『Reborn-Art Festival 2017』 "1泊2日"アート体験で、わかった気がした。

鹿の解体に漁のしかけと、怒涛の1日目が終了し、翌日。2日目、最初のプログラムは、朝4時起きで漁に出るところからスタート(寝坊しなくてよかった……!)。

〈DAY2 4:30〉
漁師の朝は早いんだぞ!

刺し網漁に向かうため、バスに乗り、ホテルを出発したのは4:00。
プログラムの講師は、昨日仕掛けを教えてくれた甲谷さんと土橋さん。

今年88歳になる甲谷さんは、中学を卒業してから72年、海に出続けているという。土橋さんは昨年甲谷さんに弟子入りし、漁を学んでいるところだ。現在はふたりで海に出ている。

刺し網漁は、長い帯状の網を海底にしかけて魚をとる漁法だ。

「魚がエサを求めて泳いでいる途中に、網があるというだけだよ」

甲谷さんはそう言いますが、魚になったことのない私には難しいです……。
魚は光量によって泳ぐ高さを変える。魚の動きをとらえ、ベストな位置に網をしかけるのは至難の技なのだ。

昨日の夕方、オプショナルプログラムでしかけていた網を回収していく。

「この時期に、これくらいかかればまあまあだな」

まあまあの収穫量! これは喜んでいいやつですよね!

網には、アイナメやメバル、カニや貝も数種類。

漁から戻ると、青木陵子+伊藤存のアート会場にもなっている浪田浜で魚を調理し、朝食タイム。釣った魚は塩焼きに。釜で炊いたごはんと、新鮮な魚の味がしみたアラ汁も並んだ。

〈DAY2 7:00〉
ところ変われば

朝ごはんを食べた浜辺で、身体ワークショップがスタート。海に向かってぼーっと立ち、波を感じ、同時に波音を聴きながら、体を揺らす。

まわりの音や空気が変わるため、1日目の室内のときに比べると動きもだいぶ変わる。

「海に押し返されるように」
「水中でねっとり動くように」

昨日は動きに慣れず、フラストレーションを感じていた体も、イメージと環境に合わせた動きができるようになってきた。自分の体のなかで「体験」のアップデートが行われていたことに気づく。

ワークショップが終わると、浪田浜から山道を登り、旧桃浦小学校エリアへ。

ここでは、ブルース・ナウマン、鈴木康広、コンタクト・ゴンゾの作品を鑑賞できる。ほとんど人の手が入っていない自然の中にあるアートは、とても神秘的だ。木漏れ日や木陰の影響を受けて、作品は表情を変える。美術館やギャラリーのホワイトキューブではありえない。

《記憶のルーペ》鈴木康広

《鹿ウォッチャーと深夜ドライブ(と彼の安全な家)(と彼の裏庭の手作り神社)(=テリトリミックス)》
コンタクトゴンゾ

《牡鹿半島のベンチ》鈴木康広

その後、参加者はいったん荻浜小学校へ。

小学校では、金氏徹平やパルコキノシタのアート作品の展示、そして、地元作家の方たちによる企画展『荻小×ART-おらほのはまがっこ-』が開催されている。作品を鑑賞したり、休憩をとったり、参加者は思い思いに時間を過ごす。

《牡鹿の望遠鏡》乃村工藝社

〈DAY2 10:30〉
クライマックスの「宴」

ツアーもいよいよ終盤へ。
これまでは、料理人・福原さんや、フードディレクター・目黒さんに頼っていたが、今回は自分たちで獲った魚を、自分たちで調理していく。

カニが泡吹いてる!
魚、まだ動いてる!
普段の生活ならギョッとするような光景だが(シャレじゃありません)、釣り上げた体験を思い出すと不思議と冷静になる。なぜなら、「生き物を食べていること」を実感するから。命と真剣に向き合いたいと思う。

「海の宴」と名づけられた食事タイム。テーブルには、

・カニ汁
・白身魚のフライ タルタルソースがけ
・煮魚
・なめろう
・蒸した赤皿
・刺し身 etc…

漁師の甲谷さんと土橋さんも同席。漁の話、牡鹿半島での暮らしなど、ローカルな話を聞かせてもらうことに。

甲谷さんは、牡鹿半島の暮らしや漁業を学び地域の未来について考える「牡鹿漁師学校」の講師も務めているそうだ。

「ここ牡鹿半島は観光地のようなスポットはありません。何も知らないこの場所に移り住もうとする人はいないと思うんです」

そんなネガティブなこと言わないでください……!

