廃棄された食材はおいしかった。映画『0円キッチン』をすすめる3つの理由

あなたは、冷蔵庫の中身をすべて把握できているだろうか?

いつ買ったかも覚えていない、いつ食べるかも分からない食料がゴロゴロしている。そんな人にこそ見てもらいたいのが、映画『0円キッチン』。

食料廃棄問題という、いま世界が抱える重たいテーマを快活で、ノリがよく、ときにコミカルに描くロードムービーだ。

廃棄されるはずの食材を使って、人と人が交流して、おいしい料理へと仕上げていく。豊かさとは何なのか?を考えるきっかけにもなるはず。では、その見どころを3つのポイントに絞ってご紹介。

01.
告発、扇動、ディスりなし。
終始リラックスのエンタメ感覚が◎

廃油を燃料にして走れるよう自ら改造した自動車に、ゴミ箱でつくった特製キッチンを取り付け、ヨーロッパ5カ国をめぐる旅に出た主人公のダーヴィド・グロス。この映画の監督であり、ジャーナリストであり、食料活動家としての肩書きを持つ。

“エンタメ・ドキュメンタリー”と本人が位置付けるように、この映画は誰かを告発したり、ディスることもなければ、食品ロス削減を扇動したり、押し付けることもしない。ただ目の前にある問題を受け止め、各地で食に対するユニークで、おいしいアプローチを実践する人々と出会い、ともに廃棄食材で料理をつくっていくというのが趣旨だ。

楽しくないと食料廃棄を減らす真意は伝わらない」、単なるドキュメンタリー映画の枠にはまらない演出は、全編を通して通底するダーヴィドのこのメッセージが象徴している。 

02.
「ゴミ箱ダイブ」から「昆虫食」まで
食糧問題に対する世界のアクションが知れる

また、ダーヴィドは自らを「食材救出人」と称している。意味するところは、まだ食べられそうな廃棄食品をあさりに、ゴミ箱へとダイブ(ダンプスター・ダイブ)することから。

映画にも描かれているように、大手スーパーから廃棄される賞味期限切れ、あるいは独自に設けた販売期限を過ぎた食品のなかには、画面を通してでも十分にフレッシュさが伝わってくるものも存在する。実際どの程度それが新鮮だったのかは、本編で確認してほしい。

少々脱線するが、ここ数年アメリカやドイツの都市部で、「もったいない!」を理由にゴミ箱へとダイブする人々が増加しているという。でもこれ、決してホームレスに限った話ではないようだ。ゴミ箱から拾った食材を誰でもシェアでき、それを目的としたNPOも存在するというのだから。

それから、“未来の食料”として国連食糧農業機関(FAO)も認める昆虫食も映画に登場する。触れることすらためらってしまう子供たちにこの料理がどう受け入れられるのか、そこにも注目。

03.
自分にも「できること」があるかも、
という気にさせてくれる

決して押し売りからこう言うわけではないが、見終わった後、自分にできることを考えてみたくなるに違いない。

ちなみに僕の行動は、自宅の冷蔵庫の中をじっくり見渡してみることだった。案の定(という他ないが)、冒頭のようなありさまだったからこそ、こんなセリフが胸に“刺さった”。

私はね、刻印された日付よりも自分の感覚の方を信じているの」。

これは、ドイツの集合住宅を訪れたダーヴィドが、一般家庭の冷蔵庫を抜き打ちチェックする場面でのもの。食材が手に入らない時代を生き抜いた人間(老女)の重みあるひと言は、大量生産、大量消費の現代社会の工夫のなさを嘆いているようにも聞こえてこないか。

はたしてどれだけの人が、自分の感覚を信じて毎日を送っているだろう、本当に必要なものが見極められているだろうか。そんな想いで冷蔵庫を見渡すと、どこか身の引きしまる思いがする。

世界で生産される食料の1/3が
毎年、廃棄されている

FAOによると、世界で生産される食料の1/3は食べられることなく捨てられており、その重さは世界中で毎年13億トンにもなるという。5カ国を旅してダーヴィドが救出したおよそ690キロの食材が霞んでしまうほど、途方もない数字…。

それでも、廃棄されるはずの食材たちがどう料理に生まれ変わっていったのか。ゴミ箱のりんごや、路上の雑草、賞味期限を10年以上過ぎた調味料や昆虫、それらを恐るおそる口にしたときの人々の表情、そこがいちばんの見どころだろう。 

映画『0円キッチン』は、2017年1月21日(土)アップリンク渋谷より、全国順次ロードショー。詳細はこちらでチェックを。なお、あと数日に迫った公開に向け、現在ダーヴィド監督来日のためのクラウドファウンディングを実施中だ。

Photo by Mischief Films
Licensed material used with permission by ユナイテッドピープル
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