1粒1000円でも「売れるイチゴ」 仕掛け人が語る甘酸っぱい経営論とは?

岩佐 大輝/Hiroki Iwasa

1977年、宮城県山元町出身。大学在学中の2002年にITコンサルティングを主業とする株式会社ズノウを設立。東日本大震災後は特定非営利活動法人GRAおよび農業生産法人GRAを設立。先端施設園芸を軸とした東北の再創造をライフワークとする。日本およびインドで5つの法人のトップを務める。

「イチゴ」という農作物を通して、日本の農業システムのあり方に一石を投じた起業家の岩佐大輝氏。これまでの軌跡をたどった電子書籍『甘酸っぱい経営』は、そんな岩佐氏のノウハウが詰め込まれた珠玉の一冊だ。それに書かれた独自の経営論について、本人に直接話を伺った。
岩佐氏はいったい何を考え、何を実践してきたのだろうか?

面白いものは、
創造性と効率性の
せめぎ合いから生まれる

自分で書いておきながら言うのもなんですけど、経営論ってなかなか言語化しにくいんですよね。『甘酸っぱい経営』では、革新的なものがどういうところから生まれるかということをテーマにしたのですが、そのなかで僕は「創造性」を重要な要素としてあげています。その一方で、我々は効率性とも戦っていかなければいけません。

でも、創造性と効率性を同居させることって本当に難しいんですよ。創造性だけを重視してもダメだし、だからといって効率性だけで物事を考えていくのもいけない。このふたつがせめぎ合うところに面白いものが生まれるっていうことを伝えたいんです。
同じように、組織のなかにも両極端な人がいるってことが極めて重要だと思っていて、思想だとか発想だとかベースモデルだとか、あらゆるものがそうあるべきだと思うんですよ。中途半端が一番いけないなと。

東京タワーから
飛び降りることが
“リスクゼロ”の理由

企業の10年生存率って5%ぐらいしかないと言われていて、ほとんどが失敗するわけですよ。だから、基本的に何かをはじめるときは失敗する前提でやるんです。それでもやるのは、もしかしたらものすごく成功するかもしれないから。

これは「リスクを取るということは、リターンとのバランスを考えることだ」という考えが根底にあるんですが、僕の考えるリスクって不確定要素がどれだけ大きいか、可能性の振れ幅がどれだけあるかという意味であって、たくさん損をするからリスクが大きいというわけではないんです。だから、たとえば東京タワーから飛び降りるのって、僕のなかではリスクゼロなんです。もう飛び降りた時点で死ぬことがわかっているから。

PDCAはもう古い!
成功の確率を上げるのは
「PDPDPDCA」

僕はよく「PDPDPDCA」と言っているんですが、これはとにかく挑戦の数を増やすということなんです。近年はとくにPDCAのサイクルを一周する間に次の新しいものが出てきて、CAの段階に入った時点ですでにその事業が古くさいものになっているということがしばしば起きることがあって。それを防ぐための策として、僕は複数のPDCAを同時に回すようにしているんです。そうすれば同じ時間のなかでの成功確率が高くなりますから。

ほとんどが失敗する事業の中で、その確率を上げるためにどうしたらいいかっていうと、やっぱり挑戦する数を増やすしかない。そのなかで芽が出そうだと思った事業を大きくしていくのが効率的など思うんですよね。とくに農業ってPDCAのサイクルがすごく長いから、1年にチャレンジできる数って限られてしまうんですよ。たとえばイチゴだと、親株を植えてから収穫が終わるまでに約20ヶ月かかってしまう。

10年間でPDCAを回せるのって本当に数回とかになってしまうわけです。そうしたら、挑戦の数を多くしていかないと何も変わらない。人生30年とか50年は働ける時間があったとしても、30回とか40回しか挑戦できないのであれば、それだけ成功確率は減ってしまいますから。

苦手な人と話をすることで
会社の「同質化」を防ぐ

新しく何かをスタートさせるにあたって、誰と一緒にやるかがとても重要になってくると思うのですが、僕がもっとも大切にしているのは、会社のビジョンやミッションに共感してくれるか、ということ。仕事の方法は個々人でバラバラでも問題ないんですけど、どこを向いて仕事をしているかっていうことだけは揃えておきたいと思っています。あとは信頼できること。そしてハードワーカーであることですね(笑)。

あと、これはとても重要なことなんですが、人って同じ場所に居続けると、どれだけ意識していても必ず同質化していくんですね。これは100%間違いないと思っています。で、同質化の何が弊害かというと、突飛なアイデアが生まれにくくなることだと思うんです。だから僕は、とにかく移動するように心掛けています。場所が変わると、会う人も違うし、空気感も違う。それは自分にとって大きな刺激になるわけです。ちなみにこの移動距離とは、物理的な意味での移動のことです。

といっても、会社勤めだとそう簡単に移動はできないと思います。そんなときは、自分が苦手だなと思う人と話してみるといいと思います。こいつといるとなんか落ち着かないなとか、なんか自分と合わないなっていう人と仲良くするわけです。居心地がいい人とずっと一緒にいてしまうのが一番よくないですね。だから、異質なものを取り込むことを習慣づけるんですよ。そうすると解放されるんですね、自分が。

岩佐氏が語る
「甘酸っぱい経営」の
本質とは?

経営者やリーダーの役割って、自分の組織にどれだけ異質なものを集められるかだと思っていて。「すごくまとまりがある会社で、誰と会っても気持ちがいい」みたいなことを言われるようになるともう危険だと思っています。そういった組織ってオペレーションをうまく回していくのは得意なんですけど、新しく何かを生み出したり、迷いが生じたときに突き抜けていく力がすごく弱いんですよ。なんとなく面白くなくて、エッジが立っていない。

なかには異質なものが入り込んでくる環境にうまく順応できず、萎縮する人がでることもありますが、僕はとにかく話をするようにしています。他人が自分と違う世界観を持っているのは当たり前で、だからこそ交流を遮断するのではなく、どんどん触れ合っていくことが大切だと思うんです。

これはできないとか、あの人は話しかけにくいとか、自分のなかでタブーをつくるのが一番良くないと思うんですよね。だから僕は誰にでも心を開くようにしています。そして、聞きたいときに聞いて、やりたいときにやる。経営者の仕事って、それくらいしかないと思いますよ。そういった環境ができれば、あとは勝手にうまく回りはじめるはずです。

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。