泊まらないAirbnbの「体験」がすごかった

「暮らすように旅しよう。」

数年前、YouTubeの広告で初めてこの言葉を目にしたとき、秀逸なキャッチコピーだな、と思った。とてもシンプルな言葉で、不特定多数が漠然と願っていた(そして漠然と無理だと思っていた)ことを言ってしまったからだ。

このキャッチコピーを掲げるサービスは、みなさんご存知、Airbnbである。

民泊という概念を普遍的なものにしたAirbnbは、2016年から新たなフェーズに突入した。それが……。

「体験」

ちょっとわかりにくいかもしれないが、「宿泊先」の左横に、「体験」という項目があるのにお気づきだろうか。そこをクリックすると……。

これが「体験」のページだ。
サイクリング、料理教室、工芸体験からギャラリーツアーまで、世界各国のローカルな人たちがホストとなり、ユニークな「体験」を提供するコンテンツ。それが、その名のとおり「体験」なのだ。

「体験」は、2016年11月にスタートしたコンテンツだ。これは、新サービス「トリップ」の一環としてローンチされたもので、宿泊だけではなく、旅そのものをユニークなものにするという目的のもと、現地のエキスパートがホストとなり、参加者を募って開催される。

12都市500件からスタートした「体験」は、今や利用者は3倍以上に増え、サービス対象エリアも30都市以上を突破した。日本では、ローンチ当初に東京、その後2017年3月からは大阪も対象エリアとなっている。

依然として「Airbnb=民泊」というイメージが強く、「体験」を見逃していた私は、これを知ったとき目から鱗だった。

だって、考えれば至極当たり前のことだ。
もちろん、行政が観光施策をたてたり、そのベースづくりをしたりというのは重要だ。だけど、ローカルフードを食べたいなら、その地域の商店街に毎日通っているおばちゃんに尋ねるのが一番じゃないか?

不特定多数の「漠然と願っていたこと」を、Airbnbはまたもこうして叶えてしまったのである。いやはや、すばらしい。

とはいえ、「体験」って結局何するの?という声もあるだろう。
費用は? 準備は? リスクはないの? そういうときは、とりあえずやってみるべし!ということで、LOCALチームを代表して、行ってきました!

Make miso with a master!

今回私が選んだのはこちら。

宮城県・カネサオーガニック味噌工房をご家族で営んでいる、安部美佐さんの「体験」。その名も、Make miso with a master。カネサが育てた有機米・有機大豆を原材料に使った「手づくり味噌キット」で、自分で味噌を作れる「体験」だ。

全行程は3時間。費用は1人あたり6000円。用具などはすべて用意してくれるが、エプロンのみ要持参。実際に味噌を使った料理を食べることができるので、「ランチ付き」とある。

ちなみにガイド言語は「英語」とあるが、これは参加者によってフレキシブルに対応しているとのこと。私が参加した回は全員日本人だったので、日本語で説明してくれた。

「開催日程へ」を選択すると……。

予約可能日の一覧が表示されるので、都合のいい日を選択しよう。

他にも、以下の確認項目がある。

参加人数
「定員残り○名です」といった表示がある。「体験」は1人からでも実施されるが、最高受け入れ人数の設定は、「体験」によってさまざまだ。

参加条件
年齢など、参加に必要な条件が書かれてある。今回は「18歳以上のみ対象」とあった。

キャンセルポリシー
万が一キャンセルしなければならなくなった場合などの条件はここに書かれてある。必ずチェックしておくこと。

日程を選択し終わったら、あとは流れにそって必要事項を入力していくだけだ。まず出てくるのは、

さっきも確認したけれど、念押しで参加条件が出てくる。
18歳以上なので大丈夫です! 次!

友人が一緒に参加する場合などは、この「参加メンバー」ページでゲストを追加しよう。今回は私ひとりなので追加なし。次!
最後は、支払いのページ。

支払いはクレジットカードのみ。これは「宿泊」と一緒。
すべて入力し終わり、確定したら……。

予約が完了すると、集合時間、集合場所の詳細が載った旅程表が確認できるようになる。
予約コードが発行されるので、万が一のため控えておくとGOOD。疑問があればホストに連絡することもできる。

「宿泊」ならば、ここからホストと鍵の受け取りについてやりとりをしたりしなければならないが、「体験」はこれでOK。あとは当日を待つだけだ。

味噌、作りまーす!

