アメリカ人が「小さな家」に憧れる理由とは?

近年アメリカでは、「小さな家で無駄なく豊かに暮らす」新たなライフスタイルが流行。トレーラーハウスやタイニーハウスで、自分らしく生活する文化に注目が集まっています。この流れは今後、「世界的ムーブメントになる」と予測するライターAndrew Martin氏。「Collective-Evolution」より、氏の長〜い考察を全文紹介していきます。

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19世紀初頭に思想家、博物学者として活躍したヘンリー・デイヴィッド・ソローは、1854年に『Walden(森の生活)』を刊行した作家としても知られている。彼は、現代のスモールハウス・ムーブメントの先駆けとなった人物と言えるのではないだろうか?
ソロー自身は、米マサチューセッツ州ウォールデン湖近くの小さな英国式コテージ(約3m×4.5m)に住んでいた。彼はこの狭小のコテージで2年以上過ごし、人生について熟慮し、それまでの従来の生活スタイルを大きく見直す日々を送ったという。

ソローは、当時の基準となっていた風習を次々と覆していったことでも知られている。例えば、一週間で6日働き、1日休みを取っていた。さらに、働く時間を自由に決める(フレックスタイム)ことで、彼は自身の心を明瞭化することができたそうだ。
周りの人々が、毎日ただ決められた時間を耐えながら働いているのを目の当たりにして、「大多数の人間は、静かな絶望の生活を送っている」と揶揄してみせた。
さらに、闇雲に法律や政府、社会的規範に従うようなことはせず、自分自身の良心に働きかけることに心血を注いだ。ソローの世の中に対する考え方は、まさにスモールハウス・ムーブメントの要素を表していた訳だ。

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さて、現在カリフォルニア州を拠点に活躍する、売れっ子建築家のJay Shafer氏らの登場により、メディアを中心に趣向を凝らした狭小住宅が、数多く紹介されるようになった。世間に注目されることで、新たなライフスタイルとして“小さな住まい”が、人々の間で浸透するようになってきた。
今日ネット上では、世界中の人々が小さな家に感心を持ちはじめている。その根拠となるたくさんの画像や動画、所有者たちの魅力的なストーリーで溢れている。スモールハウス・ムーブメント世間に浸透してまだ日が浅いが、きっとこの10年で、トレンドのひとつとなることは間違いない。
そんなスモールハウス・ムーブメントが、今後10年間のうちに流行するであろう6つの理由がこちら。

01.
経済

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財政危機の余波や、ユーロ危機が世界的に蔓延し、人々の財産が大きく変動する可能性がある。実際に、大金を失った人々が続出し、持ち家が差し押さえられることも。先行きの見えない不安から人々は、それぞれの生活や将来について、改めて見直すことが必要に。
長い年月かけて積み上げてきた地位が崩壊するとなれば、人々は真剣にこの状況について考えなければいけないだろう。世界規模の財政危機以来、経済は大きく低迷し、以前にも増して公的債務と民間負債は吊り上がり、ほぼ2倍近くにまで達している。

世界的大都市のシドニー、メルボルン、トロント、バンクーバー、オークランド、ロンドン、そしてニューヨークにおける戸建て住宅およびマンションの平均価格は、約1,000万ドル(約1.2億円)にまで高騰する勢い。都心部から遠く離れた郊外でさえ、およそ50万ドル(約6,220万円)を優に超える価格。どんなにいい仕事に就いていようと、ローン完済までに最低20年〜40年はかかる計算だ。
狭小住宅での生活を進める「The Tiny Life」の調査によると、アメリカで家を所有する人の割合を示している。その結果、およそ21%が30歳以下と、30歳〜40歳代で同数。ほか18%が40歳〜50歳代、そして大半を占めるのが50歳以上(約38%)ということが判明した。

02.
環境面

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人間が生活していく上で必要とする土地の大きさ(環境フットプリント)を、一人一人が意識するようになったこともあり、狭小住宅は、今後もメディアを通じて広まっていくことだろう。
また、エネルギー価格の高騰は光熱費をも逼迫することが予想され、人々はもはや、大きな家を求めなくなる時代がやってくるはずだ。タイニーハウスにかかる維持費や光熱費は、言わずもがな少なく済む。当然、建設コストも同じことが言える。

