東京で美味しいサンドイッチが食べたいなら、このパン屋さんに行ったほうがいい。

むかし、パン好きの友人からこんなことを教えてもらったことがある。東京で美味しいパン屋さんを知りたければ、サンドイッチが美味しいところを探せばいいと。美味しいサンドイッチというのは、炊きたてのご飯をふわっと握るおにぎりのようなもので、味つけや具材の組み合わせ、挟むときの力加減や食べやすさなど、美味しくなるための心づかいがたくさん詰まっているからだ。パン屋さんの仕事は、朝早くから夜遅くまで、毎日続いていく。そんな大変さを微塵も感じさせず、いつでも笑顔たっぷりでパンを焼く姿に、今日も感動してしまう。いつも美味しいパンをどうもありがとう。そんな気持ちを贈りたい、すてきなパン屋さんを紹介する。

01.いつでも100のパンがずらりと並ぶ。
カタネベーカリー(代々木上原)

代々木上原の駅から住宅街へ歩いていったところにある『カタネベーカリー』は、100種類ものパンがずらりと並ぶ。種類の多さに驚いていると「お客さまが気に入ってくださったパンって、なかなかやめられないじゃないですか。」と、店主がはにかみながら言った。特別な時に食べるものではなく、毎日来ても飽きないように、常時、定番と季節のものを組み合わせて並べている。それにしても、定番の商品だけで50種類もあるってすごいことである。

パン屋をオープンする前から、自宅で手巻き寿司のように、パンと具材を用意し、作って楽しんだという「バインミー」。ベトナム語でサンドイッチを表し、オープン時から変わらず作り続けているサンドイッチのひとつだ。本場ベトナムのバインミーは、具材は美味しいけれど、パンが美味しくないことがある。ヨーロッパで食べるバインミーは、パンは美味しいが、具材が美味しくないことがある。カタネベーカリーでは、パンも具材も美味しい、完璧なバインミーをいただけるのだ。

地下には、カフェスペースがあり、1階から美味しそうな焼きたてのパンの香りがおりてくる。来年でちょうど15周年。オープン時から変わらないことは、常にお客さまと呼吸を合わせることである。どうしても全てを手作りに、という風にこだわってるわけではないが、基本的にはパンから具材まで、できるだけ自分たちで作る主義である。お客さんあってのお店だからこそ、そうやってより良いものを少しずつ提案しつづける。店主とお客さんとのつながりが、そのままこの味につながっているのだと思った。

カタネベーカリー
住所:東京都渋谷区西原1-7-5
電話:03-3466-9834
営業時間:7:00~18:30(店舗)、7:30〜18:00(カフェ)
休:月曜、第1・3・5日曜

02.元気いっぱいの挨拶がうれしい。
タルイベーカリー(参宮橋)

商店街で夕飯の買い出しついでに、お母さんたちがふらり立ち寄っていく。「こんにちは!」「いつもありがとうございます!どうも~!」看板のロゴマークにもなっている店主・樽井さんのいつもの挨拶だ。『ルヴァン』の富ヶ谷店で8年ほどパンづくりに勤しんだあと、同じ富ヶ谷という街でイタリアンレストラン『LIFE』を営む相場氏より声がかかり、参宮橋に『タルイベーカリー』をオープンさせた。それが、5年ほど前のこと。ドタバタのはじまりだったが、ルヴァン時代から常連の女性編集者が人をつないでくれ、この愛らしいロゴマークはどんどん広まっていった。

なるべく添加物を使わずに作り続ける理由は、身体に不要なものをできるだけ取り込まないようにするためと、素材のそのものの味わいを知ってもらいたいから。その代名詞とも言えるサンドイッチが、オープン時から変わらず作り続ける「バッカスチーズを使ったハムサンドイッチ」。長野県・松本市の山の上、標高1400メートルの『清水牧場』で作るバッカスチーズと、ドイツでハムマイスターを取得し開いた、鹿児島の『ふくどめ小牧場』による、豚のもも肉を使ったサンドイッチである。そのままでももちろん美味しいが、できれば、あたためて、とろけたところをすぐに頬張りたい。

