【総移動距離4000km】キャンピングカーで九州の生産者を訪問した、「小さな八百屋」の旅行記

「ミコト屋」は、ぼく、鈴木鉄平と山代徹がはじめた小さな八百屋。自分たちが普段口にしているものがどうやって生まれ、どこからやってくるのかを知るために、2014年の夏は九州の生産地を目指し、“ミコト屋号”という古いキャンピングカーを走らせました。9日間の出来事からいくつかピックアップして紹介します。

“農の未来”を語るために
ぼくらは旅に出た

ぼくらはもともと旅が大好きでした。決まったところに拠点を構えず、好きな時に好きなところへいって寝泊まりするスタイルは、以前から変わっていません。ミコト屋を始めてからも、年に数回は車で全国の産地などを巡っていますが、そのまま車内かテントで寝泊まりするため、滞在費はほとんどかかりません。「旅する八百屋」と称するのも、ここからきています。

何より楽しいのは農家さんと“農の未来”を語ること。生産と流通がヴィジョンを共有し、歩みをともにすること。その重要性をひしひしと感じるのです。全国を旅するのは、おいしい野菜を探すためでもあるし、すばらしい生産者に出会うためでもあります。またその土地の食文化や背景を学ぶためでもあるし、生産現場に足を運ぶことで見えてくる流通の課題を探るのもミッションのひとつです。

01.
憧れだった
「種」のスペシャリストと対面

ー長崎県雲仙市ー

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横浜から車を走らせること20時間。鹿児島や佐賀を2日かけて巡ることからスタートした旅の3日目、最も楽しみにしていた長崎県雲仙市に移動した。迎えてくれたのは、種採りのスペシャリスト岩崎政利さん。岩崎さんが出している本は、農業研修時代から種採りの教科書として読んでおり、ずっと行ってみたかった憧れの畑だった。岩崎さんは30年ほど前に、体調を崩して寝たきりの生活を送ったことがきっかけに、それまでの農法に疑問を持ったという。そこで注目したのが、風土に根ざした在来の「種」だった。土や野菜の本来の力に頼った農法だからこそ、種に力のある「在来種」が適していると考えた。

畑を訪ねると、各地の在来野菜がいくつか育っていた。山口県の農家さんにもらい受けた柿木(かきのき)在来の地キュウリ、宮崎県椎葉村で800年もの間、守られてきた平家キュウリ、福島県だけで栽培されてきたカボチャ…実は、在来種の多くは高齢な農家さんが守っている場合が多く、その人が亡くなるとその種たちも一緒に途絶えてしまうケースも多いという。
岩崎さんは、種を採ることを「あやす」と表現する。まるで赤ん坊や動物と接しているような優しさと愛情を感じられる、いい言葉だ。

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本来、種にはその土地の文化や先人たちの暮らしや想いが詰まっている。ぼくたちは敬意を払っていかなくてはいけない。改めてそう思った。

02.
クモの巣だってほったらかし
ワイルドな果樹園

ー熊本県玉名郡ー

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4日目は熊本県玉名郡へ。午後からは日ざし全開、ミコト屋号は蒸し風呂状態だった。そこで、熊本名水百選の尾田の丸池で水浴びタイム。あまりの気持ち良さに、ちょっと遅れて「にしだ果樹園」へ到着した。

園主の西田淳一さんは、熊本から世界へ発信する気鋭の果樹農家だ。8haもある広大な果樹園にもかかわらず、栽培品目を単一に絞らず、熊本の特産であるデコポンなどの柑橘類をはじめ、桃や柿、レモン、キウイなど、年間約30種の果実を細分化して栽培している。

それにしてもワイルドな果樹園だ。クモがそこら中に巣を張り、樹のまわりには草花が繁茂している。ここでは生きるものすべてが主役のようだ。月の満ち欠けに合わせた草刈りや、月の引力で生じる樹体内の養分、水分の移動に合わせた剪定や収穫を行うなど、栽培に対する探究心も半端なものではない。

また、SNSを巧みに使って果樹園の様子をリアルタイムで更新することで、多様性や季節のサイクルなどを伝えている。消費者との距離を縮め、リアルなイメージを湧かせるにはすごく効果的だという。

03.
染め物だけじゃなく、
薬草にもなる「藍」の魅力

ー徳島県海部郡ー

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熊本を出た後、2日間福岡に滞在。その後7日目から最終日の9日目まで滞在したのは徳島県海部郡海陽町。ぼくらが”アニキ”と慕う、藍の伝道師、山本牧人さん(通称マッカさん)のもとを訪れた。現在、伝統的な阿波藍を育てるオーガニックな農家さんであり、藍の染め師としても活躍。また藍の魅力と有用性を啓蒙する活動家であり、藍を染め物の原料とするだけでなく、体に取り入れる薬草としても紹介している。
「デトックス効果」のある薬草として、ミコト屋でも藍の葉を乾燥させたお茶を販売している。

「サーファーとして豊かな海を取り戻すために、山や川がよみがえるような藍栽培で農地を活かす。大好きな海部川支流の上流で、肥料なし、農薬なし、水やりなし。そこに生きるすべてのいきものと一緒に藍を育てる」というマッカさんの想いが詰まった藍の畑を案内してもらった。

腰をかがめ、手と鎌だけで淡々と収穫していく。藍葉の緑色、畑の土色、手についた藍色。言葉にしがたい美しいコントラスト。静かで透き通った時間。いつもはマッカさんにべったりの愛犬インディーも畑には入らず、脇の畦にたたずんでいた。

ツアー行程9日間、総移動距離4000km。産地めぐりも無事に終わった。本当に充実した旅だった。小さな八百屋は、ひとまわり大きくなれた。そう、ぼくらの旅はこれからもまだまだ続いていくのだ。

旅する八百屋
「2  旅する八百屋」より抜粋コンテンツ提供元:アノニマ・スタジオ
Photo by : 新井”Lai”政廣(Sun Talk)

青果ミコト屋/鈴木鉄平・山代徹

ともに1979年生まれの2人が立ち上げた小さな八百屋。自然栽培を中心とした旬のおいしいオーガニック野菜を取り扱う。“ミコト屋号”という古いキャンピングカーで、日本全国の生産現場に足を運ぶ。店舗を持たず、定期宅配と移動販売が中心。マルシェやイベントなどにも多数出店している。青果ミコト屋webサイト:http://micotoya.com/

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