまとった、コケ博士がやってきました。着ている上着もモスグリーン。

もちろん自分のペースで散策したり、自然の空気を味わいながら歩くだけでも楽しいんですが、スペシャリストと一緒に歩く山は、いつもの何倍も楽しい!

「あ、これはアラハシラガゴケですね」

「僕たちも、基本的には胞子の形で判断するんです」

「これは、葉っぱの上にだけできる珍しいコケですよ」

「こすってみると、シップみたいな匂いがしませんか?」

「鳳凰のシッポみたいな形をしているから、ホウオウゴケです」

「名前は付けたもん勝ちです。学名として正しく認定されないので」

「僕の専門は、ムクムクゴケです」

「苔ガールですか? 興味を持ってもらえるならどんな形でも嬉しいです」

「イトゴケ、ヒモゴケっていう感じで、太さで呼び方が変わるんですよ」

「日本はまだコケの研究分野では遅れてるんですけど、服部植物研究所は世界で唯一のコケ専門研究所なんです」

1時間ちょっとの間に、何回「へぇ〜」って言っただろう。とくにコケに興味があったわけでもないのに、そのディープさに魅了されました。

しかも、驚くほど空気がきれいな森林を歩きながら。

博士の話を聞いたあとだと、いつもなら素通りしてしまうような小道が、宝の山のように見えてくるから不思議です。

「携帯電話は通じません。日常からの解放を楽しんでください」というメッセージにも納得。

緊急時はこの場所なら通信可能ですよ、という看板を見て、行きは思わずスマホを見てしまったけど、帰りはスルー。だって、博士の話が面白すぎたから!

黄金色に輝くとも言われる「カクレゴケ」は、この猪八重渓谷で見ることができる絶滅危惧種のひとつ。その名前の通り、博士と一緒に行かないと絶対に見つからないようなところに “隠れて” いるんです。

「年間通した気温や川との位置関係など、すごくバランスのいい環境が揃っているんでしょうね」

と、コケ博士。

帰りは世界で唯一の
コケ研究所へ

コケ博士が所長を務める服部植物研究所は、1946年(昭和21年)に服部新佐博士によって設立。48万点もの標本があるので、海外からの問い合わせも多いそうです。

20〜30分で「苔のテラリウム作り」も体験できるので(1,000円)、自宅用やプレゼント用にも。

—— コケを知り、コケに癒された1日。

今まで、ちょっと遠目に見ていた苔ガールたちの気持ちも分かった気がしました。森林セラピーの一歩先、「苔セラピー」の世界へ、ぜひみなさんも。

 

猪八重渓谷

住所:宮崎県日南市北郷町猪八重
TEL:0987-31-1134(日南市観光案内所)

服部植物研究所

住所:宮崎県日南市飫肥6-1-26
TEL:0987-25-0110
受付時間:10:00〜16:00(見学可能)
見学料:無料

Photo by JAPAN LOCAL
取材協力:日南市
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