音楽の力で差別や偏見をなくしたい!パワフルな4人の女性ボーカルユニット

先の9月23日、ニューヨークのカーネギーホールで開催された「国際アカペラコンテスト ACA OPEN」で優勝したのは、Women of the World。国籍が異なる4人の女性シンガーで構成されたボーカルグループだ。

そのグループのリーダーとして活躍する植田あゆみさんは、生粋の日本人。高校卒業後に渡米し、ボストンにある名門バークリー音楽院を卒業した後も米国に残り、音楽活動を続けている。今後は、どんな活動を展開していくのだろうか。これまでの活動を振り返りながら、植田さんに詳しく話を伺ってみた。

バークリー音楽院での
様々な出会いでグループ結成へ

ーーまずは、「Women of the World」を始められたきっかけを教えてください。

植田 じつは、このグループは、世界中の人と友達になり、毎日ワクワク過ごしたいという、私の小さい頃からの夢を形にしたプロジェクトなのです。

歌うことが、ずっと好きで、留学にも興味があったのですが、高校卒業後に一人旅をした際にニューヨークで一目惚れした彼が、ハーバード大学院に留学するということを聞き、それが大きな後押しとなりました。彼と一緒に勉学に励みたいと私もボストンにあるバークリー音楽院に留学を決意したんです。 

植田 ちょっと不純な動機ではありましたが(笑)、今思えば、人生において最高の決断をしたと思っています。というのも、こちらの学校は、教師陣も、学生も国際色がとても豊かだから。90カ国以上から留学生を迎えていて、まさに文化と人種のるつぼ。様々な学生との出会い、彼らのストーリーや音楽を学ぶなかで、多国籍音楽グループである「Women of the World」のコンセプトが固まっていきました。 

ーーメンバーは、どのようにして集められたのですか?

植田 グループ結成を思い立った後は、学校のいろんなコンサートに出掛けて、素敵なシンガーを見つけては、手作りの名刺を渡してスカウトしていましたね。今思えば個人情報保護などで、本当はいけないんでしょうが、奨学金オフィスで働いていた友達に頼みこんで、留学生のリストを秘密で入手したりして、コンタクトをとったりしてました。

その頃はまだソーシャルメディアもあまり浸透していない頃だったので、直接の出会いや、直感を大事にしていましたね。 2008年の結成当時は、イタリア、セルビア、メキシコ、ブラジル、ギリシャ、アメリカ、パキスタンのシンガーが参加してくれていました。 

ーー現在のメンバーのお名前と出身国、バックグランドも含めて教えてください。

植田 その後、メンバー脱退、新メンバーオーディションを経て、2017年現在は、イタリア出身のジョージア・レノスト、インド出身のアンネット・フィリップ、ハイチ出身の両親を持つアメリカ人のデボラ・ピエール、私、植田あゆみの4名で主に活動を行なっています。

それぞれがソロアーティストとしても活躍している個性的なメンバーで、ジョージアの得意ジャンルはジャズとオペラ、アンネットはジャズ、ゴスペル、デボラに関してはオールマイティにジャズ、ゴスペル、R&B、ポップスを歌いこなしていますね。それぞれ性格もバラバラだから、長く一緒に時間を過ごしていても全く飽きません(笑)。

ーーとても仲が良さそうですね。ところで、4人は同じ地域、もしくは、同じ場所に住まわれているのでしょうか?

植田 デボラはニューヨーク在住ですが、他のメンバーはボストン在住です。 

31ヵ国語で歌うきっかけは
旅先での偶然の出会いから

ーー31ヵ国語の言語を使ってパフォーマンスを行う意図は何ですか?

植田 高校卒業後の一人旅中に、ユースホステルという主にバックパッカーが利用する安宿に滞在していました。 旅で最初に訪れた地、カリフォルニアのサンタモニカのユースホステルには、世界各国からの旅人が滞在していたのですが、そこでイスラエル出身の女性と出逢いました。

 当時、イスラエルについては、中東のどこかにある戦争をしている国というイメージしかなく、会話に詰まってしまった時に、ふと体育の時間に習った『マイムマイム』のメロディが頭に浮かんだのです。そこで、そのメロディを彼女に歌うと、とても驚かれたんですよね。「なんであなたがその歌を知ってるの? それはイスラエル民謡、マイムとはヘブライ語で水という意味で、雨乞いの歌と踊りなのよ」と。

これには、私もびっくりで、日本の子供は体育の授業で、なぜかこの歌を皆んな習うんだよということを伝えると、そこからどんどん会話に花が咲いていきました。 その瞬間、「あー、この歌を知っていてよかったなぁ」と心から感じたんです。 

これからもっといろんな国の音楽を勉強し、歌を学んだら、世界中の人と仲良くなれる大きなきっかけになるはずだと思い立ったことが、Women of the World結成に繋がる最初のアイデアの種だったと思いますし、それが現在の31ヵ国語の歌のレパートリーにも拡がったのです。 

ーー母国語以外で歌う時は、どうやって言語をマスターするのですか?

