あの水族館だけにある「特別な空間」は、あなたに前を向かせてくれる。

街灯と自動販売機のあかりだけに照らされた道を、1人歩いていた。目の前にある住宅街の奥に立ち並ぶオフィスビルの先には、東京スカイツリー®がある。

少しかすんだ冬空には、夜間にライトアップされるブルーのライトがぼんやり浮かんで見える。

その日は仕事でミスをしてしまい、落ち込んでいた。入社3年目で仕事に慣れてきていたからこそ、先輩からの久々の喝がやけにひびいた。

散歩でもしようかなと思い、時間を確認しようと携帯の画面に視線をおとすと、地元の親友マイからメッセージが入っていたことに気がついた。

「東京でどこかオススメある?」

そうだ。すっかり忘れていたけれど、もうすぐマイが遊びにくる。年末年始は実家に帰れず寂しくなると思っていたから、嬉しさが込み上げる。

どこに行きたいか聞いてみると、「東京っぽいところかな。ゆっくり話したいし」と、まさに観光客らしいリクエストが。

「水族館はどう?今イベントもやってるし」

なにが良いかと考えた結果、頭に浮かんだ場所は「すみだ水族館」だった。

「行こう!」というマイのふたつ返事ですぐに決まった。

私と親友の友情を照らした「光」

数日後、私はマイと「すみだ水族館」へ行った。

「スカイツリーのふもとに水族館があるとは聞いてたけど、ココだったんだね」

私は「うん」と頷く。ここへ来たのは久しぶりだ。社会人になったばかりの頃は、よく仕事帰りに1人で癒されに来ていた。

入口を入ってすぐの空間には、ふわふわと泳ぐたくさんのクラゲがいる。そしてその先には、美術館に飾られている絵画のように配列された小窓があり、覗くと小魚や熱帯魚を見ることができる。

 「家の近くに海があっても、生き物がいつも見れるわけじゃないし、新鮮だね」

嬉しそうなマイを見て私は胸をなでおろした。港町で育った私たちはよく海へ行っていた。せっかく東京に来たのに「またかぁ…」と彼女がガッカリしないか心配だったのだ。

下の階からつながっている巨大な水槽を横切り、サンゴ礁やチンアナゴを鑑賞できる水槽へむかう途中、左手に、この水族館では見たことがないオブジェが見えた。

5階のペンギンプールと同じ空間にある約6メールのオブジェは、2017年12月2日(土)〜2018年2月3日(土)の期間だけ、限定で置かれているもの。

前日に写真では見ていたけれど、ホンモノはずっと良かった。横にあるペンギンプールの天井には、ミラーボールが取り付けられていて、光の粒がペンギンプールの中や岩場にも反射している。まるで別世界にいるよう。

5階に降りると、マイが水槽の中で泳ぐペンギンをみて「可愛い〜」と声をあげた。

この日もたくさんのペンギンが、広々とした水槽の中で泳ぎまわっていた。ぷかぷか浮いている姿は、簡単に疲れが吹き飛んでしまうほど癒される。

特に、ペンギンが顔を水面から出して浮きながら泳いでいる姿が一番スキ。下の方から覗き見ると、白いお腹だけがポコっと出ているように見えて、心を鷲掴みにされるのだ。

「水族館の中がこんなに綺麗だなんて…。来てよかった」

後ろからマイの声が聞こえた。彼女が見上げている天井にも光の粒が散りばめられていて、まるで太陽の光を反射している海面みたいだった。水槽の横に立つとペンギンと同じ目線で見れて、まるで海の中にいるような気分になれる。

見とれていると、「一緒に撮ろう」とマイに声をかけられ、オブジェの前で2人で写真を撮った。 

携帯をいじるマイの手元を覗いてみると、「地元の親友に連れてきてもらった♡」というコメントをつけてインスタにアップしているところだった。

「オブジェの上にある大きなミラーボールには、ハートマークがデザインされているらしいよ」

少しして、画面をスクロールしながらマイが言った。出口近くにある館内インフォメーションでTABI LABOの記事を見せると、ノベルティがもらえるという情報も見つけたらしい。ノベルティは帰り際にもらいに行くことにした。

先にハートマークを探し始めていた私は、ミラーボールの真ん中らへんを指差した。

「あっあれじゃない?」

パッと見大きめのドットかと思ったけれど、よく見るとハート型をしている。

「本当だ!全部で4つあるみたいだよ」

「えっむずい」

そんなことを言いつつも、すべて見つけることができた私たちは、「ペンギンカフェ」でイベント期間限定のジュースを買い、近くにある大きな水槽の前のソファで休憩することに。

「こうやってゆっくり話すの久しぶりだね」

私は黙って首を縦に振った。頭の中に、先日マイに言われた「ゆっくり話したいし」という言葉が浮かぶ。

「そういえば、最近リョータ君と会ったよ。この前たまたま帰ってきてたみたい」

「えっ?」

元彼の名前に、つい反応してしまった。リョータとは、私が学生時代から社会人1年目まで付き合っていた人。地元に帰るたびに会っていたけれど、仕事が忙しくなりいつの間にか自然消滅していた。あれっきり、一度も会っていない。

「話したかったのってそのこと?」

マイは首を横に振った。申し訳なさそうな表情が、薄暗い中でも手にとるようにわかる。

「実は私、ずっと付き合ってた彼と結婚することになったんだ」

「えっ!?」

親友からの突然の報告に驚いてしまい、祝福の言葉がノドに詰まってしまった。

社会人になってこの数年間、帰省するたびに結婚や妊娠をしたという同級生の話をマイから聞いていた。でもまさか、こんなにも早く自分の親友が結婚することになるなんて、思っていなかったから。

「クリスマスの日にプロポーズされて、嬉しくてすぐ連絡しようと思ってたんだけど、やっぱり直接言いたかったから」

マイの笑顔を見て、私は急に寂しさに襲われた。今日が、結婚前に2人で遊ぶ最後の思い出になるんだろうか。マイはこれから家族をつくっていく…。

親友さえ、自分から離れていく気がした。私はどこまで自分勝手なんだろう。素直に気持ちを伝えられない自分が悔しい。でもせめてひと言だけ、伝えなきゃいけない言葉がある。

「おめでとう」

目に涙がにじむのがわかったけれど、嬉しいのか寂しいのかもわからなかった。

「ありがとう」

マイは私の肩にそっと手を置いた。こんなに意地っ張りで弱い私を責めない彼女の優しさが温かかった。

私が地元にいた時は、よく海岸沿いの砂浜に座りながら2人で日が暮れた後もずっと話していた。噂なんてすぐに広まるような小さな港町で、心から信頼できる友人は私にとって彼女だけだった。

気づいたら、涙が頬をつたっていた。それを隠そうとしてゆっくりあたりを見渡すと、水槽の中でゆうゆうと泳いでいるサメやエイ、そしてオブジェの光が、不思議と心を落ち着かせてくれた。この空間は、おだやかな海のように優しい。

 「さっきはごめん。嬉しかったけど、本当に寂しくて。結婚式には呼んでね」

声を詰まらせながらだけど、素直に思っていたことを伝えられた。

「友人の挨拶はよろしくね。これだけは他の誰にも頼めないから」

マイの言葉に、私はやっと彼女の目を見て笑うことができた。

*イベントの様子は、以下の動画でも紹介しています。