と思ったが、甲谷さんの目は悲しそうでも寂しそうでもなかった。そして、続ける。

「だからこそこうして、いろんな人に、少しでも牡鹿半島を見てもらうことに意義があると思います。島を見て、味わってもらって、楽しいと思ってもらえたらそれだけでとても嬉しいです。ぜひまた遊びに来てくださいね」

〈DAY2 13:00〉
ラスト・ワークショップ

いよいよ、ツアーを締めくくるプログラム。
体育館に戻って、3回目の身体ワークショップだ。

向さんから指示が出る。

「地震が起きたとき、
 お茶をこぼしてしまったとき。
 日常の世界で『あっ!』と思った瞬間を思い出し、それをスイッチに、走り回りたい欲望や赤ちゃんに戻った気持ちで、心の根底にある想いを踊りに変えてみてください」

参加者はいよいよステージへ。
まずは円になって会話。その途中で「あっ!」と思った瞬間を思い出し、踊り出す。その動きは徐々に、心の根底から湧き上がるような動作になる。

ステージ上を跳んだり、走り回ったり。
それぞれのイメージが展開されてできた世界は、独特の表現に繋がっていく。

そして向さんは「一挙手一投足に想いを込めるように」と指示を出し、そして言った。

「この瞬間は、もう二度とない」

向さんはこの言葉を聞いたのは、これが初めてではない。
初日のワークショップでも言っていたけれど、そのときはまだ「そんなこと言われましても(汗)」と、思いどおりに動かせない体へのフラストレーションしか感じられなかった。

1泊2日の体験を終えて、いろんなことを考えて、『Reborn-Art』の答えを探し求めながら、今この瞬間にたどりついた。もう二度と訪れない、この瞬間。

この1泊2日は、牡鹿半島の自然を五感で感じ、新たな発見によって「体験」の仕方をアップデートし、それだけでいえば爽やかで目覚ましい体験だった。地元の方々はみんな優しくてあたたかかったし、すてきな思い出になった。

しかし、6年前のあの14:46も、今自分の体と向き合っているこの瞬間も、また《自然の猛威が 安らげる場所を奪》うときがきたその瞬間も、すべての瞬間は等しく一度きりという事実は、尊くもあり、重くも感じる。

そう、すべての瞬間は、二度と訪れない。

〈DAY2 15:00〉
最後にタネ明かし

『Reborn-Art Walk』のすべてのプログラムが終了。
旅の終わりに、参加者はツアーで印象に残ったことを、文章や詩、イラストなど思い思いのかたちで紙にまとめることに。

と、ここでナビゲーターの成瀬さんからあるタネ明かしが。それは、最初に行われなかった自己紹介についてだった。

「最初に自己紹介は行いませんでした。これまでの個性や肩書も、リセットする気持ちで望んでほしかったので」

そういうものなのかな、と思ってスルーしていたあの時間に、そんな理由があったとは。そうして私たち参加者は、初めて自己紹介をしてすぐに、最後の時を迎えるべく、お互いの感想を発表しあった。

参加者のなかには「別人になれたような気分」「経験の自在さを味わった」と言う人もいた。それがその参加者にとっての『Reborn-Art』の答えなんだろう。

私も、『Reborn-Art』の答えを探してこのガイドウォークに参加していたんだった。参加していた、のだけれど……。

私が最後に見つけた
『Reborn-Art』

この私は、この体験レポートをなんの嘘偽りもなく終えたい。だから、その率直な感想を最後に記そうと思う。

答えは、見つからなかった。

この1泊2日は、『Reborn-Art』=生きる術を探し続けた時間だった。
その答えがあるんじゃないかと期待しながら、さまざまな体験を経て「こういうことかな」「違うかな」と答え合わせをする。でも確証には至らなくて、時には心が折れたりして、また必死で答えを見つけようと、二度と訪れないこの瞬間に集中する。

そして、ふと思った。
それは、生きることそのものなんじゃないか。

だって、生きることも、きっと答えなんてない。
大人になっても、いや、大人になったからこそ、その時々のつじつま合わせの連続だ。それは心もとなくて、答えは遥か彼方にあるようで見えない。特に、3.11を経験した私たちは、常に「いつかまたすべて失うかもしれない」という恐怖と隣り合わせだ。—— それでも、いつか答えにたどり着くと信じて、私たちは今を必死に生きるしかない。

『Reborn-Art Walk』は、「生きていくこと」の縮図。
そしてその術とは、答えを探し続けるということだった。

それが私が、最後にたどり着いた答え。
私にとっての『Reborn-Art』。

なるほど、これは“1泊2日”、かかるはずだわ。

▶︎第1回の記事はこちら
▶︎第2回の記事はこちら

Photo by 川島佳輔
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。