【読んでもらいたい vol.9】文豪ヘッセこそ「植物男子」の先駆者だ

今年は梅どころか桜の開花もだいぶ早めの予報ですが、そろそろ家庭菜園のプランを考え始めるのがこの時期。さすがに気がはやいと思うでしょう、でも種まきからいくならば、ガーデニングシーズンはもう幕を開けているのです。

たとえばトマト、定植(苗木から畑に植え替える)する時期から逆算すれば、だいたい2ヶ月前には種まきを済ませておきたいところ。するとともうあとひと月もすれば、という計算が立つわけです。

園芸ショップで買える苗には限りがあるため、珍しい品種がそろう種子を通販サイトであれこれ探すのも楽しみのひとつ。また、海外へ出ればその土地の品種を仕入れてきたり(税関検査がちょっと面倒だけど)、気候が合わないとうまく育ってくれなかったり、屋外よりも室内のほうが適していたりと、まあとにかく手がかかる。だから、ミニトマトの栽培でよく「簡単」とか「初心者におすすめ」なんて文字を目にするけれど、そうは甘いもんじゃない、と思うわけで。

トマトの成長は
人間の傲慢さに似ている

トマトって驚くほどにたくましくて、わき芽をちょっとでも取らずにおくと、野生児のごとく自由奔放に、目が四方八方にニョキニョキと生えていく。こうなってはダメなんですが、それがまた愛おしくもある。放っておくとぐんぐん成長していくわき芽を、人間の性格になぞらえてこんな描写をした人物がいます。

文豪ヘルマン・ヘッセ。
ハサミを手に真剣な表情でわき芽を切る本人の登場です。

「人間の場合と同じように植物の中にも つねにいくつか特にたくましいものがあり 貪欲に成長し ごうまんで 隣人に対して思いやりのないものがあるものだ」。

というわけで遅くなりました、【読んでもらいたいvol.9】は『庭仕事の楽しみ』のご紹介。ヘッセが庭仕事を通して学んだ「自然と人生」の本質的なつながりが、たくさんの詩とエッセイ、さらに自筆の水彩画とともに綴られています。もちろん、植物が大好きな人に時間をかけて読んでもらいたい一冊です。

庭仕事は瞑想である。

麦わら帽子を目深にかぶり、ラフなつなぎを着て、大地にひざをこすりつけながら雑草をむしる。これが『庭仕事の楽しみ』に登場するヘッセの姿。こうして集めた枯れ草で焚き火をし、一日のひとときを緑のなかに埋もれて過ごす。

20世紀ドイツの文学者は、生粋の“庭師”でもあったようです。その証拠にヘッセの後半生は、執筆以外の時間をほとんど自らつくりあげた庭で、四季折々の草花や樹木に囲まれて過ごしていたことが、この本を通してぼくたちが知る事実。

こうしてヘッセの私生活を“のぞき見”していくうちに、こんな仮説もあながち間違いではないかもしれない、と思えてくるのです。彼こそが「植物男子」の先駆者だ!なんてね。

ちなみに、ぼくは本の帯に書かれたこのフレーズだけで脊髄反射しちゃいました。

庭仕事とは、魂を解放する瞑想である──。 

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。