さりげなく飾られたトートバッグは、洋服を作っている友人からの要望で、作り、販売することになった。とにかく、人が集まる人なのだ、樽井さんという人は。「しょうもないことも、会話に入れつつ話すのがコミュニケーション。やっぱり、明るい気持ちになって、少しでも足取りかるく帰ってもらいたいからね。」この姿勢は、ルヴァン時代から変わらない。お客さまには、得して帰ってもらいたいから、試食も終日出している。お客さまの滞在時間は、短い人で1分以内。その限られた時間のなかで、何をして差し上げられるのか、いつでも考えることが大切である。いつでもそういう心構えでいれば、パンの包み方ひとつから変えられるかもしれないから。

タルイベーカリー
住所:東京都渋谷区代々木4-5-13 レインボービル3 1F
電話:03-6276-7610
営業時間:9:00~19:00(平日)、8:00〜19:00(土、日)
休:月曜

03.京都の最高のパン屋さんは東京にもあった。
レフェクトワール(渋谷、原宿)

京都に住む食通の友人と、おいしいパンの話をすると必ず登場するのが『ル・プチメック』だ。オーナーは、もともとフランス料理の修行をされていた方だから、サンドイッチの具材がとにかく美味しいのだと言う。そんな名店の味わいが、東京でも楽しめる。渋谷と原宿をつなぐ明治通り沿い、ファッションビルの3階。パンの食堂『レフェクトワール』は、オープンして、まる4年が経つ。

メニューは、テイクアウトとイートインで分かれていて、イートインでは、皿盛りのサンドイッチをいただくために、ナイフとフォークを使うメニューが用意されている。テイクアウトのメニューも種類が多く、ガラスケースの前で、どれを頼もうか立ち止まって悩んでしまう。カフェでのんびりしてもいいし、テイクアウトで代々木公園まで散歩に行ってもいいし、いろいろな楽しみ方ができる。

おすすめは「プチモッツァレラ・プチトマト・バジルペーストのカスクルート」。食べたときに、歯切れが良くなるよう、ラードを入れて焼き上げたフランスパンに、バジルのペーストをたっぷりと塗る。同じ大きさにそろえ、ひとつずつ並べられた、トマトとモッツァレラは、まるでキャンディーのよう。ひと口頬張ると、ジューシーな味わいが一気に広がる。若々しい空気の流れる街で、ゆっくりひと息つきたいときに、ぜひとも訪れたい場所だ。

レフェクトワール
住所:東京都渋谷区神宮前6-25-10 タケオキクチビル 3F
電話:03-3797-3722
営業時間:8:30~20:00(イートインのラストオーダー19:00)
休:1月1日のみ

04.地下にひろがるパンのギャラリー。
メゾン・イチ(代官山)

おいしいパンを求め、ワクワクしながら階段を下りていくと、焼きたての、形のいいパンが行儀よく並んでいて、さながらギャラリーのようだと思った。『メゾン・イチ』は、10年前、西馬込の駅からすぐのところからスタートした。もともと店舗と作業場を分けていたことから、ひとつにまとめたいという思いがあり、代官山に移転したのが5年前である。

フランスのパンを中心に、パリ風の惣菜やスイーツのテイクアウトと、食事を楽しめるカフェが併設されている。ひとつひとつのパンと向き合っていると、目に入りやすいものよりも、そのまわりにあるものの方に、このすてきな店の秘密が隠されているような気がした。たとえば、左端にさり気なく置かれた、バケットを持って走る少年。これは、オーナーである市毛さんが渡仏した際に見つけた写真。フランスではごく普通にパン屋さんなどで見かける写真だそうだ。

昔から作りつづけている商品ばかりだが、オープン時から変わらないのは、具材はあまり加えずに、素材の味が感じられるシンプルなものを目指していること。「ツアとトマト、とうもころしのサンドイッチ」は、トウモロコシとツナの相性と食感の良さから、コーンが練りこまれたパンを使って挟んでいる。具材は、ツナとトマトと玉子。とうもろこしの香ばしさえおまるごといただきたい。

メゾン・イチ
住所:東京都渋谷区猿楽町28-10 モードコスモスビルB1F
電話:03-6416-4464
営業時間:8:00〜20:00

05.ものづくりへの心意気がそこかしこに表れるすてきな場所。
365日/15℃(代々木八幡)

「お店というのは、完成品ではなくて、これからの未来へ向かうために必要な、そんな、〈これからの準備〉のような場所なんです。」店主は、そう静かにお話された。加えて、「どのお仕事も〈リノベーション〉という考え方に近いかもしれません。」とも。正解はつくらずに、現状の問題点を見つけて、それを、その都度、改善していく。たとえば、焼きあがったブリオッシュがカサカサしていたら、しっとりしている方が美味しいのではないか? そんな、日々生まれる「なぜ、なに、なんだろう」を、どのように解決していくかを考えて、続けていく。これが『365日』のやり方である。

