東京から泳いでアメリカへ!命知らずな男の決意の裏にある「海への危機感」

2017年4月、東京からサンフランシスコまで太平洋を泳いで渡る。こんな途方もない計画を立てている男がいる。ベン・ルコント(49)がその人だ。じつは彼、これまでにも大西洋をフィン(足ヒレ)なしで泳ぎ切った記録の持ち主。そして今回、最後の挑戦に選んだのが太平洋横断だった。

一日8時間の遠泳
半年がかりの太平洋横断計画

僕はオリンピック選手なんかじゃない。ただの泳ぐことが好きな冒険家さ──。

東京からサンフランシスコまで、距離にしておよそ8,850キロ。食事や睡眠はボートの上、それ以外の時間はずっと泳ぎっぱなしという過酷な挑戦。ベンをサポートするのは6名のスタッフと、伴走する全長20メートルのボート「Discovery」号だ。

平均時速7キロ、一日8時間のペースで泳いでいけば、計算上は、サンフランシスコ到着は5ヶ月から6ヶ月後になるという。泳者の体調や、天候不順、もしかしたらサメに遭遇する危険など、あらゆるトラブルを回避した上での希望的観測に近いものかもしれない、が。

誰が聞いたって無謀なチャレンジ。でも、そうまでしてベンが前人未到の記録に挑むのは、なにも個人的な冒険心だけではない。そこには、ある社会的なメッセージが込められていた。

海洋ごみ問題に人々の
目を向けるアクションとして

ベンはこのチャレンジを通して、いま世界の海が抱えている問題を、共通認識として多くの人々に訴えかけることを狙っている。二酸化炭素排出量削減や、増え続ける海洋ゴミ問題を啓蒙するグループへの資金集めがその目的。

挑戦の様子はライブストリーム配信され、ソーシャルメディアを使って専門家からのコメントも集める予定だ。

ルートはあえて、ごみが漂う
「太平洋ゴミベルト」

最短ルートは選ばない。それも決意の現れだろう。

通るのは「太平洋ゴミベルト」。ハワイの北東沖にこう呼ばれる広いエリアが存在する。太平洋へと流れ出たゴミが海流に乗り、このエリアへと吸い寄せられるように集まった、海上の“ゴミの帯”。それは、テキサス州の2倍に匹敵する大きさにまで拡大しているとの報告もある。

ベンは、あえてこの一帯を泳ぐつもりだ。

長いこと海を泳いできたからね。海も環境も変わっていくのがよく分かるんだ。プラスチックゴミが増えれば魚は減る。子どもと泳ぐといつも思う。こんな海を未来に残してはいけないって──。

チャレンジも環境問題も
どちらも待ったなし

じつは、ベンが太平洋横断計画を立てたのは、これが初めてではない。2013年にチャレンジを発表してから、これまで2度計画が頓挫してきた。

「どっちもボートの問題だったからね」、とベン。およそ半年に及ぶ航海に耐えうる整備に満たないと判断されたり、計画寸前で船長が不慮の心臓発作を起こすなど、彼のフィジカルとは別の部分で不運が続いた。

これまでの経緯を「The Guardian」が伝えている。だが、今回の“相棒”は世界一周ヨットレースを経験し堪航性にも自信アリ、とベンは強調する。

およそ6,000キロの大西洋を73日間かけて泳ぎ切ったのは、31歳だった1998年のこと。そして、太平洋へ。3度目の正直を前に、本人はこれが最後のチャンスと明言している。

世界の海をただよい続ける海洋ゴミの問題も、彼自身の年齢的な問題も、待ったなしだ。今年4月、東京のどこかの港から、海を愛する男の船出を見届けたい。

Reference:The Guardian
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。