開催日当日。
開催場所となっていた松陰神社前のコミュニティスペースでは、すでに私以外の5人の参加者が集まっていた。

お話を聞いてみると、「カネサの商品がおいしくて興味をもった」という方や「近くに住んでいるので来てみた」という方も。

そう、「体験」は何も旅に限ったことではないのだ。近所で、週末に、何かわくわくすることが行われているかもしれない。エリアはまだ東京・大阪と限定されているが、旅行の予定がなくてもぜひチェックしてみてほしい。「体験」きっかけに、旅行の予定を立てたくなるかもしれない。

開始時間になり、みんなで美佐さんがセッティングしてくれたテーブルにつく。

美佐さん、よろしくお願いします!

「お味噌作りワークショップ」、まずは座学からスタート。

発酵とは? 麹とは? 味噌はいつ頃から人々に親しまれているの?
まずは味噌そのものへの理解を深めてほしい、と、座学を大切にしている美佐さん。手作りのプリントを使いながら、普段食べているだけではわからない味噌の世界を学んでいく。

ちなみに、味噌の歴史は2000年前、弥生時代までさかのぼる。魚・肉などを塩で漬けた「醤(ひしお)」がはじまりだそうだ。それからというもの、平安時代は贅沢品、戦国時代には戦陣食として食され、日本の食文化に欠かせないものになっていったのだ。

ちなみに、鎌倉時代には武士の間で「汁講(しるこう)」が流行ったそう。これは現代でいう鍋パーティーのようなもので、ホスト側は味噌汁を作り、参加者は各自ごはんを持ってきて、味噌汁をかけて大騒ぎしたらしい。おもしろい!

産地ごとの味噌の特徴についても学んでいく。座学の途中では、味噌当てクイズも。

とうもろこし味噌、麦味噌、八丁味噌、西京味噌、8年熟成した味噌、美佐さんオリジナルの味噌、そして「リビングで自然発酵しました!」という通称・リビング味噌、計7種類。わかっていたつもりだが、比較すると改めて味噌ごとの特徴が際立つ。味はもちろん、色、舌ざわり、香りも違う。なんだか神秘的だ。

ちなみに、この時点で今日のお味噌汁にとうもろこし味噌を使うことが決まりました。ランチが楽しみ!

約1時間の座学を終え、ついに味噌作りスタート。

「とても簡単なので、これでみなさん、おうちでお味噌が作れるようになりますよ」

美佐さんの言葉にみんなで驚きながら、「手作り味噌キット」の袋を開ける。なかには、仕込み用のビニール袋、作り方が記されたハンドブックのほか、「有機塩切り糀」が入っている。

お米の表面に白い粉のようなものがついている。これが麹。

麹は、日本の国菌である「ニホンコウジカビ」を蒸した米や麦につけ、約35℃で48時間発酵させたもの。この菌を米に生やせば「米麹」、麦に生やせば「麦麹」とよばれるが、菌はすべて同じものだ。

この麹をいかに完璧に作るかが、味噌を作る上でとても重要なのだという。日本酒造りにも「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」という格言があるそうだ。

味噌に麹を入れる理由には、

①甘みをくわえる
 米に含まれるデンプンをブドウ糖に変換してくれるため

②旨み・香りをくわえる
 大豆に含まれるタンパク質をアミノ酸・ペプチドに変換してくれるため

などが挙げられる。このほか、「1粒の麹には400もの成分がある」といわれるほど、多様な働きをする。

そして、「麹」と「糀」の違いだが、

麹:中国から入ってきた漢字。ちなみに中国では麦の粉を餅状に固めて麹を作る。
糀:日本で作られた漢字。米にカビが生えたときに花が咲いたように見えることから、このような漢字が生まれた。

とのこと。カネサでは、日本で作られた漢字の「糀」をあえて使用している。

まずはゆで大豆を潰す作業からスタート。

大豆は、3倍の量の水に18時間漬けたあと、2時間(圧力鍋だと12分)煮なければならないため、美佐さんが事前に準備してくれていた。下準備をする前の大豆と比べると、その大きさの違いは一目瞭然。

これをボウルに入れて、手でこねるようにすりつぶしていく。

ちなみに、大豆は冷めすぎると潰しにくいそうだ。

大豆のつぶつぶ感が残っているほうが好きな方は、最後まですりつぶしてしまわなくてもOK。私は「つぶつぶが好き!」——というていで、途中でギブアップ(いや、思ったよりめちゃくちゃ体力いるんです、これ……)。

大豆がペースト状になったら、糀を入れる。
半分ずつくらいにわけて混ぜ込んでいくと、全体がまとまりやすいとのこと。

「うまくいってますか?」

ボウルのまわりに大豆ペーストやら糀やらが飛び散っている私に、美佐さんが優しく声をかけてくれる。感涙。

「いつも、6人中ひとりくらいは、散らかっちゃう人がいます(笑)」

今回は私の番らしい。
おいしい味噌ができるよう、がんばります! こねこねこねこね……。

大豆と糀がよく混ざったら、次は仕込み用のビニール袋に入れていくのだが、その前にボール状にまとめていく。これは、ビニール袋に空気が入らないよう詰め込むための工夫だ。

