ドイツ人が感動した、究極の日本文化「金継ぎ」

四半世紀に渡ってヨーロッパ暮らしをしているというジャーナリストの片野優さんと、ライターの須貝典子さん夫婦。彼らは雑誌の取材でヨーロッパ中を駆け巡り、そこで日本が好きだという現地人に多く出会ったそうです。

そんな彼らの共著『ヨーロッパ人が来て見て感じて驚いた! 不思議の国のジャパニーズ』(宝島社)では、ふたりが出会ったフランス人、イギリス人、オランダ人、デンマーク人などから聞いたという、「日本で体験したユニークな出来事」が描かれています。

ここで紹介するのは、あるドイツ人が伝統工芸を実体験した際のエピソード。

体験したのは
「金継ぎ」

北国出身のエッちゃんは、ドイツ人の男性と結婚してから、かれこれ10年ほどドイツで暮らしています。夫のマティアスはおおらかで、日本の文化を愛してやみません。

一般的に、ドイツ人は誠実で正直。理詰めで哲学的な思考回路を持つゆえ、理性で感情をコントロールしようとします。四角四面の石頭で融通がきかず、白黒をはっきりさせないと気がすみません。しかしマティアスは、そんなステレオタイプのドイツ人とは違って、内向的で強い自己主張もなく、フレキシブルな人物です。

マティアスに「一番好きな日本語は?」と尋ねると「キンツギ」という言葉が返ってきました。恥ずかしながら日本人の私(著者)も知らなかった言葉です。

キンツギは「金継ぎ」と書きます。茶の湯が盛んな室町時代に始まったもので、割れたり、欠けたりした陶器を漆で接着し、接着部分を金粉や銀粉で装飾して修復します。金継ぎの素晴らしさは、壊れてしまった陶器にそれ以上の芸術的な価値を吹き込んで、新たな風情や味わいのある作品を生み出すことです。

一度壊れたものが
新しく生まれ変わる

エッちゃんは2年に1回ほど里帰りをしていますが、ドイツの夏期有給休暇は長いので、必然的にマティアスも一緒についてくることになります。彼と金継ぎとの出会いはこのときにありました。東京の表参道にある陶芸教室の外国人向けコースに参加した際に、金継ぎを体験したのです。

まずマティアスの前には割れた小ぶりの茶碗の破片が差し出されました。講師の指示に従って、破片を瞬間接着剤で貼り付ける作業からスタートします。

実際の金継ぎ職人は瞬間接着剤は使いません。ヘラでのり状につぶしたご飯(白米)に生漆を加え、水で練った砥の粉(砥石を切り出す時に出る粉末)を混ぜてよく練ったのり漆で貼り付けて1週間乾かします。乾いたところで、はみ出している漆を金ベラで削りとり、傷がつかないように丁寧にサンドペーパーをかけて平らにしていくのです。

ですが、外国人観光客にはそんな悠長な時間はないので、瞬間接着剤で代用します。マティアスは、極細の筆を使って、代用漆を割れ目にそって塗りつけたあと、上から代用金粉をまき、はみ出した金粉を拭きとり完成させました(本来は、乾いたらもう一度サンドペーパーをかけて拭き漆でツヤを出します)。

この体験をして以来、すっかり金継ぎに傾倒してしまったマティアスは、ネット販売で金継ぎキットを注文し、自宅でせっせと金継ぎ職人としての腕を磨いているそうです。今では職場の同僚や近所の人たちまでもが、欠けたカップやお皿を持って彼のところへやって来るようになりました。

マティアスは、「金継ぎによって器が世界で唯一無二のモノに変身する。そして一度壊れたものが新しく蘇生して、より一層の深い美と価値を生み出すことが素晴らしい」とその技術と芸術的意味を熱く語ってくれました。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。