植田 母国語以外の歌を学ぶ時は、バークリー音楽院のインターナショナルコミュニティをフル活用しています。その言語のネイティブスピーカーから指導を受け、発音や歌詞の意味を学ぶようにしています。

ーー言語が異なるメンバーとは何語でコミュニケーションをとるのですか?

植田 英語です。互いに母国語では無いので、誤解が生まれることも多々ありますが、それも笑い話として楽しんでいます。 

2時間で世界一周できる
コンサート

ーーこれまでの音楽活動で、植田さんの印象に残っているエピソードを教えてください。 

植田 最近の出来事ですと、やはり、カーネギーホールで開催された国際アカペラ大会の決勝戦で優勝できたことでしょうか。もちろん、優勝に向けて皆んなで頑張ってきたのは確かなんですが、意識の面でも「世界がひとつになるように」という祈りも込めて、集中して歌いました。

それが優勝という形で評価され、お客さんからもスタンディングオベーションと大きな歓声をいただけたことは、大きな自信となりました。これからも私たちの歌声を通して、「皆んなで地球家族になろう」というメッセージを発信していければと思っています。 

ーー他に印象に残っているエピソードはありますか?

植田 バークリー音楽院在学中に開催したコンサートで、50ヶ国のシンガーを集めてワールドピース合唱団を結成して、英語版の『翼をください』を歌わせていただいたことも大きな思い出です。 

反対に「悔しい」と思ったエピソードとしては、グループとして本格的に演奏を始めた頃、キューバの歌を練習していたのですが、メキシコのメンバーに「あゆみのリズムはグルーヴしてない」「とてもスクエアだ」「やっぱりアジア人にラテンのリズムを習得するのは無理だ」 と言われたことがありました。

何度やっても掴めないんです。 今でも、もちろんたくさん練習はしますが、私たちは、その国のグルーヴや発音を完璧に出来るようにはきっとなれないし、そこが私たちの目指すところではないんだなと理解しています。

私たちにとっては、その国の音楽を学ぶ過程がとても大切で、私たちが学んで吸収して、私たちなりに咀嚼した音楽を、私たちなりに表現していこう、と。 私たちのコンサートでは、コンサートに来ていただけると“2時間で世界一周音楽旅行ができます”とお伝えしているのですが、 それをきっかけにお客様がさらにその国の音楽や文化に興味を持つきっかけになってくれたら、こんなに嬉しいことはありませんから。

ーーこれまでにコンサートを開催した国を全て教えてください。 

植田 日本ツアーは3回行いました。アメリカではアラスカや、ハワイを含め20州以上をツアーで周りました。昨年は、イタリアのフェスティバルにも参加しましたし、ありがたいことにカナダや中国にも呼んでいただきました。 

ーーコンサートで周る場所はどのようにして決めているのですか?

植田 アメリカや、日本には、お世話になっているブッキングエージェントの方がいるのですが、それ以外はご縁のあるところに呼ばれて行く感じですね。来年は、とても嬉しいことにヨーロッパや台湾のフェスティバル、また南アフリカからもお声が掛かっています。

音楽活動を通して
文化や人を繋げる架け橋に

ーー植田さんが、平和を世界に届けたいという想いを抱かれたきっかけは? 

植田 母の出身地が広島で、小さい頃から原爆のことや、戦争について考える機会がたくさんありました。学童で読んだ漫画『はだしのゲン』や、映画『火垂るの墓』の影響もとても大きかったと思います。

戦争って一体誰のためにやってるんだろうって?だって、 国と国が戦ってるんじゃない。その国に住む普通の人が、戦わされているわけじゃないですか。愛する家族のために戦うんだと言う人もいるけれど、それが誰かの愛する家族を奪うことになる。そんな戦争って、どう考えてもおかしいと思っています。

ーーなるほど。確かに矛盾していますよね。

植田 キングコングの西野亮廣さんの著書『魔法のコンパス』の中にこんな一節があります。「僕らは戦争をなくすことはできないのかもしれないけど、止めることはできる」と。戦争のことを考える暇がないくらい、少しでも希望を持てる時間を増やすことが、私たちアーティストの役目なのかなと思います。

夢見がちな意見と思われるかもしれないんですけど、世界中に友達がいたら、その友達がいる国に簡単に爆弾なんて落とせないでしょう?その国に友達がいる、その国に行ったことがある、その国の音楽が好き、その国の料理が好き…その国や住んでいる人とちょっとした関係性を持つことで、他人事が自分事になる確率がグッと増える。音楽活動を通して、少しでも文化や人を繋ぐ架け橋になれたらいいなと。 

ーー曲(作詞・作曲)は、どのようなカタチで作られているのですか?