ベーカリーをひとつの軸とし、日本で生まれた青果や穀物、雑貨などを販売するセレクトショップ『365日』。そして、通りを1本挟んだところにオープンした姉妹店のカフェ『15℃』。地球の平均気温をそのまま店名にした理由は、世界にはさまざまな人がいるということ、そして、その多様性を理解したうえで、調和を求める姿勢を表したのだそうだ。

サンドイッチケースを覗いてみると、宝石箱に並ぶジュエリーのように、そのどれもが、キラキラとした光を放っていた。なかでも、みんなが大好きな玉子のサンドイッチは、口に含んだとき、さらさらと身体の中に入っていけるよう、玉子特有のにおいを抑えるような工夫をした。玉子の相方に選んだのは、ゆでたひよこ豆を使ったフムスだった。そこに、スプラウトをのせ、なめらかで上品な味わいを作り上げた。すてきなものというのは、余韻が続いていくものである。お腹がいっぱいになってしまっては、そこがゴールになってしまうような気がするが、その一歩手前で終わるものを目指しているのだと言う。店主の心意気がそのまま、クリアでみずみずしい空気となって、ひとつひとつの表れとなったすてきな店だ。

365日
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-6-12
電話:03-6804-7357
営業時間:7:00〜19:00

15℃
住所:東京都渋谷区富ヶ谷1-2-8
電話:03-6407-0942
営業時間:7:00〜23:00

06.一度でいいからこのバゲットを味わってもらいたい。
ヴィロン(渋谷)

渋谷の道玄坂下から東急百貨店へ向けて、ゆるやかな上り坂を歩いて行くと、赤にふち取られた美しい『ヴィロン』が現れる。Bunkamuraの美術館や映画館など、フランス好きが多く集まるこの地にオープンして、今年で13年目。もともと、兵庫県の食品会社の社長が、パリのバケットに惚れ込み、どうにか日本でも作れないものかと、フランス老舗の製粉会社であるヴィロン社と交渉をしたことからはじまった。パリのバゲットを再現すること。ヴィロンのコンセプトは、このひと言に尽きるのだ。

まわりはカリカリ、中はモチモチ。おいしいバゲットづくりのポイントは、小麦粉、塩、そして、水にある。パリで開かれるバゲットコンクールで優勝の功績が多い小麦粉・レトロドール。フランス・ゲランドの塩。そして、中硬水の水。はじめ、日本の水道水で作ったところ、うまく膨らまず、ペタっとした焼き上がりになってしまい、硬度の高いコントレックスを、日本の水道水で割ることで、理想的なバゲットが焼きあげた。この試行錯誤は、オープン日の直前まで続いたという。

サンドイッチは、どれも、バゲットを美味しく味わってもらえるよう工夫されたものばかり。なかでも、見た目が華やかな「プーレロティ(自家製ローストチキンのディジョンマヨネーズ和え、キャロット・ラペ、バター)」は、丸鶏を蒸して、ほぐし身にしたものと、キャロット・ラペをサンドしている。キャロット・ラペに代表される、にんじんのサラダは、フランスのポピュラーなお惣菜メニュー。フランスの家庭料理とヴィロンのパンがあわさった、なんとも理想的なサンドイッチである。

ヴィロン 渋谷店
住所:東京都渋谷区宇田川町33-8 塚田ビル 1F
電話:03-5458-1770
営業時間:9:00~22:00

子どものころ、大好きな場所があった。スーパーの一角にあったパン屋さんだ。焼きたてのいい香りにつられて店内へ入ると、クマやウサギなど、動物の形をしたかわいらしいパンがいくつも並んでいた。目を細めながら眺めては、母親にねだって、いつもひとつだけ買ってもらっていた。大人になった今でも、パン屋さんには、足を運ぶだけで、ワクワクしてしまう魔法のような力があると思う。見た目も、味わいも、無限に楽しめるパンの魅力に、今改めて向き合ってみたいと思う。

Licensed material used with permission by カタネベーカリー, タルイベーカリー, レフェクトワール, メゾン・イチ, 365日, ヴィロン
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