旅ときどき、社会貢献。大人な自分探しの旅-本間勇輝 本間美和

本間勇輝 本間美和

本当の豊かさを追い求め、夫婦二人で2年間の世界一周の旅に出る。インドで人々と深く関わる中で、ひょんなことから小学校に机と椅子を贈るプロジェクトを実施し、その感動の大きさに魅了される。その後、時々現地で旅人としてできる限りの社会貢献活動を行う旅のスタイルを「ソーシャルトラベル」と名づけ、実行。自身のブログ「ひげとボイン」に綴った。帰国後、『ソーシャルトラベル』(ユーキャン学び出版部)を出版。勇輝さんは、NPO法人HUGを設立し、東北復興新聞を無料で発行。また、NPO法人東北開墾の理事として、『東北食べる通信』の発行にも携わっている。

美和さんは、東北復興新聞の編集長を務める傍ら、フリーライターや講師としても活動。夫婦では、旅・人生・東北などのテーマで講演や大学の授業も行う。そんな公私ともに最高のパートナーと認め合う本間さんご夫妻にお話を伺った。

001 リアルを知って、常識を壊す

本間勇輝 本間美和

athlete_head_q

本間さんご夫妻は、仕事や家庭などいわゆる「安定」した生活があったと思います。それとは対局にあると言えるような「不安定」な世界一周の旅を、なぜしたのでしょうか?

 

a2

お金、やりがいのある仕事、友達、家族、当時「豊かさ」だと思っていたものは一通り持っていました。けれど、日常生活では心のままの感動、喜び、怒り、悲しみとかがなくなっていて。こんなに満足しているのに、心の奥底では何か大事なものを見失っているような気がして。それに、当時想像できた幸せな未来予想図に、爆発的な変化や成長をするイメージが持てなかったんですよね。そう考えた時に、全世界70億人分の1億人の国で、しかも東京にしか住んだことがないんだから、これまで日本社会でつくってきた常識を一旦壊さないと、私たちにブレイクスルーは生まれるはずがないって思ったんです。そんなことを二人でお酒を飲みながら話し合っていた時、自然と「旅に出よう!」って話しになって。しかも、どうせなら1年くらいかけて世界一周しちゃう?くらいのノリになっちゃったんですよ(笑)

旅に出るにあたっては、ただの観光旅行じゃなくて、そこに生活するリアルな「人」にフォーカスを当てた旅にすることにしました。常識を作っているのはいつも人だから。同時に、普遍的な人間って?とか幸せって?といった疑問を追い求めていたところがあって、その答えは、様々な宗教、地域、文化の人々と直接語り合う中できっと感じられるだろうと考えていました。だから、自分たちの価値観を基準に評価するのではなく、それらを取っ払ってゼロベースで全てを受け入れようと、それだけ決めて旅をスタートさせました。

002 価値観をシフトする新しい旅のカタチ

本間勇輝 本間美和

 

athlete_head_q

旅に出る前は、旅に特別なテーマを持っていたわけではなかった、ということですよね?それなら、なぜ、旅の途中から、現地の社会問題の解決をテーマに掲げた、ソーシャルトラベルを始めたんですか?

 

a2

そうです。旅先で社会貢献活動をしようとなんて全く思っていませんでした。むしろ、旅に出る前までは社会貢献に対して斜に構えていたところがあって。100円で何か変わるの?もっと民族とか政治とかの問題でしょ?偽善じゃん。自己満じゃん。根本解決じゃないじゃん。こういう気持ちがあって募金とかボランティア活動などはできない人間でした。

旅に出てから3ヶ月くらいは、絶景を見てもふーんって感じ、道端で現地の人と話しても楽しいけど...って感じで。期待していた、心のままの感動、喜び、怒り、悲しみを抱くような出来事はありませんでした。そんな中で、初めてワーって自分の気持ちを曝け出して怒ったり抱きしめたり号泣したりしたのが、現地の人と一緒になってやったインドでのプロジェクトでした。

