「ネイティブスピーカーを目指すな」、日本トップクラスの通訳者が明かす英語術。

CNNインターナショナルやBBCワールドなどのニュース同時通訳を経験し、世界のトップ・リーダー達から信頼を置かれる通訳者の田中慶子さん。

彼女が教える「学んだ英語」を「使える英語」にするための極意。目からウロコの習得術には、意外すぎる提案が。「ネイティブスピーカーになろうとするな」。

近著『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』(KADOKAWA アスキー・メディアワークス)より、抜粋して紹介します。

なぜ英語を学ぶのか?

私(著者)は、ひょんなことからアメリカで高校に通うことになり、「英語学ぶ」ことと「英語学ぶ」ことでは、大きな違いがあると知りました。

私と英語との格闘は、これからの人生でずっと続くことになるでしょうが、アメリカで学校に通っている間は、「英語学ぶ」ために足りない力を補足すべく、同時進行で「英語学ぶ」という作業を続けていました。

日常会話もままならず、英語環境でサバイバルするために四苦八苦していた頃は、不自由な言語の中で生活するためのスキルを身につけることが最優先でした。しかし、学校に通い、英語で学ぶには「単語力」や「読解力」など、生活するための英語とは異なる力が必要となります。「話す」と「読む・書く」は、相互作用はあるものの、同じ「英語力」といっても種類が違い、力を伸ばすために努力すべきことも違うということが分かったのです。

どちらの場合も「英語がうまくなりたい」という想いは同じでしたが、勉強の仕方や努力の方向性はまったく異なることがわかります。

「ネイティブ信仰」の呪縛

漠然と英語を学ぶ人に見られる傾向のひとつに、「ネイティブ信仰」があるように思います。

「講師はすべてネイティブスピーカー」をうたい文句にしている英会話学校など、日本人が英語について語るとき、ネイティブという言葉をよく耳にしますよね。しかし、思いきって言ってしまうと、ネイティブスピーカーを目指すことは、日本人が英語を学ぼうとすることにおいて障害以外のなにものでもありません

かくいう私も、「ネイティブ信仰」を長年捨てられないでいました。ずっと「きちんとした英語」を話したいと思っていたのです。そのとき私が思い描いていた「きちんとした英語」とは「ネイティブイングリッシュ」のことです。

 あるとき、アメリカの大学で何十年も教えていらっしゃる日本人の先生に「私、いつまでたっても英語がダメなんです。いったいいつになったら、きちんとした英語を話せるようになるのでしょう?」と相談したことがありました。すると、先生はあっさりと言います。

「きちんとした英語を話すという意味がネイティブスピーカーになるということでしたら、それは一生かかっても無理ですよ。私は、もう何十年もアメリカの大学で教鞭をとっています。しかし、今でも自分の英語が完璧だとは思いません。それに対して、アメリカで生まれ育った私の子どもたちは間違いなくネイティブの英語スピーカーです。ときどき私も英語を直してもらっているくらいです」

この話のおかげでいい意味であきらめがついたというか、「一生懸命英語を学んでいるのにネイティブスピーカーからほど遠い私」と嘆くことはなくなりました。

ネイティブスピーカーでなくても、その先生がみんなに尊敬されるすばらしい教授であることは変わりありません。むしろ、英語のハンデを背負いながらも尊敬される人気教授であることに、より畏敬の念を深めました。「すばらしい教授」であることと「ネイティブスピーカーである」ことは違うと気づいたら、ネイティブスピーカーを目指すことにあまり意味を感じなくなったのです。

目指すべきは「国際語」としての英語

「英語が苦手なのに、英語でスピーチやプレゼンをしなければならなくなった。どうしよう?」という相談をときどき受けます。私は、ネイティブスピーカーの「すばらしいスピーチ」を参考にすること……をおすすめしていません。英語に自信がないのなら、ネイティブスピーカーではない人のスピーチをお手本にするべきなのです。

英語ネイティブではない我々が目指すべきは、「国際語としての英語」を磨くこと。そして、そのためにはぜひネイティブではない人のすばらしいスピーチを聞いてほしいです。彼らが英語の巧みさではなく、表情、声のトーン、身振り手振り、存在感のすべてを使って、どんなふうにメッセージを伝えているのかを研究してみると本当に学ぶことがたくさんあります。

数年前のダボス会議のビデオを観ていて、アリババ創業者のジャック・マーのスピーチに引き込まれました。生い立ちから、起業、自分がどのような夢を描き、今後どんなふうに世界に貢献したいかなどを盛り込んだストーリーに魅了され、私はすっかりファンになってしまいました。

とにかく話が興味深くて面白い。ビデオに映っている観客も明らかに彼の話に引き込まれていました。ジャック・マーは中国人です。英語はうまいけれどネイティブではありません。訛りもあります……。若い頃に中国を訪れるアメリカ人観光客のガイドを買って出ることで英語を学んだらしいです。

私がこのビデオを観て、ジャック・マーのスピーチに魅了されたとき、英語の訛りがあることはまったく気になりませんでした。もちろん観客も気にしていません。

国際語としての英語は、ネイティブスピーカーを目指すことではありません。自分らしくクリエイティブに話す方法を模索している人には、ぜひネイティブスピーカーではない人の「すばらしい英語」のスピーチを参考にすることをおすすめします。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。