人の心を動かす「言い換えのテクニック」6つ

どうすれば人を動かすことができるのか。それには「言い換え」がものを言う。人は言い方を換えれば、コロッと納得させられてしまうものなのだ。

ここでは人を動かすための言い換え術を紹介したい。同じことでも、言い方を変えるだけで結果は180度変わってしまうのだ。

01.
二者択一にして
他の選択肢を考えさせない

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二者択一で迫る。これが、相手を一気に押し切る鉄則である。

「おのれ、命かゼニか!」「お金、出します!」警察に駆け込むことや、別の方法での解決という選択肢から目をそらせ、意図した結果を手中にする。

部下のケツを叩くなら、「もっと仕事しろ!」と叱責するのではなく、「やる気があるのか、ないのか!」と二者択一に言い換えて迫ればよい。だれだった「あります」と答えるはずだから、それをテコにして「やる気があるのに成果が出ていないのは、どういうわけだ!」ガンガン攻めていけばいいのだ。

02.
誉めるときは
「みんなそう言ってるよ」

誉める。これも相手をその気にさせるときの基本だ。ただし、結果に対するアクションでは成果が上がらない。結果が出る前、すなわち着手する前にどういう言葉をかけるかが勝負となる。

単行本の執筆を依頼され、締め切りの話になる。「向谷さんは執筆が速いから大丈夫だと思いますよ」とヨイショしてくれるとうれしくなるが、このセリフは並みの編集者。主観的な感想の域を出ていないからだ。これに対して人間心理に通じた編集者は笑顔でこう言い換える。「向谷さんは締め切りに遅れないって評判ですよ」

このヨイショには客観評価のニュアンスがある。すると(そう見られているのか。締切に遅れるわけにはいかないな)と私は自分に言い聞かせることになる。人には「期待に応えようとする心理」があり、これはそれを応用した言い換えだ。

03.
決断させるときは
「究極の仮定」

Close up of businessman signing a contract.

決断を迫るとき、あるいは断念を迫るときの魔法の言葉がある。「もし」という過程の問いかけである。あり得そうな事態ではなく、究極の想定をしてみるのがポイントだ。

知人の息子が結婚3年目にして離婚するべきかどうか悩み、私のところに相談にきたことがある。別れようと思っているのだが、踏ん切りがつかないのだという。私はこう言った。

「ところで、キミもカミさんも100歳まで生きるとしたら、あと何年ひとつ屋根の下で暮らすことになるんだい?」
「70年……」彼はその場で離婚を決断した。

04.
自分の「死ぬ気」を見せて
上司のケツを叩く

部下のケツを叩くのにそれほど躊躇する必要はないだろうが、反対に、上司にハッパをかけるのは難しい。そこで参考になるのが山本五十六である。ある時、彼は首相に戦争して勝てるか、と質問される。

「もし戦争になったら、私は飛行機にも乗ります。潜水艦にも乗ります。太平洋を縦横に飛び回って決死の戦をするつもりです。総理もどうか、生やさしく考えられず、死ぬ覚悟で交渉にあたっていただきたい」

いきなり「死ぬ気で交渉してください」と「傍観者」の立場で言えばムッとされるだろうが、「私も死ぬ覚悟でいます」と「当事者」の言葉で言い換えておいてから「だからあなたも死ぬ覚悟で」と迫れば、「よし。わかった」と気合が入ることになる。

なかなか動いてくれない上司には「今度のプロジェクトにゴーサインが出れば、私は寝食を忘れて取り組む覚悟でいます」と迫れば、上司も「これががんばらねば」と気を引き締めるものなのだ。

05.
「ものは言いよう」
強調したいポイントを自在に操る

Contract to sign

ウソを言えば詐欺になるが、ものは言いようだ。「相手に応じて、強調する部分をいかようにも変えていく」と、不動産販売を手がける私の知人は言う。

たとえば、辺鄙な場所に立つ住宅を売る場合。

小さな子供がいる夫婦には「見てください、この自然の豊かさを。トンボ、カブトムシ、蝶々、ザリガニ。子育ての環境としてこれ以上の場所があるでしょうか?」

子離れした定年以降の夫婦であれば「どうです、空気が違うでしょう。都会の喧噪を離れ、四季の草花を愛でながら朝夕の散歩。健康にもいいし、人生の至福ですね」

反対に、駅前のマンションを売るときは、徹底して利便性を強調し「自然が豊かだというのは、要するに不便だということなんです。そんな言葉に騙されちゃいけませんよ」これが、ものは言いようの言い換えなのである。

06.
「数字」でケツに火をつける

Analyzing electronic document

「走れ!」と命じてもチンタラしている人間は、ケツに火をつけてやればよい。人に命じて何かをやらせようとするなら、ケツに「締め切り」という火をつけてやればよい。「アチチッ!」と必死で取り組むはずだ。ここに「数字」の言い換えが登場する。

私の空手道場を例にすると「稽古をしろ!」とハッパをかけてもなかなかその気にはならない。そこで「試合まであと3カ月しかないぞ!」とハッパをかけるが、「まだ3カ月もあるじゃん」と気合がイマイチ入らない。そこで、私はこう言い換える。

「3カ月は12週間。日曜日が12回きたら試合だぞ!」「たった12回!」これが数字の言い換えで、ケツに火をつけられた選手はアチチッと必死で練習を始めることになる。

数字は絶対値である。だが、絶対値であっても提示の仕方によって受け取る感覚はいかようにも変わる。これが数字を用いた言い換えであり、目的に応じて使い分けることで説得力が増すのだ。

説得は「言い換え」が9割
コンテンツ提供元:光文社

向谷匡史/Tadashi Mukaidani

1950年生まれ。数多くの大物ヤクザを取材した週刊誌記者を経て、現在は浄土真宗本願寺派の僧侶。『会話は最初のひと言が9割』(光文社新書)、『ヤクザ式ビジネスの「かけひき」で絶対に負けない技術』(光文社知恵の森文庫)、『ヤクザの実戦心理術』『ホストの実戦心理術』(KKベストセラーズ)など記者時代の経験を活かした著書を多数もつ作家としても活動している。

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