探勝、見和ぐ、壮挙。「旅する日本語」って?

人は、なぜ旅に出るのでしょうか。

日常から離れ、見知らぬ場所に向かうことで何が見つかるのでしょうか。

非日常のなかだからこそ、新しい発見がある。自分はこんなものが好きだったんだ。こんなことで感動するんだ。そして、いつもの日常が思っていた以上に大切だったんだ、という風に。

人は発見も感動も、その他いろいろな感情も、すべて言葉によって形にします。

言葉が感情に形を与える、と言い換えてもいいのかもしれません。

いま、羽田空港国内線第1旅客ターミナルの出発ロビーで、アート展示「旅する日本語」が開催されています。放送作家の小山薫堂氏による「旅」と「日本語」をテーマにしたエッセイに、片岡鶴太郎氏が挿絵を手がけた作品が並びます。キーワードとなる日本語は、どれも日常生活では聞き慣れない、ちょっと難しいものばかり。

しかしそれが旅情感や非日常、知らなかったものと出会う好奇心と重なり、旅で感じたことを形にするのに美しい働きをもたらしています。

あなたもきっと旅に出たくなる、美しい日本語と心温まるエッセイをどうぞ。

01.壮挙

彼女の実家への旅が

こんなにドキドキするとは

思わなかった。

娘さんをください!

と、果たして

きちんと言えるだろうか?

これはまさに、

人生最大の冒険なのだ。

そうきょ:勇気のいる、大掛かりな仕事や冒険。

02.見和ぐ

父と旅に行くと

いつも銭湯に連れて行かれた。

その街の日常に触れることが

一番贅沢な旅なんだ

と父はいつも繰り返していた。

あれだけ嫌だった銭湯の旅…

その魅力が

ようやく分かる年齢になった。

みなぐ:見て心が穏やかになる。

03.探勝

空港に着いたとき、

自宅にカメラを

忘れてきたことに気づいた。

久しぶりの夫婦ふたり旅なのに…。

でも、

妻の一言で気分が晴れた。

「写真を撮るより、

目に焼き付ける方が

認知症の予防になるんだって」

さて、今回はどこを巡ろうか。

たんしょう:景色のいい土地を尋ねて見て歩くこと。

04.旅物

最近のレストランのメニューは、

さながら日本地図のようだ。

肉、魚、野菜…

こだわり食材の産地がズラリ。

その土地に思いを馳せれば、

幸せな胃袋の旅が始まるのだ。

たびもの…遠くの地から送られて来た魚や野菜。

05.一擲

失恋した時の元気になる

おまじないは、一人旅と決めている。

あてもなく飛行機に飛び乗り、

知らない町を歩いて、

知らない町でご飯を食べ、

そして知らない町の美容室へ。

そこでバッサリ髪を切る…

なんてことはしないで、

シャンプーだけ。

あんなやつとの思い出なんて、

洗い流すだけでじゅうぶんだ。

いってき…思い切って一度に全てを投げ捨てること。

06.晏起

子供たちを夫に託し、

久しぶりに帰省した。

実家の匂いは、

母になった私を少女に戻す。

さぁ、夜は同窓会。

そして、

この旅のいちばんの楽しみは…

朝寝坊。

あんき…朝遅く起きること。

07.来意

田舎の親友が突然上京してきた。

どうしても合わせたい人がいるという。

空港まで迎えに行ったら、

到着ロビーになぜか僕の妹がいる。

その後ろから親友が現れ、

「お兄さん!」と呼ばれた時、

頭の中が真っ白になった。

今夜は朝まで

飲み明かすことになりそうだ。

らいい…客が訪ねてきた目的、わけ。

08.凍て星

日本一の星空を見に行かない?

という親友の誘いに乗って

北海道に出かけた…ものの、

極寒の天体観測を甘く見ていた私は

風邪をひき、病院へ!

その時のお医者さんが…

今の旦那さま。

そう言えば、

あの冬の星は、

私の人生を変えるくらいにキラキラと

輝いていた。

いてぼし:凍りついたように、光のさえた冬の夜空の星。

09.道の記

いい万年筆を携えて

旅をするとどこに行っても

絵葉書を探したくなる。

気に入った一枚を買い、

その地で思ったことを綴る。

宛先は…自分自身。

それは旅を終えた自分への

大きなご褒美となる。

みちのき…旅行中のことを記した文。道中記。

10.空上戸

旅先の居酒屋は、

究極のガイドブックになり得る。

偶然隣り合わせた地元の人と

酒を飲み交わし、

知る人ぞ知るスポットを聞き出すのだ。

杯を重ねるごとに

行くべき場所が増えるのは嬉しいけれど、

その分、

明日が辛くなることは

もちろん承知している。

そらじょうご:お酒を飲んでも酔いが顔にでない人。

11.暗涙

遠距離恋愛のクライマックスは

いつも空港で訪れる。

ゲートに向かいながら手を振る彼に

精一杯の笑顔で手を振り返し、

そして

夜の空に昇っていく飛行機を見て

涙を流す。

彼の目に映る東京の夜景も

滲んでいるのだろうか?

あんるい:人知れず心の中で流す涙。

旅先で朗読小説を楽しもう

「旅する日本語展」では、紹介した11のエッセイをスマートフォンのなかに持ち出して、移動中や旅先でも楽しめるサービスを実施。

展示されている本型のライトに専用アプリ「LinkRay」をかざすだけで、フリーアナウンサー高島彩さんのエッセイ朗読がいつでも聴けるようになるそう。その他にも、小山薫堂氏の音声コメントや、片岡鶴太郎氏によるスマホ用壁紙など、楽しめるコンテンツが用意されています。

羽田空港を訪れた際には、旅の思い出に「美しい日本語」を持ち帰ってみては?

Licensed material used with permission by 旅する日本語展 2017
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。