インドのブッダガヤで、現地の人にある村の小学校に案内されたんです。募金に対して抵抗感があった私たちは、最初いきなり寄付を求められて拒絶してしまいました。けれど、小学校の創設者の話を聞くと、仲間で資金を持ち寄って小学校を創設し、政府からの援助は出ないから運営費は創設仲間の身銭と旅行者からの寄付で賄っていると。彼の力のこもった話しぶりとまっすぐな目に、私たちは心を揺さぶられて惚れ込んでしまって。数日間小学校に通って交流を深め、旅人として何かできないかと考えました。そこで、床に這いつくばって勉強する生徒たちのために机と椅子を贈ることにしたんですが、その感覚は、それまで私たちが抱いていた社会貢献の感覚とは違って、好きな人たちのために役に立ちたいという純粋な気持ちでした。それから大工さんが納期を守らなかったりといろいろ苦労しましたが、最終的にとても喜んでもらうことができました。

このプロジェクトを通じて、2つのキーワードが出てきました。「HOPE」と「Selfish Compassion」です。「HOPE」は、誰かの希望につながることであれば、お金でも物でも言葉でも行動でも、何でもやってみようという判断材料になりました。「Selfish Compassion」は、ダライラマの言葉で、自分勝手な思いやりという意味。この言葉は、よく酒を飲み、女好きで、スラングばかり言うくせに、自分のお金で小学校や村のための慈善活動をしているオヤジから聞いたんですよ。聖人になる必要はない。中途半端でもいい。自己満でもいい。少しでいい。一人の笑顔でいい。そんな気持ちになれた言葉。それまで抱いていた、社会的に正しいとされることを行うことに対する抵抗感が払拭されました。社会貢献活動って清く正しいことだからするっていうよりも、人として自然の行動だし、威張ることでも恥じることでもないんだって、私たちは殻を破ることができたんです。

このプロジェクトを機に、旅をしながら、時々旅人としてできるちょっとしたおせっかいをやってみようっていうスタイルができました。1ヶ月のプロジェクトも、数十分のお手伝いも、その全てが、最高に面白かった。ソーシャルトラベルは、社会問題の解決という仰々しいものではなく、自分たちが好きになった人を応援して、自分たちも成長したり感動できる、そんな新しい旅のカタチなんです。

003 ソーシャルトラベルを、普遍的な旅のスタイルへ

本間勇輝 本間美和

athlete_head_q

旅の最後にインドに戻って、ブログ読者から有志を募って、集まった人たちと一緒にソーシャルトラベルをしていますよね。その活動とその後について教えてください。

 

a2

帰国前に南米からわざわざ日本を通り越して、ソーシャルトラベルの原点となったブッダガヤへ再び向かった理由は2つ。一つは、ソーシャルトラベルを他の人とも共有したかったから。もう一つは、ソーシャルトラベルを普遍的な旅のスタイルとすることができるのか確かめたかったから。そこで、「ソーシャルトラベル合宿」と称して参加者を募り、結果、5人の若者がはるばる参加しに来てくれました。合宿の企画は2つあって、私たちが最初に机と椅子を贈った小学校で「先生になってみよう」という企画と、私たちが知り合った現地のソーシャルワーカーたちのもとで、2チームに分かれて「プロジェクトを考えて実施しよう」という企画。一方のチームは、初海外で英語も苦手な女子2人が中心となって、観光客が滅多に訪れない村でフェスティバルを開催。地元の人たちがショップを開いて、観光客を呼び集めることに成功しました。もう一方のチームは、たった1週間で現地の村に井戸と学校を作りました。さっきもSkypeで報告を受けていたんですけど、学校は今も続いているんですよ!結果的に、「ソーシャルトラベル合宿」は大成功でした。

帰国後も、そんな最高の経験をできるソーシャルトラベルを多くの方にも知ってもらいたいと思って、体験記『ソーシャルトラベル』を出版し、WEBサイトも立ち上げました。ソーシャルトラベル合宿は、その後も継続して毎年行っています。また、5000円プロジェクトと称して社会貢献を実施したい旅人に5000円を支給し、アクションを一歩踏み出すためのきっかけ作りにも挑戦しています。一回の飲み会代で世界ではこんなことができるんだよってことを知って欲しいんですよ。今はまだ私たちのプロジェクトに過ぎませんが、いつかこれが一つの仕組みになればと思っています。

004 日本にいようがどこにいようが、世界とつながっている

本間勇輝 本間美和

athlete_head_q

ソーシャルトラベルで得たもの、変わったものは何ですか?

