ノーがイエスに!説得のプロが使っている「言い換え術5つ」

「飛び込み100件!」と命令すれば、(パワハラかよ)と部下は腹の中で毒づく。では、どうすればいいか。「キミたちなら、飛び込み営業は何件までできるだろうか?」と疑問形にして言い換え、部下の口から答えを出させれば士気は上がるのだ。ここで、ビジネスで役に立つ言い換え術を紹介していく。

01.
疑問形で投げかけて
「自分の意志」で決めさせる

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「右に行くべきだ」と命令口調で言われると「何でだ」と反発する。ところが「右はどうだろうか?」とやんわりと疑問形で提示されると「そうかな」と素直に再考する。疑問形に対する回答は「自分の意志」であり、「自分が決める」という主体性をキープしたままであるため、反発心が起こりにくい。

ある出版社でこんなことがあった。「どうすれば企画が出てくるか」ということをテーマに編集会議が開かれたときのことだ。「ノルマを課すべきだ」と1人が主張したため、会議は紛糾した。「企画はノルマで出すもんじゃない」などと非難囂々になったところで中堅の1人が引き取り、「ノルマなんて乱暴なことは言わないで、たとえば隔週で企画を持ち寄って、みんなで煮詰めるというのはどうだろうか?」と提案したのだという。

これは実はノルマの提案と同じなのだが、疑問形でニュアンスを変えたことで、主導権は心理的な反発が起こらず「それも悪くないかな」という雰囲気になったそうだ。

02.
若手には「将来」を見せて転がす

「こんな会社、やめてやらぁ!」若者がケツをまくったとき、どういう説得の仕方をするかで上司の能力がわかる。「短気を起こさないで、もう1度考え直せ」と言ったのでは、「いいえ、もう決めました!」火に油。「私の立場」での説得であるからだ。

ところが、「早まるな、将来のためにここは我慢だぞ」と「将来」を引き合いに出して「あなたの立場」で言い換えれば、(ちょっと待てよ)と考え直すことになるのだ。

どんなに過酷で悲惨な状況にあろうとも、「現実」から「将来」に視点を変えることで、若手はいかようにも手のひらで転がすことができる。「将来ある身」はその通りだが、ハッピーになるとは限らない。いや、大成しないことがほとんどであるにも関わらず、なんとなく「バラ色の将来」を思い描いてしまう。この心理を経験として熟知する年長者は若手を巧みに説得していくというわけだ。

03.
「こんなプレゼンの方法を
考えてみたんですが、どうでしょうか」

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目上に取り入るキラーフレーズは「教えてください」だ。こと趣味に関しては、絶対にスベらないと思っていいだろう。人に教えるというのは自尊心がくすぐられて心地いいのだ。しかし、仕事上では「課長、どうやれば契約が取れるか教えていただけませんか」とストレートに仕掛けても(こいつアホか)とノーテンキな質問にあきれられるに違いない。そこで、言い換えが必要になる。

「課長、こんなプレゼンの方法を考えてみたんですが、どうでしょうか」と『問いかけ』で言い換えて質問すれば、「自分で考えろ」と突き放すことはできない。「それはだな」と教え始めると、質問→回答→質問……というキャッチボールに発展していって、(こいつ、みどころがあるな)という評価になるのだ。

04.
「命令語」を「疑問形」にチェンジする

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疑問形の言い換えはサービス業ーーそれも一流の人たちが実にうまく用いている。

たとえば、昼時のレストラン。「おそれいりますが、ご順にお並びください」と言うのは言葉づかいこそ丁寧だが、二流である。ちょっと気のきいたマネージャーであれば、「ご順にお並びいただけますでしょうか?」と、疑問形の言い換えでお願いをする。

客にしてみれば、「並んでもらえるか」という問いかけによって、「じゃ、並びましょう」と、自分の意志で決断したものと錯覚するため、待たされても不満が出ないというわけである。

「おそれいりますが、もう少し席を詰めてください」という言い方は、客を”舌打ち気分”にさせてしまうが、「詰めていただけますか?」という疑問形にして言い換えれば、「詰める」は自分の意志になるため、舌打ちはしないのだ。

05.
いいところで話題を打ち切って
相手に懇願させる

懇願する側が常に譲歩を強いられるのが交渉であり、人間関係だ。ならば、いかにして懇願させるように仕向けるか。ここに、人間心理を手玉に取る言い換え術が必要となる。

知人のベテラン芸能マネージャーは、記事を売り込むときに「引き」の言い換えで芸能記者を手玉に取る。たとえば「うちの新人のA子だけど、実は中学時代イジメに苦しんでるんですよ」と記者に話す。記者は(記事にしてほしいんだな。小さい記事で「貸し」にしとくか)と強気になる。ところが、このマネージャーは「本人がイヤがるから、この話、内緒だよ」と「引き」の言い換えで話題を打ち切ってしまったのである。あわてたのは記者で「その話、書かせてくださいよ」と一転して懇願する側になってしまう。

「引き」の言い換え術は閉まりかけたエレベーターのドアのようなもので、思わずかけ込んでしまうのだ。

説得は「言い換え」が9割
コンテンツ提供元:光文社

向谷匡史/Tadashi Mukaidani

1950年生まれ。数多くの大物ヤクザを取材した週刊誌記者を経て、現在は浄土真宗本願寺派の僧侶。『会話は最初のひと言が9割』(光文社新書)、『ヤクザ式ビジネスの「かけひき」で絶対に負けない技術』(光文社知恵の森文庫)、『ヤクザの実戦心理術』『ホストの実戦心理術』(KKベストセラーズ)など記者時代の経験を活かした著書を多数もつ作家としても活動している。

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