【インタビュー】新しい視点で切り開かれた「日本酒」の可能性って?

「日本に眠る愉しみをもっと。」をコンセプトに据え、「地方と食」にフィーチャーした様々なプロジェクトを展開する「DINING OUT(ダイニング・アウト)」。取り組みの一環として、今回は人気が復活しつつある「日本酒」に注目。話を聞いたのは、これまでとは違うアプローチで業界の活性化を図るミライシュハン株式会社CEO山本祐也氏と、和酒コーディネーターとして活躍するあおい有紀さんです。

「同級生に酒造の息子がいて
身近な存在でした」

あおい:まずはミライシュハンが手掛けている日本酒に関するビジネスの内容について教えてください。

山本:主要事業は大きく分けて3つあります。

1つ目は、ミライシュハンが新しい日本酒を企画・販売するブランド事業。私たちが消費者目線で、「あるといいな」と思った日本酒を企画し、協業している酒蔵の杜氏と共同開発、販売しています。

2つ目は多数の酒蔵に参加してもらっているイベント「KURA FES」などを企画・運営しているPR・イベント事業。これは商業施設などのスペースで、日本酒と料理をマリアージュしたものを体験してもらうというもの。

3つ目は、セレクトショップ的な視点で日本酒を厳選し、自社のECサイト「Six Star Sake」などで販売する酒類販売事業です。その他事業として、オーダーメード日本酒事業や蔵元の資金調達を支援するクラウドファンディング事業も展開しています。

山本氏が手がける日本酒ECサイト「Six Star Sake」には、厳選された日本酒が並ぶ。

あおい:山本さんは大学卒業後に証券会社に入社されたそうですが、日本酒に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

山本:私は石川県出身で、高校の同級生に酒蔵の息子が何人かいたので、日本酒は身近な存在でした。実際に日本酒業界で働きたいと思っていたのですが、酒を造るのは酒蔵を代々継いできた人間だから酒造りそのものには関われない。じゃあ、日本酒の魅力を広めることや、日本酒業界へ資金を調達しビジネスを活性化させるといったことなら携わることができるのではないかと思い、大学卒業後に金融業界へ進んだのです。


「日本酒は地元の原料を使い
地元で大きくなっていく」

あおい実際に学べたことはありましたか?

山本私が金融業界へ入った目的は、日本酒業界で新しいビジネスを始めるための下準備。といっても、今の私のキャリアだけでは経験や知識はまだまだ足りません。ただ、ずっと金融マンをやっていく人たちや、活躍の場を求めて海外へいく人たちにOBとしてコミュニケーションできる関係性を築けたことが、最も大きな収穫でした。古巣の人たちの知恵を借りることができるのは、日本酒業界にとってもよいことだと思います。
 
あおい高校時代に酒蔵が実家の友達がいたということですが、大きな影響を受けたのですか?

山本地域のために頑張ってきた会社でも、成長して大企業になってしまうと、石川県民だけを雇う会社ではなくなる。会社が東京へ移転することもあります。つまり、会社が大きくなっても、その地域の雇用が増え、地域に貢献できるかというとそうではないのです。けれど、例えばボルドーのワイナリーは規模が大きくなったからといって、オーストラリアにワイナリーを新設するかというと、それはありえない。同様に日本酒の業界も、酒蔵は基本的に地元の原料を使って地元で大きくなっていく。海外から安いものが入ってきても差別化できるので、客観的に見てビジネスとしておもしろそうだと思いました。

あおい:すでにいろいろな事業をスタートさせていますが、山本さんが日本酒に感じる魅力は何ですか?

山本:日本酒の原料は米と水と麹なので、私たちは日本酒をエッセンス・オブ・ジャパンと呼んでいます。米は農業で、水は山岳国である日本の天然資源、そして麹は歴史のある発酵文化。だから日本そのものじゃないかって。存在そのものが日本を凝縮したもので、そこが一番の魅力かなと思っています。

新たな日本酒ファンを獲得する
イベントとECサイト

「KURA FES」は、日本酒と料理のマリアージュを前提としたイベント。食中酒としての日本酒をアピールしている。

あおい日本酒の人気が復活して、ようやく日本酒のイメージも変化しつつあります。まだ過渡期ではありますが、これから日本酒の魅力をどのように表現していきたいと思いますか?

