雨の街シアトルはセカンドウェーブが好き【連載:とりあえず、コーヒー】

シアトルに住んで、もうすぐ8年になります。シアトルというと「コーヒー」とか「雨」というイメージが強いと思いますが…正解です。まったく裏切りません。本当にコーヒーと雨ばっかりです。雨が多いからこそ、コーヒーが必要不可欠なのかもしれません。

私は、雨の日に特にコーヒーが飲みたくなったり、いつもよりも美味しく感じる気がするんですが、あながち間違ってないのかな、と思います。

シアトルと
セカンドウェーブ

ここ数年、日本でもコーヒーが大変なブームで私も嬉しい限りなんですが、これはサードウェーブと呼ばれるコーヒーブームの「波」に日本が乗った形ですね。「サード」というくらいなので、当然ファーストとセカンドがあります。コーヒーブームの歴史をちょっとだけお話します。

ファーストウェーブは、大きく遡って1960年以前。それまでお店でしか飲むことができなかったコーヒーが大量生産されて安く手に入るようになり、お家で気軽に作れるインスタントコーヒーが大人気になりました。お味はというと...苦かったり酸っぱかったりで砂糖やミルクを入れて味の調整をしなきゃいけないという感じだったみたいです。でも、一気にコーヒーが身近な飲み物になった時代でもありました。

そして1960年代後半に入ると、量より質の時代になってきます。シアトルに本社を持つスターバックスが、良質の豆を使って気軽に本格的なコーヒーが飲める、というブームを作りました。それがセカンドウェーブです。皆さんご存知、ラテやカプチーノなどエスプレッソをベースとしたコーヒーが浸透したのも、このときでした。深煎りのエスプレッソを使ったドリンクは「シアトル系コーヒー」と呼ばれるようになります。

エスプレッソとミルクを使ったドリンクや、いまやスターバックスの定番ドリンク(むしろデザート?)となった「フラペチーノ」が出てきたことで、それまで苦くて酸っぱいコーヒーが苦手だった客層の心をガッチリ掴む結果となったのです。コーヒーの世界へのドアがみんなに開いたという感じです。

その後、みなさんも最近よく目にするおしゃれなカフェで厳選されたスペシャルティコーヒー豆を一杯ずつ丁寧に淹れてもらって、コーヒー豆本来の味を味わおう、というサードウェーブが訪れます。

雨の街の
コーヒー事情って?

そんなサードウェーブ真っ盛りの現在ですが、シアトルでは未だにセカンドウェーブの余韻がたくさん残っているような気がします。というよりは、むしろシアトルの人はセカンドウェーブが好きなのではないかなと思います。もしかしたら「シアトル系コーヒー」を確立した、という誇りからきているのかもしれません。

サードウェーブの主流である浅煎りのコーヒーは、爽やかな晴れた日にぴったりな気がしますが、どんより雲が立ち込め雨がしとしと降り続くシアトルでは、深煎りで熱々のコーヒーがやっぱり合うんです。

雨、雨と言いまくっていますが、さすがに一年中雨というわけではありません。涼しくて太陽がキラキラするシアトルの夏はアイスコーヒーがぴったり。そして、陽が沈むのは夜10時頃というプチ白夜の世界。シアトルの夏は短いですが、街の人たちが1年で1番ハッピーになれる2ヶ月なのです。

夏が終わると秋をものすごいスピードで早回しして、あっという間に冬になってしまいます。毎日雨です。大げさではありません。しかも10月から5月くらいまで続きます。

朝は10時くらいまで暗く、夕方4時ごろには真っ暗になってしまいます。完全に暗黒面です。太陽が出てないので、なんだかいつも眠たいですし、気分もどんよりしがち。こんな風に冬は日照時間がとてつもなく短いので、シアトルの人は生きるためにコーヒーが必要なのかもしれません。

エスプレッソマシーンが
お客さんに背を向けている理由

最後に、トリビアをひとつ。シアトル系カフェの特徴は、エスプレッソマシーンの背がお客さんに向いていることです。こうすることで、バリスタがお客さんのほうを向いて、おしゃべりしながらエスプレッソを淹れることができるのです。

イタリア系のカフェでは、バリスタがエスプレッソを抽出している手元を見せるためにエスプレッソマシーンの内側をお客さんに見せるので、背を向ける形になります。シアトル系カフェでの「コーヒー+コミュニケーション」というのも、私が好きなところです。

セカンドウェーブとサードウェーブをいいとこ取りして「コーヒーで有名な街」という地位をキープし続ける、シアトル。それはもう切っても切れない関係なんだなと思います。日差しが差し込むオープンカフェで飲むコーヒーも最高ですが、シアトルのどんよりした灰色の空の下、ミストのような雨が降るのを眺めながら熱々のコーヒーを飲むのも、なかなか趣きがあって素敵なんですよ。 

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。