植田 私にとって音楽って、自分の内側の表現手段というよりも、人と繋がる素敵なツールなんですよね。なので、私個人的にはじつはあまり作詞・作曲には興味がないんです。それでも、レパートリーの中には私のオリジナルもいくつかあります。でも、「本当に作曲するぞ」って意気込まないと書けないんです(笑)。

あるいは、他のメンバーのオリジナル曲や既存のフォークソングをアレンジしたりしています。選曲や作編曲は、メンバーのアンネットとデボラの得意分野なので、彼女たちを信頼して任せています。

ーー世界中を旅して、ご自身の中でどのような変化がありましたか?

植田 この世に世界の人全てが納得する普通の概念や、価値観なんて存在しないんだということを日々痛感しています。日本で育ち、教育を受けたことで得た善悪の価値観はガラガラと崩れ去りましたね。

例えば、日本では厳しく取り締まられている大麻に関しても、アメリカの一部の州やオランダでは多少の制限はあれ、法で使用を認められています。また、結婚の制度や恋愛に関しても、同性間の結婚がきちんと認められていたり、複数の人をパートナーに持つポリアモリーというおつき合いの仕方が認識されていたり。

なので、他人の意見や、昔、先生や親から教わった善悪や、既存のルールに惑わされずに自分はどう思うか、どう判断するのかという、自分の物差しを持つことが大切なのだと。でも、決して、それを周りに強要しないことも学びました。皆んなが同じように考え、同じように生きることを目指すのではなく、皆んな違って、皆んないいじゃんと、お互いがお互いを尊重し合える世界を目指したいと思います。

だから、私たちから「色々な方の人生にYES!」と伝えていきたいですね。 

音楽の力で
差別や偏見をなくしたい

ーー今後は、どんなヴィジョンをお持ちですか?

植田 Women of the Worldは、世界の人や文化が繋がり、発見や喜び、愛、平和、感謝といったメッセージを発信するプラットフォームなんです。コンセプトと表現してもいいかもしれません。

なので、今後は音楽活動だけに留まらず、Women of the Worldフェスティバルの企画、子供たちのためのサマーキャンプ、文化交流ワークショップの開催、世界のお料理を紹介するテレビ番組なども制作していきたいです。

ーーWomen of the Worldのゴールは、何でしょうか?

植田 そうですね。Women of the World基金を設立し、世界各国の小中学校を訪れて、人種差別、様々な国や文化に対する偏見を音楽や私たちとの触れ合いを通してなくしていきたいです。

2020年には東京オリンピックもありますよね。 196ヵ国から音楽家を招致して、演奏できたら嬉しい。日本の皆さんの協力も仰ぎながら、パワフルな国である日本から世界へ平和のメッセージを発信していきたいです。

将来、世界各国の若い人たちとWomen of the Worldの輪を拡げたいです。私たちがお婆ちゃんになって、グループを離れても、新生Women of the Worldを応援できるような基盤をつくりたいです。

ーー今後のコンサートスケジュールを教えてください。 

植田 今年のコンサートは、ほぼ終了しました。メンバーは、それぞれ自分の国に帰って活動を行います。 私も姉の結婚式のために一時帰国するのですが、11月25日に自身が演奏している癒しの楽器クリスタルボウルのコンサートを行う予定です。来年は、夏にヨーロッパとアジアでのツアーを控えています。またアメリカ国内で未開拓の州にも足を運べたらと考えています。 

ーー最後に、TABI LABOの読者にメッセージをお願いします。

植田 現在は老若男女関係なく、国籍も越えて、皆んなで繋がって、皆んながクリエイターになって、皆んながお客さんになって、職業の垣根も越えて、面白いことに挑戦していける時代ですよね。

いつも刺激的なニュースを心待ちにしているTABI LABOの読者の皆さんともコラボレー ションさせて頂きたいと思っていますので、音楽・多国籍・女性・平和・教育・夢・ワクワクといったキーワードに興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひコチラまでご連絡ください。

編集後記

この記事をまとめている間、植田さんからホットなニュースが届いた。Women ot the Worldの新アルバムがグラミー賞で3部門の一次審査を通過したとのこと。今後、11月後半には、正式なノミネート作品が審査発表されるので、心待ちにしていよう。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。