山本例えば、イベントの「KURA FES」では、必ず日本酒と料理とのマリアージュを前提としています。一般的な食のイベントって、食とドリンクのブースは別々の場合が多いと思いますが、「KURA FES」ではひとつのブースで日本酒と料理をセットで出すことにしています。必ずしもすべての人に受け入れてもらえるかどうかはわかりませんが、私たちが「KURA FES」でやりたいことは、日本酒を食中酒として、食と一緒に楽しめる酒であることをアピールすることです。

コンセプトは、「日本酒をカッコよく!」楽しむ遊び場。これまでの日本酒のイメージを覆し、若い世代にもその価値を伝えている。

あおい:日本酒を呑むというより、「味わう」イメージですね。

山本:そうです。他にもECサイト「Six Star Sake」では、テーマ別に日本酒を販売しています。これはワインを飲む人に向けたアプローチ。例えば、テーマの中のひとつにテロワールとヴィンテージがあります。ワインにおけるテロワールとはブドウが育つ土壌や環境という意味で捉えられますが、これを日本酒に当てはめるとどうなるか。私は米だけではなく、水や蔵つき酵母も含めてテロワールだと思っています。ワインを飲む人、特にブルゴーニュが好きな人からみると、日本酒のテロワールには理解を示してくれると思うので、大事な要素のひとつですね。

ヴィンテージについては、日本では古米よりも新米のほうがおいしいという認識だし、古酒よりも新酒の方がフレッシュでおいしいと思っている人が多い。でも、熟成した酒や古酒にしかない魅力もあります。ヴィンテージの日本酒が広まると、面白いという人も増えるのではないでしょうか。

酒造の社長の想いを反映した
セレクトショップ

ECサイト「Six Star Sake」では、「スパークリング」「テロワール」「ヴィンテージ」といったテーマでも日本酒を紹介している。

あおい:コアな日本酒ファンを対象とするのではなく、新たな日本酒ファンを獲得していきたいとうことですね。

山本:日本酒の消費量は、酒類全体の6%です。私たちのような新しいプレーヤーが市場に入っていく場合、古参のプレーヤーが過密している6%の狭いところよりも、日本酒のプレーヤーがあまりいない94%の広いところを選ぶのは理にかなっていますよね。
 
あおい:「Six Star Sake」では、他にはどのように日本酒を選んでいるのですか?

山本:大吟醸や純米酒という分類はしておらず、もちろん精米歩合も関係ありません。イメージとしては日本酒のセレクトショップですね。ヴィンテージやテロワールと並んで、初心者向けにはスパークリングを、健康に気を遣う人にはオーガニックというテーマでも分類しています。日本酒をスペックで捉えるのではなく、思想や考え方などで選んでいるという感じでしょうか。

あと、販売している日本酒はすべて酒蔵の社長にインタビューを受けてもらっていて、「Six Star Sake」を訪れる人はインタビュー記事を読みながら日本酒を買えるようにしています。また、掲載数は少ないですが、その日本酒にあう料理のレシピも掲載。最終的には、酒蔵の社長がどういう思いで酒を造っていて、どういう料理にあう酒なのかが分かるwebサイトにしていく予定です。

蔵元の思いの熱さも
酒選びの基準

山本さんが信頼している蔵元のひとつ、新潟の阿部酒造。次期当主(写真右)は、20代ながら情熱をもった酒造りに取り組んでいる。

あおい:具体的にはどのような酒蔵の日本酒を販売しているのですか。

山本:例えば我々が親しくさせて頂いている蔵元の1つに新潟の阿部酒造さんがあります。阿部酒造は新潟で最も小さな蔵元の1つですが、次期当主で杜氏の阿部さんは昨年から酒造りを始めたばかり。もともとはお父さまが酒を造っていらっしゃるのですが、彼が戻ってきてからは新ブランドをスタートさせました。