03.
簡略化

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生活を簡略化することで、景気後退の荒波を乗り越えるためのいいスタートを切ることができるはず。小さな家で暮らし、負債を減らすことで、生活を維持することが容易になるからだ。調査によると、シンプルに浪費を減らすことで、生活は向上し、幸せで充実したものになるという明るい見通しもある。
そればかりか、モノを減らすことで部屋がスッキリするだけでなく、心にもゆとりが生まれる効果も期待できる。限られたスペースしかないことで、部屋の中を最小限のモノだけにせざるを得なくなる。こうした、生活全般を簡略化されることで、衣類や家電、家具にかける金額を減らし、ひいては精神的負担も大幅にカットする結果が期待できる。あなたが所有するモノは、必要不可欠であり、必要最低限なもののみに。また、タイニーハウスの利点として、トレーラーハウスのような自動車での牽引が可能なため、旅行や引っ越しなどの移動も楽にできる。

04.
狭小住宅に住むことで
考える余裕が生まれる

1950年代、アメリカ西部では、次々と物件が増えはじめ、住居を構える人々が増えていった。広大な土地に合わせて家屋も大きいものが主流だった。アメリカやOECD(経済開発協力機構)諸国では戦後、経済が急速に発展したため、都市を郊外へと拡大していく動きが促進された。
さらには、原油を安価で仕入れることも可能だったため、郊外化は急速に広まり、消費者の動向は大きく変化することに。ベビーブーム世代は、10年前にはなかった商品、もしくは高価すぎて変えなかったモノの工業生産高が増大したため、消費も盛んだったようだ。こうして、郊外で大きな家に住むことが、ひとつのステータスシンボルとなっていったようだ。

だが、広い家のスペースを埋めるため、多くの家具が必要。アメリカ人の毎月の収入のおよそ30%が、借金やローン返済に充てられているという。オーストラリアやカナダでは、その割合は40%にも及ぶとか。
スモールハウスムーブメントに対して、なぜ反対意見が出ないかについては、こうした財政面からも納得がいく。つまり、家のサイズを小さくするだけで、生活費の負担からも解放されるのだ。

05.
幸せのレベル

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借金やローンを返済するストレスがなくなることで、人々は幸せになるのに豪華な家に住む必要がないことに気付く。1970年以降、北アメリカでは、平均的な家の大きさが約60%拡大した。広告の宣伝文句でも「大きな家に住むことは幸福の度合いが増す」といった、うたい文句が多く見受けられた。当然ながら、実際にそれを証明する根拠など何もないのに。
事実、ある調査では、家が大きければ大きいほど、掃除に費やす時間は長くなり、財政的にも精神的にもストレスが増加傾向にあった。生活の質を軽くすることで、自分の世界観を明確にする余裕ができ、生活をコントロールする力が身につき、最終的には、より大きな幸福感と満足感を得られるのでは?

06.
コミュニティー

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1950年以降、急激に郊外化が進み、通勤にかかる時間は長くなった。さらに、経済発展とともに海外旅行を楽しむ人々も増え、近隣住民とのネットワークや地域コミュニティーの絆は、年々薄れていった。それは、都心部に住む人々と郊外に住む人々の繋がりの薄れでもあった。活気あるコミュニティーが孤立し、コミュニティー自体の価値も崩壊することに。
人々は、莫大な住宅ローンを払うのに必死、それなのに贅沢な暮らしを求めるがため、何が大切かを忘れてしまったのかもしれない。それが、コミュニティーであり、家族であり、そして人間関係までもが。
だが現在、狭小スペースのコミュニティーは、どんどん活気づいてきている。このムーブメントにまだ経験が浅い人は、建築規制や計画、運搬などの未知の世界を切り開くために、周りの人の協力が必要となるから。つまり、タイニーハウス・ムーブメントは、人々が失ったはずのコミュニティーを再び取り戻そうとしている。これも、魅力の一つだと言えよう。

Licensed material used with permission by Andrew Martin via Collective-Evolution

※本記事では、一部誤りがあったため訂正を加えております(2018/01/24 12:00)

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