約340年前につくられた「ドアロック」には、謎解きのような楽しさが詰まっていた

ネットやAIが急激に発達している現代では、技術というとなんとなく無機質なイメージ。毎日触れているのに、どこか近寄りづらい印象すらある。

でも、その根底にある人の技というのはわりと血の通ったもので、昔のものだって侮れない。1680年頃、イギリスの鍵屋だったジョン・ウィルクスによって作られ、今はアムステルダム美術館に収蔵されているこの「ドアロック」は、私たちにそんなことを教えてくれる。

3つの仕掛け
あなたは気付ける?

一見、銅版画のようだが、実は宝石など貴重なものを保管する部屋のドアに使われていた二重施錠の防犯用品。精巧なのはそのデザインだけではない。驚くべき仕掛けが3つほど隠されているのだ。

01.
帽子のスイッチで
簡単施錠

まずは男性の頭部に注目。一見ただの飾りのこの帽子は、実は左に傾けることができる。すると二重にある鍵の簡易的なほうのボルトを一瞬でしめられるのだ(写真をよく見ると帽子のすぐ左にスライドの跡がうかがえる)。

開け方も簡単。普通のプルノブに見えそうな左中央の大きな取っ手を、男のハットを傾けながらまわすと解錠。

でもこれだけじゃ宝物を守るのには不安かも。メインボルトのほうまで二重にロックしたい時には、そのための鍵が必要になる。その大事な鍵穴がこんなに大きいと、目立ってしまう気もするけど…。

02.
脚を上げ下げして
鍵穴を隠す

実は鍵穴は、男の脚で隠せるのだ。下部中央の釘か何かのようにみえる小さなボタンを押すと、足が上に持ち上がり鍵穴が現れる。写真は持ち上がった状態。普段は脚を下ろして鍵穴をすっかり隠してしまえば、泥棒は鍵を開けようにもどこからとっつけばいいかわからないし、もしかしたらこれがドアロックだとも気づかないかもしれない。

帽子や脚が踊るようにぴょこぴょこと動くのは、見ていても面白く、物語に出てくる隠し部屋のような不思議な魅力がある。現れた大きめの穴に透し彫りの鍵を差し込み、何回か回すと、しっかりとしたメインボルトが目一杯施錠される。

03.
開けられた回数も記録

鍵が開くと右のダイヤルが少し回って、男のもつ槍状のポインタがさす先の数字が増える。実はこのダイヤル、主人のいない間に何回鍵が開けられたかカウントしてくれるものなのだ。このことから「dectector lock(見破る錠)」とも呼ばれる。数字が100になると鍵は開かなくなるそうだけど、いない間に100回も開けられたら、さすがに宝物庫も空っぽなのでは?

ちなみにダイヤルは、男の襟元にある小さなボタンを押すことで0に戻すことができる。もし100回開けられてロックされてしまっても、安心だ。

この美しくも遊び心溢れたドアロックは、今でいう「スマートキー」のようなもの。17世紀のものなのに、今見ても驚く。どこか懐かしい、人の温もりや茶目っ気もたっぷりだ。泥棒だって、この鍵に煩わされつつもどこか楽しくなってしまいそう。

たくさんの秘密が詰まったこのロックが、秘密の宝庫を守ってるなんて、なんだかとてもロマンチックだ。技術を進歩させるのはいつの時代も、人々のロマンなのかもしれない。

実際の動きはこちらの動画へ。百聞は一見に如かず。芸術的な仕掛けに心踊るはずだ。

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TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。