10年後、表参道に「培養肉ビストロ」が登場?

となるかどうかは、正直に言えばまだ定かではありません。ごめんなさい。あくまでこれは未来予想。それでも、ずっと遠くの話にしか思えなかった細胞の培養による肉の生産は、現に試験運用レベルに。つまり、10年後には当たり前の世の中が来ているかも。

そんな「if(もしも)」の世界を描いたこの書籍『10年後の働き方 「こんな仕事、聞いたことない!」からイノベーションの予兆をつかむ(できるビジネス)』(インプレス)では、ここ数年で台頭してきた新ビジネスの事例を集めて架空のストーリー「未来レポート」を制作しています。表題の培養肉レストランはその一例。

未来予報株式会社(曽我浩太郎・宮川麻衣子)が執筆した同書の示す10年後、僕たちの「働き方」、そして「食」はどう変わる?

 

【未来レポート】
農業と食の未来

2027年7月1日 日本・東京
『東京に世界の食事情を変える「培養肉レストラン」が日本初出店』

10年ほど前、「培養肉」といえばグロテスクで美味しくないイメージがあった。培養肉とはつまり、人造の肉で、食料不足により肉が食べられなくなる時代のための代用品に過ぎなかったのだ。

しかし、ここ数年で培養肉を取り巻く状況は大きく変わった。改良が進んで味が良くなり、メディアで好意的に取り上げられる機会も増えている。

高タンパクで低脂肪、そして食中毒などのリスクが低い培養肉は、アスリートから理想的な栄養源として注目されている。特に2025年の世界選手権で、めざましい成績を残したドイツ水泳チームの公開したレシピが話題になると、培養肉は「食料問題の解決策」だけでなく「理想の肉体を作る食品」として見られるようになったのである。

今回紹介する「ビストロ・インヴィトロ 表参道店」は、ニューヨークに本店を置く培養肉専門レストランの国内1号店で、6月にオープンしたばかり。ハンバーグ、ソーセージなど培養肉の持ち味を引き出した料理をリーズナブルな価格で楽しめるのが特徴だ。

また、海外の店舗にはない新しい試みも行っている。それが、青山~千駄ヶ谷近辺の都市型農家の共同体「神宮菜園」と提携した新鮮な野菜の提供である。

近隣の古書店「神宮堂」では、カフェスペースで野菜や果物を栽培しており、ビストロ・インヴィントロの予約者は、その日の食べごろの野菜を選んでメニューに加えることも可能。重厚な装丁の紙の本と、野菜を育てる昼光灯が並んでいる店内にいると、ここがいつの時代で、本当に東京にいるのか、だんだん分からなくなるから不思議だ。

世界の培養肉料理を味わえる同店は、2027年現在の「食」の最先端を体験できる場所である。時間のある人は店を訪れる前に、神宮外苑や青山を歩いて街の空気を感じ、そこに育つ野菜たちの姿を見てから訪問してみよう。

人工肉を美味しく提供、ブランド化も期待。
『培養肉マスター』

アメリカにある「ニューハーベスト」は、細胞の培養による肉の生産を研究しているNPO団体。動物を飼育しないで人工的に動物性たんぱく質(卵、ミルク、肉)を生産・供給。食料を手頃な価格で持続的に提供することを目指しています。

「ニューハーベスト」CEOのアイシャ・データー氏が、ビジネスの大型イベント「SXSW Eco 2015」の基調講演に登壇したことがありました。彼が講演でもっとも焦点を当てていたのが「培養肉」。培養肉とは、牛や豚より採取した筋組織から筋細胞を取り出し、牛胎児血清や成長因子が含まれる培養液にて筋繊維へ成長させた肉のことです。

培養肉は理論上、数個の筋細胞から何トンもの肉が培養できるため、家畜の肉よりも低コストで、環境に優しく生産できるとされています。しかし現在の技術では、培養液に使われる牛胎児血清が非常に高価で供給が不安定なうえ感染症のリスクもあることから、完全に動物を排した方法が研究されているのが現状です。

「ニューハーベスト」の見解では、製造技術の進化で培養肉の製造コストは下がり、一方で人工増加をはじめとする環境的な要因から家畜産業のコストが上がるため、2020年から2030年の間に、現在の農法で生産される牛肉よりも培養肉の方が安くなるとのこと。

しかし、培養肉が世界の食料問題を解決するためには、消費者の受け入れ態勢も必要でしょう。冒頭の未来レポートでも述べたように、今は培養肉と聞いても「何となく気味が悪い、人工的に作られた肉なんて不安だ」と思う人が大半かと思います。

データー氏もそうした懸念は承知しており、「ワインやパンの工場のように培養肉も工場で見学が可能になり、試食もできるようになればいい」と話しています。たしかに、各地の工場が個性を競い、地方ごとにブランドが生まれるようになったら、やがては「培養肉マイスター」とでも呼ぶべき看板職人も登場するかもしれませんね。

失敗しない自宅農業キットを開発・提供
『古代農法応用技術者』

アメリカの大学生ふたりが起業したバック・トゥ・ザ・ルーツ社は、「食の原点回帰」をコンセプトにしており、環境に配慮した自宅で野菜類を栽培できる製品を次々に開発しています。

もともと大学で学んだ「コーヒー粕からマッシュルームを作る農法」を実験してみたことからスタートした同社は、自分たちの作ったマッシュルームをアメリカ大手スーパーに売り込んだところ、契約が成立、大ヒットに繋がったそうです。

その後、ユーザーから「自分でも作ってみたい」という声があり、事業を転換させて栽培キットの開発・販売を始めました。

こうした事例を見ると、場所にとらわれることもなく、農業を自由に営める未来が近づいていると感じます。10年後には「都市型農家」がメジャーな副業となり、都市に住む人々の働き方も変わるのではないでしょうか。現在、同社の製品は自家消費用程度の規模ですが、もっと大規模な栽培環境が今後登場するかもしれませんね。

都市に暮らしながら自宅で野菜を育て、自分で消費するだけでなく、友人や仕事上で付き合いのある人たちに手頃な価格で分けたり、SNSを通じてマーケティングを行うことが可能になる予感…。例えば「古書店で育ったキャベツ」や「デザイナーが作ったハーブ」があったら、ちょっと食べてみたいと思いませんか?

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。