新潟といえば「淡麗辛口」のイメージが強いと思いますが、彼のお酒は「濃醇旨口」です。まだ20代の蔵元で情熱もすごく持っている。酒選びは、個性が際立っているとか、蔵元の酒造りにかける思いが熱いとか、そんな基準で選んでいます。酒蔵に何かを求めるのではなく、一緒に成長していきましょうという感覚で、信頼しあえる蔵の日本酒を厳選しています。

「若い世代へのプレゼンが必要」

あおい:山本さんが若年層や女性、ワイン好きといった人たちを意識しているのはなぜなのでしょうか?

山本:現在、日本酒を抵抗なく呑める人というのは、40~50歳の男性が多いと思います。でも今50歳の人が30年後に80歳になると、酒量が減っているかもしれないし、健康のためにお酒をやめているかもしれない。では、今20歳の人がほっといて50歳になったときに、日本酒を呑むかというと、それはないと思います。

昔は40~50歳になると演歌を聴きはじめた時代があって、でも今40~50歳で自動的に演歌が好きなるかというとそうではない。当時は演歌を家族皆で紅白で見たとか、露出と体験があったからそうなるわけです。それを考えると、今のコアユーザーである40代以降の男性だけでなく、将来のお客さまになる可能性のある若年層に対して、日本酒をどんどんプレゼンすることは絶対にやらなければいけないことだと思っています。

「外国人観光客にも
魅力を知ってほしい」

京都・先斗町にオープンした、外国人観光客に向け観光案内所兼日本酒バー「釀 ‐Jo- Social Sake Bar」。(photo by 未来蔵人/ミライクラウド)

あおい:外国人に向けたアクションも起こしているのですか?

山本:京都の先斗町で、スタッフ全員が英語を話せる外国人観光客向けの日本酒バーを展開しています。観光案内所兼、日本酒スタンディンバーみたいなイメージ。そこで2~3杯呑んでもらい、天ぷらが食べたいとか、寿司が食べたいといわれたら、先斗町の他の店に案内することも含め、情報拠点として運営しています。海外の人は、日本酒の味も気に入ってもらえるパターンが多いし、日本酒の歴史や伝統文化に興味を持って呑んでもらうことも多いので、おおむね好評ですね。

ボルドーやブルゴーニュ
のような「まちづくり」を

あおい:2016年の目標はありますか?

山本:「KURA FES」は今まで数百人くらいの規模でしたが、間口をもっと広げて数万人の方が参加してくれるようなものにしていきたい。あと、いろいろな人たちに日本酒を知っていただく「Six Star Sake」は、取り扱う日本酒の数を増やして、コンテンツなどの情報もどんどん充実させていきたいですね。
 
あおい:最後に、中長期的な目標を教えてください。

山本:会社としては、LVMHのような世界をリードするエクセレントカンパニーを日本の酒産業の領域から誕生させたいと思っています。また、もう一段進んで社会との関わりとしては、まちづくりをやってみたいですね。

例えば、日本でフランスへワインを飲みに行こうってなったときに、マルセイユやパリではなく、ボルドーやシャンパーニュに行ってみようとなるはず。でも、海外の人で日本へ行くから灘や伏見へ行こうという人は多くはないと思います。だから、まさに日本の地方において、ボルドーやブルゴーニュのようなまちづくりをしてみたい。

訪れる人がいっぱい増えてきたら宿泊施設が必要になってくるし、それができたら今度は土地や不動産の価値が上がっていくと思います。大切なのは産業と地域経済と雇用を増やしていくことだと思うので、まちづくりにも私たちが関わって一緒にやっていけたら嬉しいです。

Licensed material used with permission by DINING OUT
TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。