 

a2

ソーシャルトラベルでのプロジェクトは、全て「人」との出会いが始まりでした。私たちは、現地で一生懸命に目の前の課題の解決に取り組む、ソーシャルワーカーたちに突き動かされ続けた。だから、彼ら彼女らとのつながりが、この旅で得た一番の財産です。
また、私たちは、自分のコンフォートゾーンを守るのではなく、それを取っ払って現地の社会に飛び込み続けました。そして、彼らと共に汗をかき悩みながら一つひとつのプロジェクトに取り組んだ結果、相手の目を見て真剣に話す誠実さや、誰かの幸せを願う愛の気持ちは、言葉を越えて伝わるものだと知りました。だから、現地の人たちと関わって得た全てのものが、今も私たちの中の世界で生き続けている気がします。日本にいようがどこにいようが、私たちは世界とつながっている。そんな感覚があるんです。

変わったものは、価値観。旅に出る前までは大事にしてこなかったけど、今は一番大事だと思える3つのものがあります。それは、精神性(god)・自然(nature)・コミュニティー(community)。精神性は、物やお金ではなく、宗教や八百万の神、人智を越えた大きな力をもっとリスペクトしていきたいという考えに。自然は、自然を消費の対象としてではなく、共生の対象としての意識に。コミュニティーは、家族をはじめ周囲の人たちと助け合って一緒に生きていこうっていう思いに。
代わりに、昔はとらわれていた、ステイタスとか流行とか空気を読むこととかは本当にどうでもよくなりました。たとえば、インド人やマラウイ人には、日本の常識だとか、空気を読む感覚だとかは全く通用しなかったですし(笑)

005 ダイバーシティを許容できる感覚

本間勇輝 本間美和

athlete_head_q

2年間も日本を離れて多様な環境に身を置いてみて、日本についてどのように思うようになりましたか?

 

a2

日本人はもっと日本人であることに誇りを持つべきだと思いますね。たとえば、世間では中国におされているだとか、韓国におされているだとか騒がれますけど、海外でそんなことは全く感じませんでした。まだ世界中の人は、メイド・イン・ジャパン神話を持っている。しかも、和を尊ぶ日本人は世界中の人から好かれていました。ビザが取りやすい日本のパスポートは世界最強ですしね。だから、日本人は、日本の素晴らしい部分を認識して、それをどんどん世界に出て伝えていくべきだと思います。

あとは、日本人は繊細さを失わないことが大切。大量生産・大量消費の世の中で、食べものや衣服、身の回りの物の質が落ちてきているような気がするんです。丁寧に、高い技術で作られた、日本の上質な物を一人ひとりが選んで作り手を守っていかないと、いずれ継承者がいなくなって、粗悪な物だらけの国になってしまうんじゃないかって。そういう美意識やいい物を選ぶ目や舌を持ち、少し高くてもは意識的に選んで残していかないといけないと思います。

中でも日本人に一番必要だって感じたのは、ダイバーシティを許容できる感覚です。いかに自分と異なる人に対して、本当の意味でリスペクトし合うことができるか。違っていてもしょうがないじゃん、違っていてもいいじゃんって気持ちになれるかどうか。これは実はいじめの問題にもつながっていると思います。

日本が世界に対して何かインパクトを与えることができるものを持っていたとしても、その価値を世界に広めることができる人材はまだまだ少ないんじゃないかって思います。その人に必要なのは語学力ではなく、ダイバーシティを許容する感覚、自分と違う人と協力して何かを創っていく感覚だからです。そういう人を「グローバル人材」と言うんだと思います。その感覚は日本人にはまだまだ欠けているし、国際社会で共存していくために一番大切なもの。それを育むには、とにかく外に出ること。旅でも留学でもなんでもいい。多様な環境に身を置くことなしに、多様なことをリスペクトすることは絶対にできないから。

