SFのような世界が表現された「植栽照明」。

「植栽というジャンルは、自然への挑戦である。限られた空間で自然環境を形成する作業は、口では言い表せない感覚が必要となる。"生かさず殺さず"という言葉がまさに的確といえる」

これは、「Re:planter」の屋号で活動する植栽家・村瀬貴昭氏の言葉である。

なぜ鉢ではなく、電球なのか。

「植栽照明」

初めて見た彼の作品は、電球のなかに多肉植物や苔が植えられた「スペースコロニー」という照明だった。鉢ではなく、使われなくなった電球に植栽したのはなぜなのだろうか。

無人の土地に打ち捨てられた人工物が、自然によって上書きされていく様子に美しさや儚さを感じたのが、私の表現の原点です。そこから植生や自然の環境循環に興味を持ち始め、"コンパクトな空間で自然を作れないか"と模索しました。辿り着いた一つの答えがこの植物照明だったのです」

「植栽照明」

太陽光の代わりにLEDを、雨の代わりに週1、2度の水やりを、嵐や雪などで枝が間引かれる自然環境の代わりに剪定が必要となる。盆栽を育てるのが初めての人でも、管理ツールが付いているのでご安心を。

話を聞くまでは、正直なところビジュアルのインパクトだけなのではないかと思っていた。だが、この植物照明の球内には自然の摂理が反映されていたのだ

街の景色に新しい視点を。

「植栽照明」

「光源に照らされるスペースコロニーは、苔の胞子の小さな変化まで観察ができます。その細部の視点で生活してみると、出勤中でも街の景色が面白くなる」と村瀬氏はいう。

もちろん都市に「大自然」はない。だが壁伝いにツタが這っていたり、道路のわずかな隙間に苔が生えていたりと、「植物が人工物と融合する様子」はいたるところに見られる。もしも今世界が滅びたとしたら、きっと植物はコンクリートの建物をじわりじわりと侵食していくだろう。そんなSFのような景色を、村瀬氏は作品のなかに表現する。

消費社会へのメッセージ

「植栽照明」

電球以外にも、使われなくなったテレビに植栽したインスタレーションも。

現代社会は新しいアイテムが大量に生み出されて便利にはなっていますが、人の創造性はなくなってきている気がします。創造性がなくなることは、心が貧しくなっているとも言えると思います。しかし、例えば旧製品を捨てる前に植物を植えてみるようなDIYが一般化すれば、社会はもっと豊かになるのではないでしょうか」

現代社会への村瀬氏の視線は、植物を通して語られていく。

「植栽照明」
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TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。