旅好きを自認するなら知っておいてほしい、奄美・琉球の「いのち」のこと。

ご存知の通り、日本はとても小さな島国です。諸外国と海を隔てているからこそ、独自の文化が生まれ、発展し、そして今、そのオリジナリティ溢れる様々なカルチャーが世界で高い評価を受けています。

それは、生き物の世界も同じ。九州南方の海上に浮かぶ島々で何万年にもわたって育まれてきた独自の生態系と希少な野生動物たちの存在に、今、世界が注目しているのです。

多種多様な生き物が共存する、究極のダイバーシティ。目指すは2018年 夏の『世界自然遺産』への登録

亜熱帯地域ならではの高温・多湿な気候と、大きな陸地との距離が遠かったことから、じつに様々な生き物が誕生して独自の進化を遂げてきた、鹿児島県の奄美大島に徳之島、沖縄島北部の やんばるエリア、そして、日本の西端である八重山諸島のひとつ、西表島。

多くの固有種や貴重な天然記念物が数多く生息するこれらの島々が、2018年、ユネスコ(国際連合教育化学文化機関)によって『世界自然遺産』に認定される可能性が高まっています。

日本が世界に誇る手つかずの自然に、ひっそりと、そして力強く生き抜いてきた生き物たちの息づかいに耳を傾けてみてください。

【奄美大島】世界中のマリンスポーツファンが夢見る〝奇跡の島〟と様々な生き物たち

奄美群島のなかでもっとも広大な面積を誇る奄美大島は、世界中のダイバーやサーファーから人気があり、毎年、国内外から多くの観光客が訪れます。そんなリゾート地のイメージが強い奄美大島は、一方で〝東洋のガラパゴス〟とも呼ばれ、島の中南部の9割が険しい山林となっており、亜熱帯性や熱帯性の草木がしげる自然林には、多くの希少な生き物たちが暮らしているのです。

アマミノクロウサギ/一般的に知られているウサギよりも耳が小さく、四肢(手足)も短いのが特徴。原始的なウサギの生態を色濃く残している奄美大島の固有種。

Photo by Judd.

ルリカケス/奄美大島では、その特徴的な鳴き声に由来し『ヒューシャ/ヒョウシャ』と呼ばれている。一時は絶滅危惧種として『環境省レッドリスト』に登録されていたが、懸命な保護活動がみのり、現在は個体数の増加が確認されている。

その代表格が、絵本や童話などにも登場するアマミノクロウサギや鹿児島県の県鳥・ルリカケスオオトラツグミといった奄美大島の固有種たち。

太古の昔に大陸から分裂し、奇跡的な確率で天敵がいない状況が発生したことで育まれた小さく尊い命は、深い森のなかでひっそりと、しかしたくましく、その生命の輝きをまたたかせているのです。

【徳之島】周囲約90キロの隆起サンゴの島が育む独自の生態系

2016年に『日本の貴重なコケの森』に指定された井之川岳や、海水面から顔を出す〝隆起サンゴ礁〟といった特徴的な自然環境をもつ徳之島は、内閣府の調査によると、島内の複数の町が出生率の高さ(※)で国内の上位5位以内にランクインするなど、まさに雄大な大自然と人々の営みが共存する長寿・子宝の島です。

※合計特殊出生率/15歳〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの。

Photo by 環境省徳之島自然保護官事務所

トクノシマトゲネズミ/腰付近にある2センチ前後の針状毛(はりじょうもう)が特徴のネズミで、近縁種とされるオキナワトゲネズミやアマミトゲネズミよりやや大型。

2006年に哺乳類としては国内でじつに8年ぶりの新種登録となったことで話題となったトクノシマトゲネズミをはじめ、鹿児島県指定天然記念物のオビトカゲモドキ、エンジと白の小さな花を春に咲かせるランの仲間・トクノシマエビネなどが生きる貴重な固有種たちの楽園は、日本が世界に誇る生物多様性に富んだ島なのです。

