食材が行き着く先は、あなたのバッグかもしれない。

食品残渣(ざんさ)とは、食品の製造過程に出る副産物や廃棄物のこと。

日本は食料自給率が低いと言われる一方で、食品残渣が多いこともたびたび話題にあがる。そこで、食品残渣を天然資材として染め物に活用したのが「のこり染」だ。

手に取ると感じる
自然の色味

「のこり染」は、和菓子屋がこしあんを作ったあとに出るあずきの皮や、野菜ジュースを作ったあとのパセリといった、どうしても出てしまう廃棄物を染料として活用している。

元の食材が持つイメージをそのまま再現した色彩はどれも、手に取る人をホッとさせる優しい色合いだ。

職人技が光る
「染め」のスペック

はじまりは、落花生の製造メーカーが岐阜県の産業技術センターへ出向いたことだった。落花生の外側の殻ではなく、ピーナッツを薄く包むあの茶色い渋皮が大量に出るため、何か活用方法はないか、という相談だった。

同県で創業128年という老舗の染色メーカー「艶金化学繊維」の代表、墨 勇志(すみ ゆうじ)さんはそれを聞き、産業技術センターとともにピーナッツの渋皮を染料として開発することに。ちょうど同時期に、染料メーカーとして地球のためにできる活動を探していたというニーズともぴったりだった。

同社はそれまで、染め専門。布を染めたあとはアパレルなどのメーカーに渡してきたため、”色落ちしない”などの業界基準ともいうべき「染めのスペック」にこだわった。天然素材を使いながらも、色を定着させること。水洗いや日焼けにも負けない染色を叶えるため、職人たちと一緒に試行錯誤したという。

その結果、ピーナッツの渋皮は深みのあるブラウン系の色として再現された。

ちなみに、あの薄い茶色の渋皮はポリフェノールが豊富に含まれており、その効果で内側の豆は酸化されずに守られているという。つまり、天然のポリフェノールが染料に変わった、とも言える。

さまざまな食品残渣を試した結果、11色のバリエーションを実現。果汁を絞ったあとのブルーベリー、栗菓子を作ったあとの栗の鬼皮、県内産の柿の皮などが職人たちの手によって命を吹き返し、綿や麻などの素材を染め上げた。

同社ではこの染料技術を生かし、「のこり染」をブランド化した。自社内でひとつひとつ丁寧に縫製する技術者とともにバッグやキッチン小物を中心とした製造販売を開始。老舗企業がはじめた、職人の伝統技術を生かすエコなスタートアップだ。

食材の終着点から考える
「地球のこと」

目の前の食べ物がどうやって、または何で作られたかを気にする消費者は増えてきた。

では、食べ物に変わったあとの”行き先"を考えたことはあるだろうか。もしも行き着いたのが、あなたのバッグだったとしたらどうだろう?

「のこり染」は、地球や食をめぐる思いを、もう一段階深めてくれるようだ。

取材・写真提供:KURAKIN のこり染
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。