ボール状にしたら、ハンバーグを作るときのように叩いて空気を抜く。そして、ビニール袋の奥に詰め、空気が入らないように潰していく。

うまく入れていかないと袋からあふれてしまう——とわかっているのに、「袋、足りません!!」。美佐さんにぎゅっと奥に詰めてもらって、仕切り直し。落ち込んでいると、参加者のみなさんが「私たちは主婦だから、スーパーの詰め放題で訓練してるんです(笑)」とフォローしてくれた。そして「角よ! 角が大事!」とのアドバイスも。心強い!

味噌作りはこれにて終了。
美佐さんの言う通り、工程自体はとてもシンプルだった。しかし、私が人一倍不器用なのもあるが、思ったより工夫と労力がかかるものだった。そのなかで、味噌が「生き物」だということを、知識と手のひらを使って感じることができた。毎日味噌を使っている主婦の方でさえも、「味噌ってこうなっているんだね」「こうやってできてるんだね」と感心していたくらいだ。

おまちかね
ランチの時間です

味噌作りを終えると、もうお昼時。
美佐さんが用意してくれた味噌を使って、みんなでランチの支度をする。ほとんどのメニューは美佐さんが事前に調理してくれていたのだが、味噌おにぎりはみんなで作った。

有機甘酒」と混ぜ合わせた味噌を両面にぬり、しその葉をかぶせ、ガスバーナーであぶっていく。味噌は香ばしくなり、いっそう食欲をさそう。

ほかにも、味噌汁、アボカドの味噌漬け、チーズの味噌漬けがテーブルに並んだ。美佐さんにレシピを教えてもらったり、午前中の味噌作りを振り返ったりしながら、みんなでわいわいランチを楽しむ。

味噌を学び、味噌を作り、味噌を食べる。そんな充実の「体験」はこれにて終了。あっという間だったが、知識欲も食欲も満たされた3時間だった。

……いやいや、まだ終わりじゃありません!
「体験」が終わると、レビューページへのリンクがついたメールがAirbnbから送られてくる。

「レビューを書く」をクリックすると、Airbnbのページに飛び、今回の「体験」を評価・コメントすることができる。コメントはほかのユーザーにとっても貴重な判断材料になるし、何より、ホストへの感謝を伝える最良の手段。忘れずに入力!

初「体験」を終えて
期待と懸念点

美佐さんは実際に味噌工房を営んでいるエキスパートだが、「体験」のホストの多くは一般人だ。それをリスクに感じる人もいるかもしれないが、私はそこにこそメリットがあるのではないか、と考えた。

ホストは、何かを伝えたい、特別な価値を提供したいという熱意を持っている。そのために、つねにベストな伝え方を探そうと努力している。
美佐さんであれば、参加者が日本人か海外の方か、味噌について詳しいか全く知らないかで、「体験」のスケジュールをフレキシブルに変えるのだそうだ。その妥協しない姿勢は、自らの意志でホストになることを選んだからこそだと思うし、参加者にもいい影響を与えてくれたように思う。

そして単純に、ローカルを体験する方法が多いということは、私たちにとってポジティブなことだろう。料理が好きな人、自然が好きな人、伝統に興味がある人……行政がカバーしきれないほどの数とバラエティを満たすコンテンツとして、「体験」は有効だ。

一方で、いくつか懸念点もあるだろう。

まずは、ホストの質の問題。
誰もがホストになれてしまうことで、「体験」の質がどこまで保たれるのかは気になるところだ。しかし、「体験」については、Airbnbがあらかじめ体験内容などを確認してからでないと「体験」を作成できなくなっている。そのため、1800件を超える「体験」の90%以上が5つ星の高評価を獲得しているとのことだ。

そして、言語の問題。
「体験」の基本言語は英語だが、なかには英語ができないホストやユーザーもいるだろう。現時点では通訳サポートなどはなく、今後は、自治体へのサポートを依頼する、もしくは翻訳デバイスを活用するなどして対応していきたいとの返答をもらった。

このほか、ページの作成機能もまだブラッシュアップしているところだという。

まだ発展途上にあるコンテンツだが、個人的にはこれからも「体験」してみたいと思っている。今回の「味噌」が、ある町では「サイクリング」に、またある町では「着物」になり、新しいものに出会えることを想像すると、わくわくするからだ。「体験」は、そんな気持ちを私に与えてくれる、ひとつの選択肢なのである。

Airbnbの「体験」ページはこちらから。

Photo by 高木亜麗
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。