今を生きる、白いうつわ。

こういう仕事をしていることもあり、毎日いろんな情報にふれる。気になる情報はたくさんあるものの、そのなかで記事化するものはごくわずかだ。そしてそのボーダーラインは私のなかでは明確で、それは、そこに物語があるか、ということである。

以前、D&DEPARTMENT監修の佐賀ツアー「シェアトラベル」に参加した、という記事をアップしたのだが、そのときとりわけ気になったお店があった。それで、いつか記事を書きたいなあ、と思っていた。

そのお店は、今村製陶 町屋。有田焼の新ブランド「JICON」の直売店だ。私はここで、すてきなうつわと、すてきな物語に出会った。

有田焼といえば
青白っぽい感じだけど...

「JICON」のうつわは、クリーム色っぽいあたたかな白色だ。

「有田焼というと、こういう色はあまりよくないとされるんですけどね(笑)」

そう語ってくれたのは、代表の今村肇さん。
今村さんは創業350年の窯元「陶悦窯」の次男だ。多治見市陶磁器意匠研究所で陶磁器を学んだあと、多治見にある美濃焼の問屋で3年間勤めた。その後、実家の窯元で修行を積みながら、2012年には手工業デザイナーである大治将典さんと初めてオリジナルの有田焼を作った。2014年に独立し、現在は奥さんの麻希さんとともに直営店を経営している。

「正直でうそのない暮らしを実感したいという思いから、“素材感のある暮らし”のためのうつわにしたいと思いました。そして、ありのままの陶石の白・釉薬の白を大切にして、生成りの白を作り上げたんです」

私は、1枚のうつわをいろんな用途に使う。和食にはこれ、中華にはこれと決めている人がいるならそれはそれで感心するけれど、現代の暮らしを営む私たちに必要なのは、孤高の1枚というよりは、日常によりそってくれる1枚なのでは、と思っている。

そして、それは白ければなんでもいいというような話ではなく、そのなかでちゃんとお気に入りの1枚であってほしいのだ。とりだすとき、料理を盛りつけるとき、食べるとき、毎回「ああ、大好き!」と思いたいのである。

「JICON」のうつわは、西洋・東洋・和、どんな料理にもしっかりよりそってくれる。そして、陶石や釉薬の素材感がのこったナチュラルな質感には、「私のうつわ!」と思わせる愛おしい表情がある。

「釉薬は、天然の灰をベースに使っています。合成の灰を使ったほうが均一のものができるし、値段も10分の1ほどにおさえられますが、天然だからこそできたムラはうつわの雰囲気につながると思いました」

それでも「日用のうつわであってほしい」という今村さんの願いから、うつわはすべてお手頃な価格。中皿やスープ皿などは2000〜3000円くらいの価格帯。おみやげにもおすすめな箸置きは2個入で1200円だ。

だけど、この白には
大変な物語が...

その物語を紹介する前に、そもそも有田焼はなぜ青白いのか、という話。

磁器を焼くときには、還元焼成と酸化焼成という2つの焼き方がある。

一般的に、有田焼は還元焼成で作られる。
還元焼成は、炉のなかに燃料を大量に入れ、酸素濃度が低い状態で焼くことをいう。燃えるためには酸素が必要なので、酸素は焼き物の原料から引き抜かれていくのだが、それによって鉄分が青く変色していく。それがあの青白さの理由だ。

一方、JICONのうつわは酸化焼成で作られる。
こちらは、炉のなかに酸素が十分含まれた状態で焼いていく。それによってうつわの鉄分が酸化し、茶色に変わる。JICONのうつわがクリーム色っぽいのはこのためだ。

「JICONのうつわに使っている陶石は、そもそも鉄分が多いんです。こういった石はよくないものとしてうまく活用されず、それが問題となっていました」

よくない石、というのは、低火度で磁器化してしまう陶石のことだ。
有田焼のほとんどの窯元では、高強度の青白いうつわを焼くため、1300度の火に耐えうる石を使っている。これより低い温度で磁器化してしまう石は、有田焼には使えないものとして他産地に安く販売されてしまう。

現在の採掘環境でいい石を採掘するには、よくない石も大量にとれてしまう。採掘コストは上がり、陶石を採掘する会社からは「もうやめようか」という声もあがっていた。

「そのよくない石をちゃんと使えるようになれば、むだに山を掘ることもない。そして、陶石を採掘する人たちも助かるんじゃないかと思いました」

JICONでは、この鉄分の多い陶石を1240度でも焼けるよう独自にブレンド。これまで使えなかったものを活用し、さらにそこで生まれる「生成りの白」はブランドの付加価値となった。

「くせのあるものだから使いづらいところもあるんですけど(笑)、それでもちゃんと使ってあげたい。それが僕の誇り。そしてJICONの意義だと思っています」

ブランド名の「JICON」は、仏教用語の「爾今(じこん)」からきている。「爾今」、それは「今を生きる」という意味だ。有田に長く続く白磁の技術を活かし、その問題と真摯に向き合いながら、今村さんは「今を生きるうつわ」を作り続けている。

Licensed material used with permission by JICON
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。