006 遠いものを近づけると、そこには面白さがある

本間勇輝 本間美和

athlete_head_q

本間さんご夫妻は、ソーシャルトラベルの普及活動と共に、東日本大震災からの復興に取り組んでいますよね。その取り組みについてお話を聞かせてください。

 

a2

もともと、東北の復興に関わるつもりは全くありませんでした。けれど、ある素晴らしいリーダーの方と出会って、その方のお話の中に私たちの心にとても響く一言があったんです。「震災前の東北よりも、いい東北を創りたい」という。過疎高齢化に、一次産業の衰退と、震災前も東北の各地は深刻な状況にあったんだから、その状態に戻しても仕方ない。だからこれを契機に、震災前よりも素敵な東北にしていきたい。復興といっても元に戻すのではなく、そこに住む人々がいきいきとしている東北、都会に出て行った若者が戻ってきたくなるような、子育てしたくなるような東北にしたい。そう語ってくれました。私たちはそのビジョンにしびれて、「その夢乗った!私たちも応援したい!」と思ってのめり込んでいきました。

だから私たちが今やっている活動は、ソーシャルトラベルと同じ。惚れ込める人に出会ってしまったから。好きだから。ワクワクするから。やらずにおれないっていう感じなんです。

2011年11月に私たちが世界一周から帰国したときは、被災地では避難所から仮設住宅へ移動を始めていて、瓦礫は一通り片付き、ここからどう町を作ろうかというフェーズでした。そういうフェーズに何が必要なんだろうとヒアリングなどをし、3県・各町でどんな団体が何をやっているのかという情報連携がまだまだ足りていないことがわかりました。それから準備して、2012年1月から東北復興新聞を開始。新聞のことなど何もわからない状態から始めて、日々模索しながら、今も続けています。紙でもウェブでも無料で発行中の、復興活動に取り組んでいる人のための、BtoBの新聞です。こういう課題に対してこういうソリューションがよかったよ、などというよい事例の情報を発信し共有しています。東北復興新聞を通じて、ポジティブな気持ちをつなげたいから、悲しみや批判などのネガティブな情報は一切掲載していません。他にも、東北から復興という文脈ではなくいいサービスを生み出したいと考えて、NPO法人東北開墾に参加。雑誌に、特集した生産者の作った食材がついてくるというサービスで、『東北食べる通信』で生産者と消費者をつなげています。

「あなたにとって遠い存在のものを近づけてみませんか」っていうのが私たちの提案です。そう提案する理由は、ソーシャルトラベルを通じて、面白いと感じることはいつも、最初の印象と体験後の感想との間にギャップがあることに気がついたから。ギャップは大きければ大きいほど、面白さは大きい。一歩踏み出して、遠いものを近づけてみた時、近づく前には想像し得なかった面白い発見が必ずそこにあると思います。それはインドでもアフリカでも、社会課題でも、政治でも、何でもそうです。私たちも今、これまで遠いと感じていた東北や、日本の地方地域に行くようになって、神様や祭りといった精神性・自然との共存・コミュニティーづくりが大事にされていることに気づきました。2年かけて世界一周の旅で見つけた本当に大切なものは、私たちの近くにあった。今の取り組みは、旅の延長線上の活動であるだけでなく、旅で学んだことを活かす機会でもあるんです。

TABI LABOインタビューアー〈別府大河〉 一橋大学商学部2年生。海外を旅して、世界における日本の可能性を感じる。将来は、日本から海外へ、海外から日本への架け橋となり、世界中に「幸せ」を創出することを志す。2014年9月からコペンハーゲンビジネススクールへ交換留学し、そのまま休学し世界中を巡る予定。

 

TABI LABO この世界は、もっと広いはずだ。