母がいなくなる前に、知っておいてほしいことがある。

人生は、母を求めて泣くことからはじまった。

まったく覚えてはいないけれど、お腹が空いたとき、心細いとき、何かを伝えたいとき、まだ言葉を持たない小さい頃は、365日、母を求めて泣いていたはず。

けれど私たちは、大人になるにつれて「母」を理由に泣くことがなくなる。

映画や小説のストーリーに重ねて泣くことはあっても、子どもの頃のように、ただ母という存在を思って泣いたことが、最近あるだろうか?

実家を出るとき、結婚をしたとき、「死」がリアルになったとき。

別れを強く意識する出来事がなければ、どれだけいつも守られて生きていたのかを、思い知ることは難しい。

目の前でテロが起きた時、
“母を残して死ねない”と思った。

私が、人生で最も「死」を感じたのは2016年3月。ベルギー・ブリュッセルの空港と地下鉄が標的となった、大規模な連続テロが起きたとき。

「あぁ、死ぬかもしれない」。

初めて足を踏み入れた地にひとり、私はその現場を目の前にして呆然としていた。

地鳴りのような音と土埃、叫び声とパニックになっているたくさんの人たち。いつもリビングで呑気に見ていた“イスラム国の目出し帽”は、もう眼に映るほど近くに居たと思う。

どうすることもできずに、ドミトリーのベッドの中で身を強張らせているとき、iPhoneから聞こえる家族の声だけが、私の唯一の救いだった。

「——大丈夫、絶対に」。

なんの根拠もないはずの言葉は、母親という人が口にするだけで、何より心強いものに変わる。

もしここで死んでしまったら、今までの人生で選んできた“自分のすべての選択”は、“誰かの一生抱えつづける後悔”に変換されてしまうのだろう。

あの時反対していれば、あの時気づいていれば、あの時声をかけていれば………

人生を逆再生させながら、ありったけの「あの時」を拾い集めることに、この先何百時間、何千時間を費やして、そのたびに泣きつづける母の姿が簡単に浮かぶ。

どうにか無事に帰らなきゃ、まだ死ねない。

あのとき、私は本当に久しぶりに、お母さんを理由に泣いた。

介するなら、
終わりより“はじまり”

母という存在の大きさに気づくのは、いつも別れを意識する瞬間だ。

親元を離れるときも、結婚するときも、親の役目を終えた意味では、喜ばしい別れかもしれない。死の別れのように悲しいものではなくても、何かが『終わる瞬間』というのは同じ。

そう思っていたけれど、『はじまりの瞬間』を感じることのほうが、自分と母との繋がりの深さを理解するには、何倍も相応しかったのかもしれない。

個展『うまれる。』にうつる
母しか知らない、あなたを知る。

ウェディングブランド『CRAZY WEDDING』を立ち上げ、昨年3月まで代表として走り続けてきた山川咲さん。彼女は2017年7月24日、3,200gの元気な女の子を出産した。

はじめての出産、はじめての育児。想像をはるかに超えた毎日の一瞬一瞬を、ひとつも取りこぼさず残しておきたい。山川さんはそんな思いでシャッターを切り、どんな思いも丁寧に書き残していたそう。『うまれる。』に足を踏み入れて、赤ちゃんとの思い通りにいかない時間を、感情と一緒に読みこんでいく。

 

——こんなふうに、母は私を見つめていたんだ

 

ぽたり、とこぼれ落ちた。知る由もなかった「母だけが知る私」を、拾いあつめていくたびに。『終わり』からでは見えない母のぬくもりは、いつも一番身近なところに生きていた。

山川咲という人を通して辿る、私たちの過去の日常。

東京での開催が終了したあと、追加開催を求める声に応えるかたちで、明日から地方に場所を移してスタートする。

母が、母になっていく時間を。あなたの知らない、あなたの時間を、一度のぞいてほしいと思う。

山川咲 特別ギャラリー
うまれる。
子どもが産まれる、私も生まれる。

【開催日時】
広島開催:11/24(金)~11/26(日)
大阪開催:12/02(土)~12/05(火)
福岡開催:12/08(金)~12/10(日)

Licensed material used with permission by (株)CRAZY
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。