謎のカザフスタン人を助けたら、予想外の出来事が待っていた。

先日、『「Where are you from?」から始まった、ある奇跡のエピソード』という記事を書いたところ、ありがたいことに、たくさんの反響をいただいた。

これまで多くの外国人観光客と接してきたが、今回はもうひとつ、強く印象に残っているエピソードをご紹介したい。

カザフスタン人からの
怪しげなメッセージ

数年前、まったく知らない外国人の方から、突然Facebookでメッセージが届いた。それもすごく変な日本語で。もしあなたがこのメッセージを受け取ったとしたら、どんなアクションを起こすだろうか?

察するに、この人の姉が韓国にいて、日本に来たがっていると。でも、VISAの関係(?)で、日本人に保証人になってもらう必要がある。だからあなたが姉の保証人になってくれませんか、ということのようだった。

調べてみると、確かにカザフスタン人が日本で90日以内の滞在をする場合、短期滞在ビザの申請を行う必要があるようだ。日本人や日本で暮らす外国人が「身元保証人」となり、手続きをしなければいけないらしい。

いや、それはそれとして、どうしてぼくが…?

正直このメッセージを読んだとき、迷惑メールかもしれないと思った。昔、LINEが乗っ取られたときに「今何してますか?忙しいですか?」と勝手に送られてしまったことを思い出し、これも新手の詐欺なのでは、と怪しんだ。カザフスタン人の身元保証? ぼくのメールアドレスを送る? どう考えたって怪しいじゃないか。だから、無視しようと思った。最初は。

でも、ちょっと待てよ、と。もしこれが、本当に切実なもので、たまたまFacebookで見つけた日本人のぼくに、藁をもすがる思いで送ってきたメッセージだとしたら…。ぼくは、この人のお姉さんの「日本に行きたい」という子どもの頃からの夢を捨ててしまうことになるかもしれない。

考えられる可能性は4つだった。

①ぼくが信じて、騙されて傷付く。
②ぼくが信じて、カザフスタン人の夢を叶える。
③ぼくが無視して、被害を回避する。
④ぼくが無視して、カザフスタン人の夢を捨てる。

この4つを天秤にかけたとき、ぼくにとって一番つらかったのは、①ではなく、④だった。リスクを負ってでも、可能性に賭けてみたい。

それにぼくも過去、様々な人に自分の夢を応援してもらった経験がある。彼らは見返りを求めず、純粋に応援してくれた。なんとなく、ぼくはこの人を通して、世の中に恩返ししたいと思った。

念のため、この人のプロフィールを見たらアスタナ(カザフスタンの首都)在住とあったし、それに友人たちと笑顔で写っている写真もたくさんあったから、直感的に、悪い人じゃないなと思った。

ぼくはこの人に返信した。

「はい、いいですよ」と。

5分ほど経って、誰かから友達リクエストの申請があった。見てみると、カザフスタン人。さっきの人の姉だった。プロフィールには、ソウル在住とある。

(本当に、切実なメッセージだったんだ!)

これから何が始まるんだろうと、ドキドキしてきた。ぼくと何の繋がりもなかった見知らぬカザフスタン人は、無事に日本に来ることはできるのだろうか。もはや他人事とは思えなくなっていた。

念のためこの人のタイムラインも見て、怪しい人ではなさそうということを確認した。そして申請を承認すると、すぐに彼女からメッセージが届いた。

「hello」

Aigulさん、日本へ

後でわかったのだが、最初にメッセージを送ってきた方は、以前からぼくのFacebookの投稿が好きで、Google翻訳を使ってまでして読んでくれていたのだという。前回の記事の話も読んでくれたようで、「この中村さんという人なら、協力してくれるかもしれない」と思ったらしい。

その後、日本へ来たがっているという姉のAigulさんから実際にメッセージが届いた。英語でやりとりしてみると、彼女は本当に日本に憧れているようだった。仮にぼくが保証人になるとしたら、色々とややこしい手続きが必要なのだが、結論から言うと、その必要はなくなった。

このAigulさんは、妹さんの知らないところで「旅行代理店に保証人の手続きを代行してもらう」という別ルートの手段を取っていたそうなのだ。結果として、ぼくが何もしなくても、彼女は日本に来られることになった。

普通であれば、「よかった。それでは日本での滞在を楽しんでくださいね。バイバイ!」でやりとりが終わるかもしれない。しかし、幸か不幸か、ぼくに連絡をしてしまったのだから、それで終わらせるわけがない。

「これも何かの縁ですから、東京に来たら会いましょう」と伝えた。すると彼女も喜んでくれて、到着日の19時に、日比谷で会う約束をした。

ところが、だ。当日の朝、念のため連絡をしてみた。

「今日の19時ですね。成田空港には何時に着くんですか?」

「22時に着きます(^_-)-☆」

意味がわからない。

「じゃあ19時に会えないじゃん!」

早くもカザフスタン人の洗礼(?)を受け、いったん会うのは諦めた。

しかし、面白かったのはここからだ。22時に成田着というのは、けっこう遅い時間だ。

「今日はどこに泊まるの?」

「馬込のホテルです」

「え、その時間に電車あるの?」

調べてみると、22時42分の電車が、終電だった。それに乗り遅れると、彼女は馬込まで辿り着けない。日本を初めて訪れる外国人観光客の多くが、「成田空港の都心からの遠さ」にびっくりするが、彼女もそのひとりだった。まさか馬込まで、空港から1時間45分もかかるとは思っていなかっただろう。

飛行機が定刻通りに着いて走ったとしても、乗れるか乗れないかのギリギリというライン。右も左もわからないカザフスタン人が、果たしてスムーズに電車に乗れるだろうか。しかも乗り換えが2回あり、難しい。しかし、なんとか彼女を馬込まで送り届けなければ! ぼくは謎の使命感に燃えた。

まず、英語バージョンの空港内の地図と東京の路線図を送った。とりあえずそれを画像保存しておいてと。

次に、馬込までの乗り換え案内を英訳して、送った。

さらに、そこまでしても切符売り場で迷うと思ったので、「京成線の駅に着いたら、すぐに切符の買い方と、どの電車に乗ればいいかを近くの人に聞きなさい!日本人は親切だから大丈夫!」と伝えた。

そして、「親切な日本人の方、友人のカザフスタン人が馬込まで行こうとしています。22時42分発の京成線に乗せてあげてください」という日本語メッセージを写真に撮って送った。

「それを見せるんだ」

たとえここまでやっても、無事に乗れたら奇跡だな、と思った。

深夜3時。iPhoneが鳴って、起こされた。

Aigulからのメッセージだった。

「日本に着いたよ!」

「終電は間に合った?」

「間に合った!」

という言葉のあとに、写真が届いた。

「この人たちが助けてくれたの!日本人はとても親切ね!」

「oh really nice. ha ha ha」

どうだ、見事な遠隔操作だっただろう、と笑いながら、ぼくは再び眠りについた。

後編につづく

Licensed material used with permission by 中村洋太, (Facebook), (Twitter), (Instagram)
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