アメリカの「カクテル」は、たった4つの材料から始まっていた

ややこしい名前がすんなり頭に入らず、そもそも何のお酒が使われているかすら想像がつかない、もしくは甘いお酒が解せない、カクテルを敬遠する人たちの心理に少なからずこれに近いハードルがあるんじゃないでしょうか。

ビールでも、日本酒でも、ウイスキーでも、ワインでも、クラフトやマイクロブルワリーが好まれているように、お酒そのものを味わう嗜好が強いなか、めっきり飲む機会が減ってしまったカクテルですが、あえてその魅力を伝えるコラムを「FOOD52」よりご紹介。アメリカで200年近く愛されてきた“オールドファッションな飲みかた”から、現代人のテイストに合うようアレンジするヒントをEmilyが教えてくれます。

カクテルとは、
尾っぽがピンと立つほどに
精気を高める飲み物のこと

今さら驚くことではありませんが、お酒の歴史というものは得てして曖昧な部分が多く、不確かで、これまでにも数多くの議論を招いてきました。伝説のように語られる、ごく一部のカクテルの起源を、ある時期ある場所にいた特定のバーテンダーの偉業にすることは簡単。だけど、お酒の起源を同時にたどることは、ほぼ不可能なことだと思います。

そもそもカクテルという言葉の語源さえ、諸説存在するくらいですから。私がお勧めするのは、カクテルの歴史家でもあるデヴィッド・ワンドリッチ氏が主張しているような、十分に根拠がある説。氏によれば、「カクテル(cock-tail)」とはそもそもがスラングで、意味するものは人間の全身をかけ巡り、エネルギーや精気を高めながら、まるで威勢のいい馬のように、その人の「tail(尾)」を「cockする(ピンと立たせる)」もの、です。

酒、砂糖、水、ビターズ
これが「カクテル」のはじまり

たとえば、イギリスにおいてカクテルとはその昔、一般的にジンジャーエールのような生姜風味のスパイシーなドリンクを意味するものでした。ところがアメリカに渡ったカクテルは、より刺激的で強い飲み物へと進化していったようです。

ではアメリカ人が、いつ、どのようにして、アルコールと砂糖と少量の水を加えた「ビターズ」を薬として扱い始めたのか、またいつそれをカクテルと名付けたかは、やっぱり定かではありません。

でも、カクテルに関する最古の資料のひとつが、アップステート・ニューヨークの保守系新聞である「The Balance, and Columbian Repository」の1806年度版だということは、よく知られた話。ここで、“カクテル”という見知らぬ言葉の意味を尋ねる読者の質問に対して、こんな説明がありました。

「カクテルとは、お酒、砂糖、水、さらにはビターズからなる刺激的なお酒です。これは、俗語でビタード・スリングとも呼ばれています…」

つまり、当初カクテルを構成する成分はたった4つだった。それらのコンビネーションが、すばらしい魔法を生み出しているわけです。これこそが「オールド・ファッションド」と呼ぶカクテルそのものであり、つぶしたオレンジや、チェリー、スプライトなんかは、一切ここには加えられてはいなかったことが分かります。

おそらく、オールド・ファッションドという名前が誕生したのは、ピュアリスト(または変化を嫌う人たち)がいたおかげでしょう。これら4つの成分は、新しい形を生み出すための出発点でもあり、ここから1870年代や80年代のバーテンダーたちが、カクテルに様々なものを足しては、人々を楽しませていたのでしょう。

けれど、それ自体に反対する人の声も少なくなかった。そのため、はなやかさを嫌う人たちには、オリジナルの4つの成分でつくるトラディショナルなカクテルとのすみ分けのために、カクテル名前の最初に「オールド・ファッションド」を付けて注文するようになったようです。

それでもピュアリストからすれば、この状況はきっと面白くないはず。彼らの不満の種になるといけないので、トラディショナルなスタイルから発想を得た、私なりのレシピを紹介したいと思います。これらはオールド・ファッションドとは呼べないかもしれない。それでも、このカクテルは無限のレシピを生み出すスターティングポイント。古くて新しい、自分なりの提案が見つかるように。

ベースのお酒にこだわらない

もともとこのカクテルは、数あるお酒の中からどれをつかっても良いんです。ウイスキー、ジン、ラム、ブランデー、アップルブランデー、テキーラなど、とにかく何でも試してみて。あなたにぴったりなスピリッツが見つかるはずだから。

ニューヨークの「Death & Co.」は、古いアイデアを基にして、オリジナルレシピ「オアハカン・オールド・ファッションド」を生み出しました。これはベースとなるお酒を2種類組み合わせてつくるもので、スモーキーなメスカル(メキシコ原産の蒸留酒)とちょっとばかりテキーラを加えたベース。また、サンフランシスコの「Bar Agricole」では、セントジョージズ・ライ・ジンとシトラスからつくられた、まろやかなジンベースのオールド・ファッションドに出会えます。

ですが、もっと大胆になってお酒に別のエキスを加える手も。これで、ベースとなるお酒のひろがりはだいぶ変わったものになるでしょう。1カップ分ずつベース酒をすくって、好みのフレーバーと混ぜてみて。それが刻んだフルーツや、ナッツ、小さじ1杯ほどのハーブやスパイス、紅茶葉だってOK。状態を確かめるため数時間おきに軽く振って、味見をしながらそれらを一晩ほど寝かせ、熟成が終わったら最後にこす。香り付きのシロップを使えば、余分な糖分をカットしながら、風味だけを加えることができますよ。

ちなみに私のお気に入りは、いちじく、桃、チェリー、ピーカンナッツ、コーヒー豆やカカオニブをバーボンで漬けたもの。もちろん、パイナップルのようなトロピカルフルーツを漬け込んだラム酒は絶品です。

甘味はお酒との相性で変える

伝統的なレシピでは角砂糖が使用されていますが、いちいち砂糖が溶けるまでカクテルをかき混ぜる必要なんてありません。そこで、小さじ1、2杯のシロップに変えればすんなり。

さらには、お酒との相性を考えてメープルシロップ(バーボンに良い)や、はちみつ(=ブレンデッドスコッチ)、アガベシロップ(=テキーラ)といったように、組み合わせも楽しみのうち。もちろん、香り付きのシロップを自作しても良いでしょう。これは、ベース酒に直接香り付けするよりも、ほのかな仕上がりになります

私が好きな組み合わせは、ラベンダー&レモン、グレープフルーツ&ローズマリー、ダイオウ&ローズのような、香りの良いフローラルなハーブとシトラス系の皮のシロップを、ジンに加えること。

風味を決定づけるのはビターズ

カクテルの分かりやすい特徴に、ほんの少しの成分を変えるだけでも、全体のバランスに大きな変化をもたらす点があげられます。これは「ビターズ」を変える場合にも同じことが言えます。ビターズとは、植物の根や皮をアルコールに漬けて成分を浸出したリキュールのこと。

ビターズには、どんなものと合わせても風味を調和・向上させる効果がありますが、オレンジ、グレープフルーツ&ホップ、チェリー&バニラ、チョコレート&モーレなど、素晴らしい香りを持つものがたくさんあるので、それらを探求する価値は十二分にありますよ。

オールドファッションドの楽しみ方は人それぞれ。何ならベース酒、シロップ、ビターズのすべてを自分好みに変えたって良いんですから。ただし、変える点が多いほど、全体の風味を調和させる工夫を怠らないことを忘れずに。

こんなレシピもいかがでしょう。

Licensed material used with permission by FOOD 52
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。