【沖縄島北部】沖縄本島の北部に位置する「陸の孤島」

人口30万人を超える那覇市や開発が進む名護市と陸続きでありながら、かつては整備された道路がなく、船でしか上陸できなかったことから〝陸の孤島〟と呼ばれていた沖縄本島の北部である、通称「やんばる」エリア。やんばるとは〝山原〟の読みであり、「うっそうと草木がしげる原っぱ」という意味をもつ現地の言葉です。

その呼称の通り、大地は亜熱帯性の広葉樹やシダ、コケなどで覆われ、その深い森のなかには、やんばる特有の生き物たちが息づいています。

ヤンバルクイナ/ハブ駆除のために放たれたマングースが自然繁殖したことで、その個体数を一気に減らす結果となってしまった幻の鳥。その俊敏な動きから現地では〝せっかちな人、働き者〟を意味する『アガチャー/アガチー』とも呼ばれている。

「ヤンバルテナガコガネ01」 By 沖縄県 環境部 自然保護課

ヤンバルテナガコガネ/オスは前足の長さが90ミリにも達する日本国内最大の甲虫。個体数の少なさから天然記念物に指定されており、政府や自治体、有志によって保護活動が盛んにおこなわれている。

約40年前に発見され、〝飛べない鳥〟として当時のニュースを騒がせたヤンバルクイナ、沖縄島固有種のキツツキの仲間・ノグチゲラ、そして、体長60ミリを超える日本最大の甲虫類であるヤンバルテナガコガネなどは、かつての人類未踏の地・やんばるだからこそ種を存続できた貴重な存在といえるでしょう。

そして、今もこの生き物たちが力強く生き抜いているのは、人々の自然への愛とそれを守る努力によるものなのです。

【西表島】亜熱帯のジャングルに息づく貴重な天然記念物たち

日本の最南端である八重山諸島に属する西表島は、大地の多くが山がちであることから、人の住めるエリアが海岸部に限られており、現在においても島の面積の90%以上が亜熱帯の自然林という世界的にみても非常に貴重な存在です。

島の北部を流れる浦内川は、全長19キロと、日本最長の信濃川(全長367キロ)の約1/20の長さでありながら、そこには400種を超える生き物が生息しており、魚類の種の多様性においては日本一を誇るとのこと。

Photo by 環境省西表野生生物保護センター

イリオモテヤマネコ/1965年に小説家・戸川幸夫氏によって発見(『国際動物命名規約』に新種として記載されたのは1967年)されたが、以前から現地では『ヤマピカリャー(山で光るもの)』や『メーピカリャー(目が光るもの)』と呼ばれ、その存在は確認されていた。

もちろん、陸上の生き物たちにおいてもその多様性と希少性は高く、なかでも国内外問わず有名な存在がイリオモテヤマネコです。アジア大陸から島が切り離される際に移住したネコ科の生き物が、数百万年の時間をかけて現在の姿形や生態となり、動物学、進化生物学といった様々な分野から注目を集めているのです。

記念切手の絵柄や ゆるキャラ(ピカリャ~)のモデルにもなったイリオモテヤマネコですが、近年の環境省の調査・報告によると、現在確認されている生息数は、西表島全域で、わずか100頭あまりなのだとか━。

陽光さえ届かない自然林で、マングローブが複雑に根をはる浜辺で、シダがしげるうっそうとした森で、何万年にもわたって命を紡いできた島の希少な生き物たち......。

奄美大島、徳之島、沖縄島北部、西表島が『世界自然遺産』に登録され、その存在や価値が世界に発信されることで、彼らを取り巻く環境と未来は、きっとさらに明るいものへと変わるはずです。

......さぁ、彼らの声に耳を傾けてみてください。

日本エアコミューターより、奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島の世界自然遺産候補地と国立公園指定地区の奄美群島5島(※)を結ぶ『奄美群島アイランドホッピングルート』が7月1日に航行開始。

※奄美大島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島