ロンドンの若者たちに食育を浸透させたのは「Hip Hop」だった

蛍光グリーンのブルゾンに、作業用の保護メガネ、胸元にはゴールドのブリンブリン。どこからどう見てもラッパー風情のこの男(Ian Solomon-Kawall)。ある地域コミュニティの創設者で、またの名(a.k.a)は“フリーダムティーチャー”、とここまでのところ怪しいニオイしかしてこない。

ところが、その活動は唯一無二。農作業にヒップホップを掛け合わせるユニークなプログラムで、ロンドンの若者たちの日常に、決して小さくはない「変革」をもたらしている。

まさかのフューチャリングで築く
持続可能なコミュニティ

May Project Garden」の本拠地はロンドン郊外。18〜25歳の若者を対象に自家栽培の野菜づくりを通して、地域社会との連帯を学ぶプログラムが用意されている。

なかでも「Food、Hip Hop、Green Economy」を学ぶこのコースは、文字通りヒップホップを用いて地域コミュニティの成長に貢献する人材育成を目指しているとか。これが、まったく新しいタイプの教育モデルとして全英で高い注目を浴びている。

それにしても、ヒップホップでローカルコミュニティ開発とは…想像すらも難しい。が、それは後ほどゆっくりと。

自分のカラダをつくる食材に目を向ける
自分の生まれ育った街に目を向ける

“メインガーデン”と彼らが呼ぶ(には気がひけるほど小さな)菜園で、若者たちが手を(時に足を)泥だらけにして野菜を育て、自分たちで収穫し、それをどう食事として調理するかを体験的に学んでいる。

ここに来る若い子たちの中には、「ピザのトッピングになる前のトマトの形を本当に知らない」って、驚くようなことを言うヤツもいるんだよね。

と、10年前から草の根活動を続けてきたIanはいう。

すべては、自分が食べているものにもっと注意を払い、カラダや健康について、さらには地域コミュニティでつくられる食材に興味を持つことで、持続することを前提としたパーマカルチャーを若い世代に根付かせようという狙いから。

教科書や黒板に向かう学校教育的メソッドではなく、モバイル世代の好奇心を喚起し、関わりやすい環境を用意したところに、このプログラムの妙味あり。その手段こそが「ヒップホップ」だった。

野菜を育て、食べ、
そしてリリックにのせ歌う

生産の現場を知り、調理法を知り、味わう、これでは単なる「食育」と変わりない。が、彼らがユニークなのはここからだ。持続可能な社会にそれがどう貢献できるのか、パーマカルチャーを体現するため、生徒たちは栽培を通して体得した知識や感情をリリックにし、ラップで歌い上げる

それも学芸発表会レベルの話ではない。ロンドン市内の小規模クラブや環境保護イベントと連携し、ビートボクサーやパーカッショニスト、ギタリストら、プロのミュージシャンたちを従え、観客の前でスキルを披露する。これもプログラムの一環だというから驚いてしまう。

どうやらここに、若者とローカルを結びつける接点があるようだ。

 「ヒップホップと環境問題」、「ヒップホップとアイデンティティ」、テーマはさまざま。自家栽培を通して経験したこと、地域とのつながり、そうしたものが社会的・環境的な問題への自覚を引き起こし、それをジブンゴトとしてラップで伝える。

グルーヴに乗ったバイブスが、同じ体験をしていない若者たちの肩を、やがては頭を揺らしはじめると、いつしかそこにコミュニティの因子が生まれる。Ianはそれを信じているんじゃないだろうか。

それこそがヒップホップの根源的なエネルギーだってことさ。

自分たちなりの方法で環境保護へのタッチポイントをつくり出すこのイベントを、彼は「COME WE GROW」と表現する。

2015年ロンドン市が選ぶ、最もすぐれたボランティア団体に贈られる賞「Team London Award」を受賞した同団体。ガーデンでの経験を活かし、それぞれのコミュニティへと戻った卒業生たちが、地域とのつながりを見つけ奔走しているそうだ。

10年の月日を経てIanのまいた種が、いま実りの時を迎えている。

Licensed material used with permission by May Project Gardens
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。